お手伝い


 前園が振り向き目配せをする。

 本当に行くのか……。


「当然だよ」


 吉川はわざわざ二組のホームルームが終わるまで、教室の前の廊下で待っていた。

 そこまでVIP待遇にされても何も出ないし、期待しないでいただきたい。


 二年二組のある三階から昇降口まで降り、グラウンドの方へと二人に連行されていく。


「俺は何を言ったらいいんだ……」

「いいのよ、頭は大丈夫ですってくらいで」

「それだけしかないから余計気まずい」


 そこから話がどう広がるというのだろう。要件が済んだらさっさと帰ろう……。


 中庭を通り、体育教官室と校舎の間からグラウンド側へと出る。

 あの日と同じ道だ。


 しかし、二人はそのままグラウンドへは向かわず、右手の部室棟に面舵一杯。


 平屋にドアがズラリと並ぶ。


 一番手前の部室では、ドアの上のプレートにゴシック体の「野球部」という文字。

 そしてその左側に、後で貼り付けた感満載の「男子」という明朝体の文字。

 いつからこんなの貼ってあったか。

 それにしても、いささかテキトーすぎやしませんかね……。


 次にサッカー部、男子テニス部と続いていく。室内でやる運動部の部室はここにはない。


 半分から奥が女子の部室で、一番奥のドアの上に「女子野球部」と筆で書かれたプレートがあった。かなりの達筆である。


 二人はこの前でしばらく顔を合わせて目で何か語り、困ったような顔をしながら一緒にこちらを振り向いた。


「えっ……なに……」

 今度はなんだというのだろう。


「悪いのだけれど、私たち今から着替えるのよね……」


 ……そりゃそうだな。


「すまんが外で待っていてくれよ」

「へいへい」


 まあのぞくわけにもいかんしな……。


 二人は一言二言謝って、部室に入っていった。


 ドアが引かれた時に、先に来た部員と思しき女子が着替えているのを垣間見してしまったが、まあ黙っておくに限る。


 ドアの近くで待っていると次から次へと女子がやってきて、それぞれの部室に入っていく。

 どうも「なんでこんなところに男子がいるの」的怪訝けげんな目をされている気がして、堪えかねて部室棟から少し距離をとったグラウンドの入り口付近で待つことにした。


 しかし、ここにいるのもそれなりに気まずい。

 他の部活の生徒もどんどんグラウンドに入っていっては、こちらを横目でチラリと見る。


 救急車が来た時はそれはえらい騒ぎで、グラウンドの運動部やら校舎の窓から覗く文化部やら、あらゆる野次馬に注目されたので、もしかすると顔を覚えられてしまったのかもしれない。


 すると女子野球部の部室から、紺のユニフォーム姿が一人出てきた。

 ショートカットの髪で一瞬前園かと思ったが、髪の色は薄く、近づくにつれ、どうやらもうちょっとタッパがあるらしいことがわかる。


 俺の前を横切らんとする時にこちらをチラと見ると、「あっ」というような顔をしたが、すぐに目を逸らし、一礼をするとグラウンドに入って行ってしまった。


 そういうのやめてぇ…………。


 そいつの背中には"OCHIAI"と書いてある。

 よし、ヒロミツだかなんだか知らんが、覚えておけよぉ……。


 しばらくすると、やっとこさ前園が部室から出てきた。

「悪いねー待たせて。そしてさらに悪いんだけど、監督はまだ来ないからそこらへんで待っていてくれよ」


 ひどい。なんという待遇なのだろう。

 しかし、聖人君子である俺はそれでも待つことにした。


 立ちっぱなしでも落ち着きが悪いので、バックネットもどきの裏にあるヘナチョコベンチに座っていることにした。


 まあはっきり言って、めちゃくちゃ目立つ。


 集まってきた部員たちも俺を認識したのか、こちらをチラチラ見ており、「もしかして頭にボール当たった人……」というようなことを話しているのが容易に想像できる。

 つらいです……。


 彼女らは、いかにも急拵えといった感じの一塁側ベンチに道具一式を揃えて、ウォーミング・アップの態勢をとり始めている。

 普通こういう時にはダイヤモンド内を汚さないために外野を使ってアップをするものだが、ライト側にサッカー部、レフトは陸上部が食い込んでいるせいで、内野でやらざるを得ないようだ。


 そもそも内野も綺麗な黒土という訳でもないし、各塁は埋め込み固定式ではなく移動式ベースだ。グラウンドの対角線上にある男子野球部の美しいダイヤモンドと比べると、かなり見劣りすると言わざるを得ないだろう。



 するとおもむろに、ベンチから帽子を目深くかぶったかったるそうな部員が、ラインマーカーを引きずりながら現れた。


 そいつは土に埋め込まれているフサフサした紐を目印に、バッターボックスやキャッチャーボックスをグリグリと描き始める。

 ホームベース近辺を一通り引き終えると、右バッターボックスの端にマーカーを置いて、三塁ベースを見据えた。

 ファウルラインを引かんとしていることはわかるが、メジャーで補助もしていないのにどうすると言うのだろう。てか、他の人たちも手伝うくらいしたほうがいいのでは?


 しかし、どうしたことだろう。


 彼女は右手一本で取っ手を引いてマーカーを傾け、腰を落とした前傾姿勢から、猛烈な勢いで走り始めた!


 速い!


 腰の低さをキープしたまま、マーカーをガラガラいわせて風のように走る。


 三塁ベースのわずか横を通り過ぎて、余分に五メートルほどいったところで彼女はピタリと止まった。


 マーカーを担ぎ上げクルリとUターンすると、もともと正規の位置より少しずらしてあったと思しき三塁ベースを足でヒョイと線上に沿わせた。


 呆気にとられる俺を尻目に、ベンチ前の集団は何事もないかのように各自ストレッチなどをしている。

 彼女は、これまたかったるそうに石灰をボトボトこぼしながらホームへ戻ると、仰向けになってストレッチをしている一人を除き、部員たちがベンチへ撤退し始めた。


 ライン引きの彼女はすかさずスタートの姿勢をとると、一目散に一塁めがけて走り出す。

 ガラガラという音とともに、白い粉が舞い上がる。


 彼女は一塁ベースを颯爽と駆け抜けたが、スリーフィートラインが引かれるだろう近辺に取り残されていた一名がむくりと立ち上がり、顔を真っ白にしながら激しく咳き込んでいた。

 それを見てベンチでは皆爆笑である。


 一際小柄なそいつは、どうやら前園らしい。


「勘弁してくれよ!顔洗ってくる!」


 粉をまぶされた前園はベンチの横を抜けて、バックネット裏の水道へやってきた。


「大丈夫か?」

 公園によくあるような水道の蛇口をひねって、顔をじゃぶじゃぶとやっている前園に声をかける。


「まったく……目に入ったら危ないんだからいい加減にしてほしいよ」


 しかし、異常な速さでラインを引いただけではない。思わずファウルラインに垂直な位置まで移動して検分してみると、これはもう寸分たがわず美しい直線である。

 まあ、所々斑点のように粉を撒き散らしていることを除けば。


「すげぇ綺麗な線だな……だいぶこぼしてるけど……」

「ああ、あれは柊木ひいらぎ栄子えいこって言ってね。うちの優秀なライン引きだよ」


 妙なスペシャリストがいるもんだ。


 前園はそそくさとベンチへ戻ると、皆と合流し隊列を組んだ。

「ランニング!」

 掛け声は先頭の吉川が発する。

 これはもう二年にもかかわらず、吉川がキャプテンだとしか考えられない。

 もしかすると、部員に三年生がいないということなのだろうか。


 彼女らはダイヤモンドの周りを何周かすると、ライト定位置より少し浅い位置くらいで体操を始めた。

 初めての女子野球ということで、何か特別なものが見られるかと内心期待していたが、掛け声も男子とさして変わらないし、今のところ特に何も特筆することはない。


 しかし、部員たちは地べたに座ってストレッチをしていると、なぜか急にキョロキョロそわそわしだした。

 他の部員に正対している吉川に、前列の誰かが人目をはばかるように小声で話しかけている。


 いや、これには心当たりがある。まずこれで間違いなかろう。

 この現象は男女にかかわらず、他のスポーツでもあるのではないだろうか。

 すると、皆一斉に立ち上がり、吉川はくるりと一塁ベンチ側へ振り返る。

 我が意を得たり。


「気をつけ!礼!」


 お願いしますとの声が響く。

 ベンチ横のネットからは例の顧問の高……なんとか先生が入ってきていた。

 先生は挨拶を受けると、自らも帽子をとって深々と頭を下げた。


 指導者の中には、選手に一方的に「礼儀正しさ」を要求して、自分はふんぞり返っているようなやつとかいるが、少なくともこの人はそうではなさそうだ。


 吉川はすぐさま先生に駆け寄ると、少しばかり話をしてから俺を呼んだ。


「ノボさん!」


 いやー、早くもナチュラルにその呼び方をするよね。


 仕方なくベンチの方へ走って行く。こういう時に駆け足で移動するのが野球部の流儀さ。


 とりあえず簡単に挨拶をすると、早速「頭」について聞かれた。


「どうかね、頭の具合は。ん? この言い方だと違う意味に聞こえるな。アッハッハ!」


 自分で言って自分で、それも豪快に笑っている。

 あれ?こんな感じの人だっけ……。


「あ……全然大丈夫でした」

「そうか、それはよかった。それなら、せっかく来たんだ。ついでに見ていくといいぞ」


「は……はあ」


 さっさと帰りたくてしょうがないのだが、そう言われて無下むげに断る訳にもいかない。


 連中は各種ダッシュメニューを終えて、キャッチボールに入っている。


 しかし、心なしか先生が来る前よりピリッとした緊張感があるように思える。

 隣でさして面白くもない話を一方的にしている姿からは想像がつかないが、部員たちにはそれなりに権威ある存在なのだろう。


 ちょっとばかり話の弾幕に切れ間ができたので、こちらからも何かしらの応射をせねばという義務感に駆られ、ひとつ尋ねてみることにした。


「吉川は二年生ですよね? なんでキャプテンをやってるんですか?」


 すると先生は真顔でこちらを向き言った。


「二年がキャプテンやっちゃいかんのか?」


 一瞬空気が張り詰め、逆鱗に触れるようなことをいってしまったかとたじろいだが、先生はすぐににっこりと表情を崩した。


「三年生はいるんだけどな、彼女が一番人望が厚いのだよ」


「そうですか……」


 はっきり言って何もわかっていない生返事だった。



 キャッチボールは遠投に差し掛かっている。

 やはり男子と比べると距離は短いが、その中でも強肩の男子に、文字通り比肩ひけんしうる逸材がいる。

 彼女は一塁線側の人たちと違い、レフト側に下がっているが、振り返った時の背中には"OCHIAI"の文字。さっきのやつか……。

 ざっと八十メートルは投げているのではないか。相方がキャッチャーミットを持っていることを考えると、こいつらはバッテリーで落合はピッチャーなんだろう。


 すると、そのとなりにいるやつもジリジリと後退していき、ほぼ同じあたりでノーバウウンドスローで投げ始めた。落合がややスリークウォーター気味なのに比べ、こちらは所謂いわゆる本格派とでも言うべきオーバースローである。


「どうだね、すごいだろう?」

「ええ、驚きましたね」


 どちらのことだろうと思ったが、きっと二人ともだろう。


市立市立のウチには信じられないような人材が揃っているよ。才能だけじゃない。ほんとに野球をやりたいってやつらがな……」


 男子の場合、市立の高校が実質的に良い選手をスカウトするということはあるが、そこそこ偏差値の高いこの高校はどうなのだろう。まして女子野球だ。スカウトなんざさらに難しかろう。


「この部は創立二年目なんだ……」


 唐突に先生が言う。それでは去年できたばかりではないか。

 それでこのクオリティなのか。なぜ部が突如できたのか。三年生はどうして入ったのだろう。

 聞きたいことが山ほど浮かんだ。




 しばらくするとバッティング練習が始まる。


 これは主に二人一組で行動するようだ。

 英語ならペア……いや、カップル……?

 なにそれちょっと百合百合しい……。


 部員はちょうど十人なので余りは出ない。


 三塁側ファウルエリアにブルペンがあるが、ネットで四方を囲われているため、俗に鳥籠とりかごと呼ばれるバッティング練習用の場所を兼ねている。

 しかし、ピッチングマシンは保有していないようで、投手防護用のL字ネットを置いて相方が球を放っている。

 他の面子は、ホームベース少し後ろに一塁側から三塁側にかけてワイヤーの張っているカーテンのようなネットを引き、そこに向かってティーバッティングを行っている。持っているのは、少し重めの竹の接合バット。

 鳥籠の使用権は、一定の球数を基準にした順番制らしい。続々と入れ替わっていく。


 なぜグラウンドを広く使ってフリーバッティングをしないのかと言ったら、それはもう外野がサッカー部やら陸上部やらに完全占拠されてしまっているからである。


「これまでは、あのカーテンネットとバックネットの間でも、ピッチャーが投げてバッティング練習をしていたんだがな。君の一件でできなくなった。あの後、上の人からえらく怒られてなぁ」


 いやいや君は悪くない。気にするなよ、と先生は笑うが、気にするに決まっている。


「それで、今度バックネットからホーム上方にかけて天幕のようなネットを設置することになった。それまでその練習は中止。また予算がバカにならんのだよ」

 まったくこの件について気を揉んでいる素振りもなく、能天気に笑う。


 それにしてもこの先生はちょっと変わっている。

 それでもこの人が来たおかげで練習の雰囲気もピリッとしたのだから、まだまだ知らない何かがあるのかもしれない。

 

 しかし、あるペアが鳥籠を使い始めた時に異変が起きた。


 比較的背の高い選手が右打席に立っているのだが、そいつがスイングをする時に何やら奇声を発している。


「グワッキャラゴワキーン!」


 えーっと……。


「先生……あれは……」


 先生は苦笑いして答える。


「あ、ああ。あれな。ははは……。入った時からあんなんなんだ。きっとマンガにでも影響されたんだろう」


 先生はそのままベンチから出て行くと、選手への技術指導を始めた。


 鳥籠のタッパのあるやつは、相変わらずグワラゴワキーンなどと意味不明の音を発している。あれは打球音のつもりなのだろうか……。

 しかし、その打球は現に鋭く、効果音には負けていない。

 ぜひフリー打撃でその飛距離を見てみたいくらいだ。

 

 打撃練習を終え、片付けに入る。

 部員たちはボールを拾いカゴに入れ始めた。

 ここでボケっと見ているだけというのも、多少居心地が悪い。


「先生、片付け何か手伝いましょうか」


「おお、そうしてくれると助かる。あのネットを引いてフェンスにくくりつけてくれ。紐がついているからそれで結んでな」


 やらなくていい、などとは言わず遠慮なく頼んでくるあたりが気持ち良い。


 俺はすぐにカーテンネットを引いて、フェンスから伸びている紐でくくりつけた。

 これを引くと、ホームベースの後ろあたりにネットを引きずった跡ができてしまう。


 これはいけない。


 すぐさま三塁側の倉庫の横にあるトンボを勝手に拝借して、土を均すことにした。


「ふむ……いい気づきだ…………」


 先生が何か勘付いたように言葉を投げかけてくるので、適当に「どうも」と言っておいた。


 それにしても、俺がグラウンドに足を踏み入れてせっせと働いているせいで、皆口には出さないものの、「あいつ誰なの?」感が蔓延まんえんしている。

 認識していても、いないものとして扱われている様は、まるで禁忌である。


 次のメニューは既に伝達されているのか、片付けをしながらも、そこそこ良いボールの入ったカゴとノックバットがホーム付近に用意された。おそらくシートノックかなんかだろう。


 しかし、先生も準備を一緒にやるたあ珍しい。

 普通は、指導者はベンチに足組んで座って待っているものである。


 俺は用意よしになったことを確認して、目立たないようにそそくさとベンチへ戻った。

 


 先生は選手を集めてなんやら話し、吉川の「シートノック!」の掛け声と共に皆各ポジションへ散っていった。


 しかし、外野に行くやつがいない。


 いや、正確には外野は使えないのだ。


 バッテリーまでつけて十人の内野。

 他は均等に分かれているが、キャッチャーとファーストだけは一人。

 キャッチャーなんかはもう一人くらい控えがいた方が安全だろうに。十人だとそんなこともなかなか言っていられないのだろうが。


 シートノックはバックホーム、一塁送球、ダブルプレーと進んで行く。

 どうやら吉川はショート、前園はセカンドらしい。

 あの変な奇声を発していたやつはサード……。やたら肩は強そうである。


 しかし、吉川と前園のフィールディングは想像以上のセンスを感じる。

 決してハーフバウンドにしない一歩目の速さがある。


 そして、ボールをグラブの土手のほうに当てたと思った瞬間に握り替え、捕球後も腰の低さを保ったままの安定した送球をする。


 特にセカンドゲッツーの際の二遊間の身のこなしは、明らかに普通の男子のそれよりも素早く華麗であった。



 しばらくするとボールが一塁の横のカゴに溜まってきた。


 しかし、先生のバットさばきによってノックは次から次へと進行し、おまけにバント処理の練習まで始まってしまったものだから、誰もカゴをホームへ運ぶ余裕は無さそうである。


 ベンチからグラウンドに足を踏み入れ、一塁を守っている左投げの背の高いやつに聞く。


「これ、ホームまで持って行きます?」

「ああ、うん、お願い」


 感謝してないってこともないんだろうが、打球や送球の処理に必死でこちらをちらりとも見ず、生返事といった感じである。


 まあ、役立たずが立って見ているだけではしょうがないので、少し手伝ってやることにする。


 もう一つの空カゴを代わりに置いて、たんまりボールの入ったカゴを持つ。


 うっ……重い……。


 腕の力だけでは持てず、少しそっくり返りながら運ぶ。てのひらも痛い。


 やっとこさホームに辿り着くと、球数残りわずかになっているカゴの隣あたりにドシャッと置く。


 すると、先生がフォーメーションの指導をしている隙に、キャッチャーがこちらに寄ってきた。ヘルメットを少しずらすとサッカーでよく見るようなヘアバンドが覗く。


「ありがとう」


 なんということだろう。それはもう花のような屈託のない笑顔で礼を言われてしまった。


 これまでみんなから腫れ物に触るように扱われていたので、久々に人の優しさに触れたような気がする。


 女の子から笑顔で感謝されるなんて、なかなかどうして素晴らしいものである。

 もう、昇的に超ポイント高い!

 ちょっと浮かれたがゆえに、バント処理の間に思わず三、四回は本塁一塁間を往復してしまった。

 




 なんだかんだ疲れた……。


 練習終わりのグラウンド整備まで手伝ってしまい、最早部員であるかのように自然に溶け込んでいた。


 練習終わりのミーティングを、少し距離をとって私は部外者ですよアピールをしながら眺める。


「ありがとうございましたっ!」


 終了の挨拶で適当に頭を下げてやり過ごすと、先生が声を掛けてくる。


「お疲れさん。なんか色々手伝いまでしてもらって悪かったな」


 少しも申し訳なさそうではないが、まあ良い運動になったし良しとしよう。


「なかなかの手際だったじゃないか。おかげでかなり円滑に進んだ。よかったらウチに入るか?」


 冗談めかして言う。


「い、いえ……さすがに……はは……」


 ここは日本人らしくお茶を濁す。

 君子危うきに近寄らず。ん、ちょっと違うか。


「そうかー、この通り人手が足りないからなー。マネージャーでも良いから誰か入ってくれると助かるんだがなー」


 本当に俺に入って欲しいのかはともかく、人員不足なのは嘘ではなさそうだ。


「せっかくだし、明日からの新入部員の勧誘を手伝ってくれないかしら」

「明日は入学式だから、早速勧誘を行うのだヨ」

 吉川に続いて前園が人差し指をピンと立てて言う。

 なんでこいつらはいつもセットなのか。


「いや、しかしだな……」

「できたらでいいからサ。詳しいことは明日教室でー」


 二人は、じゃあまたとか言うと、先生に一礼、グラウンドにも一礼をし、他の部員達と一緒に部室へ入っていった。


「ありがとう。じゃあ、よろしく頼むぞ」


「え、ええ……がんばります……」



 なんだかドッと疲れがきた……今日はモノレール使って帰るか……。

 

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