運命は三角のコインと踊る [SF]
恒星間シャトルシップの搭載酸素量は、いまや一人を四日間、生かす分のみとなった。補給衛星までは二週間あまり。その途次、他の船影なし。乗員三名全員が無事に帰り着くことは、どんな計算をしても不可能だった。突発的宇宙風乱流がもたらす事故の帰結として、ありふれてこそいないものの、船乗りの誰もが想像の内に入れている結末であった。
「どうしても犠牲が必要なようだ」通信機の修復を諦めた船長が、つぶやくように言った。
「やめてください、諦めずに方法を探すんです。全員助かる方法を」
「
間髪入れずに断言したイアンを、クリスがにらみつける。イアンは素知らぬ顔で、お守り代わりにしているイスキア星の三角錐貨幣を低重力に漂わせて遊び始めた。重力制御ユニットは、0.3Gまでしか重力を保持できなくなっている。
クリスは船長に向き直り、言った。
「
「そいつは無理だな」と船長より早くイアンが答えた。「うちの
クリスが激発して立ち上がった。勢いが強すぎて軽く宙にジャンプしながら彼は言った。
「ならどうすればいい! 酸素が一人分もないこの状態で、二人が
「
船長が「大統領の顔」と言った。イアンがコインのその面を確認した。ついでイアン自身が「テラス山脈」と言って、山の模様をクリスに見せた。
クリスは黙り込んだあげく、苦しげに「惑星連邦のマーク」と言った。
「残った面が出たらやり直し。恨みっこなし」
イアンはコインを親指で弾き上げた。正四面体のコインは、低重力の中をきりもみしながら上がっていった。やがて上昇はゆるやかになり、一瞬止まり、今度はゆるやかに落ちていく。張り詰めた空気を乱さぬ程度に遅い回転の中、コインに彫られた意匠が、三人それぞれの目にも見えていた。コインがゆっくり回転するごとに、三人の運命がくるくると回っていた。そして、コインが床に落ちる音までもがゆっくり、
《 了 》
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