おでかけ日和


 日曜日——。


 今日も今日とてリビングでダラダラとしている。昨日はなんの進捗も生み出せなかった。


 すると、姉がジーンズとシャツという出で立ちでダイニングへ入ってきた。どこか既視感のある光景だ。シャツは昨日と違い「I Love Chiba」シャツだが。


 もしかしてこれは、同じ一週間を何万回と繰り返す世界の改変がおこなわれているとか、死んだら前のセーブポイントまで戻る「死に戻り」の呪いにかかっているとか、そういうやつなんじゃないだろうか。


 ラノベやアニメで鍛えたふざけた妄想をしていると、姉が冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出しながら言った。


かけるの試合見に行く? 練習試合だけど」



 俺はとっても人がいいのだと思う。二日連続で誘ってくる健気な姉には、それなりの対応をしてあげたくなるのである。


 姉はモノレールの窓から外を眺めており、心なしか機嫌が良さそうだ。もちろん「I Love Chiba」のシャツは着ておらず、アウトドア感溢れる荷物に黒のノースリーブで少しカッコ付けている風である。


「なんだ、あのシャツ着ないのかよ」

「あんたバカにしてんの!?」


 フリフリの女の子という雰囲気でもないし、いっそ「I Love Chiba」シャツでもありだった気もする。ちょっとした郷土愛の発露としてさ。


 俺らは、スポーツセンターの立派な施設が立ち並ぶ中、さりげなく紛れ込んでいる私立高校の専用グラウンドに来た。普段は私立高校の部員たちがここを使っている訳だが、遠征などで空いている時は他のチームに貸し出しているのだろう。



 起きるのが遅い上に家を出る準備にももたついたので、かけるの試合は既に五回を過ぎていた。



 翔はマウンド上に立ちロジンバッグを右手でポンポンもてあそんでいる。あいつはピッチャーだから、おそらく先発でこの回まで投げているのだろう。


 両親はバックネットの近くで試合を観ているようだ。

 しかし、姉は試合をネット越しに眺めながら、三塁側の芝生に折りたたみの椅子を展開しドッカと腰を据えた。

 俺もそれに倣い椅子を開くが、肘掛まで付いている姉の椅子と比べると小ぶりで如何にも貧弱である。ファールボールが飛んできたなーと思いながら、俺はそれにちょこんと座った。


「さてと……」


 追い討ちを掛けるように姉はサングラスまでかけ始めた。それも、スポーツタイプのアレである。


「うわぁ、なんだよそれ。こっちが恥ずかしいわ」


「あっ! よっし! 三振!」


 翔が三振を奪った。恐らく外に逃げるスライダーあたりだろう。


「そう言えば、あっち側でも野球やってるね」


 姉が何気なく言うが、サングラスのせいで視線の先がすぐにはわからなかった。

 しかし、それは外野フェンスの向こう側にあるグラウンドのことを言っているのだと簡単に気づいた。


 このグラウンドの敷地は巨大な一枚の長方形であり、こちらのセンターの遥か向こうにはもう一つのダイヤモンドがあるのだ。今はそれを簡易なフェンスで仕切っているので、一応試合をするに足りる球場の体を為している。


 あちらさんは少人数であまり目立たないが、野球をやっているチームであることは間違いない。



 ——なんか嫌な予感がした。



 向こうのグラウンドの彼らは——いや、彼女らは——紛れもなく「女子」であったのだ。

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