加工器具の問題

「これどうやって使うのよっ!!」

「……知るか。」

何名かの冒険者達が巨大な謎の装置の前でわいわいと騒いでいた。

今の今まで散々使っていたのだったが、今更になって何故騒ぎ出したのかと言えば。

「コマンド式の時は勝手にやってくれたのに!!」

そう、つまりはそう言う事である。


彼らの目の前にあるのは『魔法の溶鉱炉』重さ2トン、価格にして1つ約金貨10万枚。作成にはレベル70の機工師が作るマジックアイテムだ。

『使用者の思った通りに金属が加工できる、魔法の溶鉱炉』というのが売りの巨大アイテムだ。

その能力は、ゲーム時代においては鍛冶屋技能をサポートしてくれるアイテムだった。

料理人の『大収容キッチン』、木工職人の『万能木材カッター設備』、裁縫師用の『魔女の洋服ダンス』などなど、巨大ながらも、高レベルのサポートをしてくれるアイテムは多数存在した。

重くて高価ながらもこれらのアイテムはとんでもない補正を与えてくれるのだ。

<エルダー・テイル>においてこれらのアイテムは付属の箇所に立つだけで様々なサポートが得られるようになっていた。

<大災害>直後は手料理法の発見前までは単なるでかいサポート装置だと思われていたのだが、まさか実際に動かせるとは誰も思わなかったらしい。

しかし手料理法の発見以降、これらの巨大アイテムも使ってみようと活動が開始されたのだが、ここで大きな問題が一つ出てきた。

料理人の『大収容キッチン』はともかくとして、他の設備はどう使えばいいのかさっぱりわからなかったのである。

『大収容キッチン』には包丁や鍋もついていて、コンロもガスを使わずに自由に使えた。

何やらおかしなことを書いている気もするが、使えるのだからしょうがない(後で調べたら、魔力結晶のような物がキッチンの下についていたらしい。)。


ああでもない、こうでもないとやっているうちに彼らはふと『魔法の溶鉱炉』のフレーバーテキストに目を落とす。

『使用者の思った通りに金属が加工できる、魔法の溶鉱炉』。

『思った通りに』『思った通りに』『思った通りに』

やがて、彼らは黙り込むと、一人の男が代表として、精神を集中しながら溶鉱炉の前に立ち、溶鉱炉の中に平らな鉄板を入れる。

じりじりと長い時間が経過していく間中男がはさみを使って鉄板を取り出す。

「やった!!」

「やったぞおおおおおおお!!」

平らだった鉄板は筒状になり、きちんとしたパイプになっていたのだった。

「やっぱマジックアイテムってスゲー。」

「この調子なら色々作れるぞ。」

一つの成功に湧き上がる面々だったが、彼らはまだ知らなかった。

現状ではセンチ単位でのずれが存在し、設計図が無ければミリ単位の制御など夢のまた夢であることを……。


少し離れたところで休憩していたメンバーが上を見ながらぽつりと呟いた。

「しかし、なんだってアタルヴァ社はこんなアイテムを作ったんだろうかねえ……。」

「……絶対、睡眠不足の中作ったんだろうな。」

そこには巨大な腕が腕組みしたまま誰にも触られずにポツンと存在し続けていた。

レベル90の機工師が作るアイテム『巨腕の鍛冶師』だ。

ぶっちゃけるなら、サポートとしてはこちらがはるかに高いレベルに存在する。

しかし、巨腕を動かしたところでできる事は限られており、現在では何か使えるかもしれない為におかれているのが現状だった。

「……いや、絶対にネタ切れだな。」


今回の独自設定

巨大生産補助アイテム

重さ1トン以上5トン以下の家具系アイテム。持ち運びには複数人の協力又は特殊な馬車が必要。

レベル70以上の生産系スキルが必要であり、使用する材料の量や値段からすれば小さな生産系ギルドが1つか2つもっている程度。

大災害前では、ちょっと高めのアイテムの修復などに使われていたが、大災害以降はアイテムごとの格差が広がっている。

『魔法の溶鉱炉』は金属を自由に加工になる為、需要が広がっているが『巨腕の鍛冶師』は使いどころが限られており、やや不遇な扱いを受けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る