桶ひとつ [架空・歴史物]
勝敗は
月の光とて届かぬ
追っ手の目を逃れるため、火を
「
兼光は少しの思案顔の後、渋面に直って、
「殿」勝顕は血相を変えた。「勝敗は時の運。ここを忍んで捲土重来を」
「事を
「
兼光は身体を起こし、
「無理の神崎と言われたわしの、最後の無理難題を申しつける。勝顕よ、わしのこの身体はここで焼け、誰にも渡すな。そして首は……」ぴしゃりと自分の首を叩く。「お初に届けてやってくれい。少々、欲を張りすぎた。いつかのような夫婦二人の暮らしを、あのまま選んでおればと、悔いておらぬでもない……と謝っておった、とな」
神崎兼光、
平伏していた勝顕は、声なき声に呼ばれたように顔を上げ、そして泣いた。この一年が刻みつけられた凶相を崩して泣いた。
初の唇は、お帰りなさい、と告げていた。
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