プロの問題

料理屋『焼肉とんすとん』アキバの料理人の中でも十指に入ると言われている<料理人>だ。

レベル90の腕もさることながら、肉の事を知り尽くしたようなその料理に魅了される人間は多い。

そんな彼の店には冒険者が沢山……ではなく少々怪しい人間も沢山店の中で彼の料理を盗み見ている。

彼らは大地人の<料理人>だ。それこそ自らの生死……<料理人>人生が関わってくるため彼らも必至だ。

鍛冶屋や裁縫師はまだ低レベルでもそれなりに食っていける。鍋や包丁、服や皮鎧などコマンド式でも作れるものは多数存在するし、修理の手間を考えればコマンド式の方が便利だからだ。

例えば、手作業で短剣を作ったとしよう。そうなると修理も手作業でやらねばならず恐ろしく時間がかかるのだ。

また手作業で鍛冶ができない場所に行った場合、修理ができないと言う事態が待っているのだ。

これがコマンド式で作ったものなら材料を用意してすぐに作成できるのだ。

旅人などは手間なども考えてコマンド式で作った物を好んでいる。

しかし<料理人>は違う。能力を強化するようなレベル45以上の料理人など大地人では数えるほどしかいない。

しかし、そこまでの料理スキルがあったとしても、冒険者は基本、仲間を連れていくのが基本になるだろう。

そうなると大衆向けになるがそうなると今度はコマンド式だと料理に味がついていない。

そんな料理は誰も目を向けないし、誰も買わない。

だからこそ貴重な時間を費やしてでも<料理人>は他の料理人の料理を見て様々な事を学ぶのだ。

有名な料理人の店にはそれこそ金を払ってでも技術を盗みに行くし、あの伝説の料理人……240年の齢を重ね、最も古い料理人の1人でありながら、最も新しい料理を一番初めに実行した猫人族のにゃん太のイベントがあればそれこそ家財道具を売ってでも参加するだろう。


「流石本職よね。」

そう言ってドラゴンナックルがおいしそうに焼肉を食べながら店長であるとんすとん店長(これが名前)に声をかける。

天の世界においても同じ職業をしていた人物の事を暗喩してそう言うらしい。

大地人達はそう認識していた。

「でも、ちょっと疑問なんだけど。<大災害>の後、なんで自分の手で料理しようと思わなかったの??」

その言葉に<大地人>達がちょっとした驚愕を覚える。

「そりゃお前……あん時は物は手で加工すれば全部ぶっ壊れるって言う噂が流れていたし、俺にだってプライドがあらあ。」

「プライド??」

「考えてみろ、自分が手で作った料理が消し炭になったりしたら、俺の料理人人生は何だったんだってなるだろ?

 それが嫌だったんだ。」

料理人のプロとしてその料理を見た限り、焼き方や火の強さには問題は無かった。そこにまさかゲーム内の料理スキルと言うものが必要になるなど一切考えつかなかったのだ。

「………ま、料理スキルが必要とわかってからは色々とこうやって肉の調達とかを頑張っているんだけどな。」

そう言いながらとんすとん店長はハンマーを取り出す。

(((なぜにハンマー???)))

大地人達は一斉にその謎の行動に驚愕を行う。ハンマーは大工に使う道具。料理にボーナスなど与えるはずがない。

しかし、とんすとん店長はそれを気にすることなく肉をハンマーで叩きだす。

「………まだ固いな、どうしてドラゴンの肉ってのはこう固いんだろうね。」

「レベルの問題じゃない?レベルが高ければそんだけ肉質も硬くなっていくんじゃ……。」

「確かにそんな傾向はあるな。ま頑張って柔らかくしてみるさ。」

(硬い肉を叩いて柔らかくするのか……。)

(まさか工具まで使うとは……。)

その行為に驚く大地人。彼らにとって料理器具は料理器具、工具は工具であり、まさか工具を料理器具代わりに使うとは思いもつかなかったのだ。

なお、彼らは料理人しか料理ができない事に一切の疑問を抱いていない。料理には料理スキルが必要ということは必然の事であり、それ以外の人間が料理できるはずがないのだから。

そう言いながらもとんすとん店長は、フライパンを取り出し肉を焼き始める。

(あっ、料理道具も使うんだ。)

(私はてっきり丸鍋を使うのかと思ったのだが……違ったのか。)

肉も焼き上がり、ドラゴンナックルの前に出される。


(付け合わせは………。)

(匂いは一体何を使っているんだ……。)

こうして料理人たちの飽くなき挑戦は続くのであった……。

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