歴史書の問題 その1 <六傾姫>
歴史書。それは<大災害>前はキーアイテムの一つであった。
特定の場所に持っていく事で、その歴史書に乗っている過去に関するクエストが発生したり、場合によってはレイドイベントのカギだったりするアイテムであった。
それらのアイテムは、ダンジョン奥に入っていたり、貴族の屋敷に保管されていたりとかなり特異な場所に保管されているのだった。
また、使用する事でその中身を一部読むことができた。もっともネトゲプレイ中に長々と呼んでいる時間は無かったので簡略化された短い文章と簡単に動くだけだけだったが。
「何でこんなに種類があるわけ?? しかも、分類しても分類しても新しいのが出てくるし!!」
ドラゴンナックルはヘルプで入ってきた歴史書の分類に頭を悩ませていた。
「そりゃあなあ……20年分(現実換算)×全世界の歴史だぜ。今の今までアタルヴァ社が厳選していたのが、全部出てきたんだからなー。」
たかやも頭を抱えつつ、書物のアイテム名を見ながら1冊1冊分類をしていく。
歴史書は一般的なスクロールとは違って、ハードカバーの硬い書物で作られている。
しっかりとした頑丈さと、それに見合った耐久度と重さを持つ歴史書は、それなりに高いレベルの筆者師がいなければコピーできない。
しかも中身がきちんと書かれている為、読むだけで相当に時間がかかるのだ。
まあ、手書きの書物と違って、自動的に翻訳してくれたり、書かれている絵が説明としてわかりやすく動いて描かれたりと謎の技術が大量に埋め込まれており、技術レベルの謎のせいでこの世界はやっぱりゲームの中だーと騒ぐ冒険者達が増える事になったのだった。
「…これだけ多いとどれがキーアイテムなのかさっぱりわからないわよね。」
「とりあえず地域ごとに分類だ。それから年代ごと、種類ごとに分けていくんだ。話はそれからだな。」
一通りの分類が終わった後は、休憩だ。
「……疲れたー。」
「まあ、こんだけ色々とあったもんだ。とりあえず暇つぶしに読んでいくか。」
そう言いながらたかやは無数に本が収められた図書室の中を歩いていく。
2人が休憩していると小さな少女を連れた老人が、カウンターで何かを相談していた。
「そうじゃ、六傾姫(ルークインジェ)についての歴史書が無いか知りたいんじゃが……。」
その言葉にカウンターの人員がリストをパラパラとめくりながら調べる。
「申し訳ありません、調べてみたのですが、六傾姫の情報については歴史書が残っていなくて……。」
「ヘッジホッグさん。お久しぶりです。六傾姫についてですか?」
そう言ってたかやはその老人に声をかける。
「そうじゃ、ちょっと気になってのう……。」
「こちらもないですよね。六傾姫については、本当は存在しなかったんじゃないですか?」
「………(←)」
その言葉に老人のつれていた少女がぽかんとした表情でたかやを見る。
「大体後付設定なのに、ぎょーぎょーしく設定されて、その実シナリオに一切かかわってこないから多分今の戦闘系ギルドの中で六傾姫について知ってる人はあまりいませんよ。」
シロエが始めリ=ガンから話を聞いたときに六傾姫の正体を知らなかったのはこれが原因だ。
「そっ、そうじゃな。しかし、そんな事はあまり大地人の前で言わん方が良いじゃろ。」
「………そうですけど、生きていたとしても相当過去の人間ですから、もう死んでる可能性だってあり得るわけですし。」
「………(←)」
「まあ、そういう事ならわかったわい。」
「ねえ、ひとつ教えて。」
つれてきた少女がたかやに声をかける。
「なんで、<第一の森羅転換>の前に作られた歴史書は無いの?」
その言葉に一同が固まりつく。
たかやはその答えを持っている。何故ならこの世界の歴史が始まったのはその<第一の森羅転換>が始まってからだからだ。
だからこそ、その前の歴史なんてないし、森羅転換の前に作られた歴史書なんてのは一切ないのだから。
「それはだな……えーとあーと……。」
幾つか言い訳を考えるが、それは思いつかない。
「わからないときは、わからないって言えばいいのよ。」
困っているたかやの後ろからドラゴンナックルがフォローを行う。
「…………私がいたときに、<歴史書>なんてあったっけ……。」
そうナギがぼそりと呟いた。
だがその言葉は誰の耳にも届かなかった。
ギルド、ログ・ホライズンのギルドホールにて二人の男達が話し合っていた。
金髪の少年と黒髪の青年だ。
「なるほど、<第一の森羅転換>の前に書かれた歴史書が存在しないとそれは何故かと言う事ですね。」
「その通りだ、ルンデルハウス、何か知らないのか??」
ルンデルハウスと言われた金髪の青年が少し腕を組んで考える。
「ミスター・シロエ。これは僕の推測になりますが。
<第一の森羅転換>の時は、それこそ命をかけた戦いが続いていました。歴史書を紙の状態に戻して魔道書に変えたのではないのかなと思います?」
「歴史書を魔道書に??」
完成したアイテムを分離して素材アイテムに戻すと言う職業が無いわけではない。そう言うことであれば確かに矛盾はしない。
「あり得ない事ではないと思います。歴史に伝えられる暗黒時代は数だけで言えばあのゴブリンとサハギンの連合軍の数を上回り、目の前で復活していくと聞いたことがあります。」
(……それはリスポーンが地面に設定されていたからではないのか?)
そのあたりの事は突っ込みを入れずにその様子を考える。
「……あくまで僕の意見ですが。」
「いや、十分だよルンデルハウス君。そのあたりの考えはちょっと思いつかなくてね。」
シロエはそう言って、ため息をついた。自分達はどうも向こうの世界の常識で考えすぎている面が強い。
少しはこちらの世界の考え方を考えないと。そう思いながら、シロエは空を見上げた。
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