素材と食材の問題
それは大災害が始まる前2年ほど前、それは11番目の拡張パック<錬金術師の孤独>が追加された時の話である。
「貴也ー。なんか拡張パックの詳細が出てるよー。」
「……えーと、何々……新幻想級アイテムの追加、新秘宝級シリーズ『神器シリーズ』追加、新素材T9の素材アイテムの追加か……となると制作級もついにレベル90の装備が出てくるのか……。」
ぶつぶつと呟きながらたかやは装備の詳細を調べる。
「……今回レベル上限は上昇させません。となると今回は装備やアイテムを充実させる拡張パックか。まあたった1年でレベルキャップを上昇はさせないか。」
そう言いながらたかやは装備品の目録を覗き見る。
「……名前とCGとフレーバーテキストだけを先行公開して能力とかは非公開か……ま当然と言えば当然だな。公開したら一気にオークションが始まってしまうからな。」
「たかやみたいな廃人は、武器の性能ばっかりしか見ていないからねー。」
「俺は廃人じゃないって。武器の性能優先なのは当然だろ? 基本だって基本。
だけど『神器シリーズ』とはアタルヴァ社も、もうそろそろネタが無くなってきたんだろうなー。
これから先、どんなアイテムを出すつもりなんだ。」
「過去のアイテムに+とかつけて出すんじゃない?」
「そうか、その手があったか!」
MMOの宿命として、レベル上限が増えれば前の時代のアイテムは少しずつ時代遅れになってくる。
これがオフラインゲームであるのなら、一定の上限を作成する事が可能なのだが、MMOにおいては、次の拡張パック、さらに次の拡張パックと言う事を考えていくと、何か強そうな名前を付けていく事はコンテンツ自体を食いつぶす結果にしかならないのだ。
そうならない為にも運営は色々とがんばっているのだ。
「錬金術師ってつくからには、何か錬金術関連の素材アイテムがでるのかしら?」
「出るかもしれないが……食べておいしいのかこれ?」
そこには、『究極の料理! 破邪五行料理!!』と言う料理が載っていた。
「……見るからにまずそうだよね……。」
そのどろどろの虹色スープを見ながら、二人は嫌そうな顔をする。
「ステータス上昇値に全部割り振ったって感じだよな。」
<エルダー・テイル>の料理アイテムのうちレベル50以上の物は全部ステータス上昇用消耗アイテムと考えていい。
それ以外は全部まったく同じ、名前と基本素材だけの違いだったりするのだ。
「というか、もうこれ料理じゃねえだろう。」
「食いたくないわねー。」
「ていうか、画面の中の代物は食えないだろ。」
約2年後、これを泣きながら食べる事になるのは、二人には理解できない。
さて、何でこんなまずそうな料理が出てきたのかと言うと……その実『ネタが切れた』のである。
11回のアップデート、13サーバのそれぞれの積み重ね……ハンバーガーやおにぎりと言った、世間的な食事はもちろんの事、ドラゴン肉のステーキと言った架空の食糧も追加していった結果……ネタがなくなった。
『乗せただけ』『名前に高級がついているだけ』『素材を変えただけ』はまだましな方で、『ブロック食』『材料に食材アイテムを使わない』『謎の物体』『光る』『動く』『ステータス上昇と下降がセットになっている』などなど、それこそレベルが上昇すればするほど謎のメシマズ料理が増えていくのだ。
一般の料理も追加されていく事は追加されていくのだが、流石にそれを高レベルの料理アイテムにはできない。
高級カレーライスとかならまだしも、普通のライスカレーを高レベルの料理アイテムにはできないのだ。
そして、一度追加された料理のレベルを上げるのはもっとできない。それはプレイヤーを飽きさせる一つの要因になるからだ。
かくして……メシマズ高レベル料理は追加され続け、もう追加する方も自棄になってるだろうと言う料理が増えているのだ。
「………まあ、これは恒例行事だ。諦めよう。」
「恒例行事だよね……。」
さて、<エルダー・テイル>で料理を作るのはとても簡単……料理スキルを手にして、材料を集めてコマンドでポンとするだけで料理が出来上がるのだ。
しかしこの時、色々と素材の制約などが存在するのだ。
色々とややこしいのだが、素材についてこの程度の事を覚えておけばいい。
素材アイテムにはランク(現状、T1~T9まで存在する……次の拡張パックではT10が追加されるはずだ。)と幾つかの『タグ』がついており、そのタグごとにできる料理が変わってくると言う事だ。
例えばわかりやすく肉じゃがシリーズで説明しよう。
一番低レベルな料理の『肉じゃが』。これは『肉』『ジャガイモ』『醤油』の3つのアイテムで作られる。
この時、肉はどんな肉でも良いし、ジャガイモも『まおー様の馬鈴薯(普通に手に入る、T2)』『バロン・ポテト(ポテトモンスターが落とすドロップアイテム、T5)』『伝説のジャガイモ(レイド級モンスターが落とすレアドロップ品、T7)』のどれを使っても構わない。醤油も同じだ。そしてまったく価値が同じになる。ジャガイモには全て【野菜】【ジャガイモ】タグがついており、野菜を素材とする料理に使う事が出来るのだ。
それよりさらに上級の『高級肉じゃが』になると、ランクの低い素材が使えなくなってくるのだ。肉についてもある一定以上の素材でないといけない上に、ジャガイモも『まおー様の馬鈴薯』が使えなくなるのである。
最高級の『スーパー肉じゃが』になると、能力値上昇効果がつき、仕様素材も『ギガオックスの肉』『伝説のジャガイモ』『伝説の醤油(T9)』と高級素材を使って完成するのだ。
さて……上で色々とタグの事を書いたのだが、この時とんでもなくむなしい事が起こる。
例えば野菜サラダ【野菜】×4、【調味料】×1と言うシンプルな料理なのだが……この時『まおー様の馬鈴薯』を4つと『カレー粉』×1で完成してしまうのである。
見た目はきちんとした料理だし、使用時には何の問題もないのだが、ジャガイモ要素は一切なくトマトやレタスなどの『一般的な』料理ができてしまうのだった。
「……それは色々と大変よね。素材は価格が少しずつ変わっていくし、どれが儲かりやすいか考えるのが面倒そうだし……。」
「それは問題ない。そんな事もあろうかと俺達は素材アイテムの値段と販売アイテムの値段を監視して、どのアイテムがどれぐらいの儲けを出すか計算するソフトを作ったのだから。」
「……ねえ、たかや。貴方はやっぱり廃人だわ。」
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