小説の問題

「作れない……作れない………作れない………。」

目の前の白紙を見ながら、その男は呟くように呟いていた。

「…………何で一文字も書けないんだ?」

男は有名な小説家であった。それこそ『名前』をついでから20年は物書きをしている、レベル30の『小説家』だ。

今の今までは湯水のように文章が書けていた。まるで神が自らの体を乗っ取ったかのように文章が紡げていた。

しかし、急に最近になって小説が書けなくなってきた。今の今までは何も取材せずとも小説が書けていたのだが、それが急にできなくなった。


さらには今まで自分しか作れないと思っていたアイテム『小説家のペン(クエストアイテム)』が他の人間にも作られることがわかったのだ。

「………なんだったんだ………何だったんだ私の人生はあああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!」

その男は次の日その家から消えた。



「つまりさ、今までこの世界の小説家が書いていたっていう小説ってのは、運営が必死に考えて小説家として出していたって訳さ。」

たかやがそう言って他のメンバーに解説を行う。

「………それじゃあさ、その人達ってもう小説が書けないの?」

「書けないんじゃないのか? もうネタを運営が教えないんだし。」

そう言いながらたかやは必死に文章を考えていた父親を思い出す。

「じゃあ、もう二度と彼らは小説を書けないの?」

「ああ、元々『小説家のペン』については技能付与以上の意味は無かったからな………。

 ……まあ配置とかの問題も色々とあるんだよ。」

たかやはそう言って全く味のしないコーヒーを飲む。この世界の(コマンドで作った)コーヒーには睡眠耐性が付与され、一時的な眠気などを抑えることができるのだ。

「………でも、こういった物も『きちんとした』レシピがあったなんてびっくりよね。」

そういって、ドラゴンナックルは『レシピ目録』を手に取る。

そこには期間限定のアイテムのレシピがついていた。かなりの数に○がついておりレシピの回収がなされていた。

「……『新妻のエプロン』についてはまさか、おばあちゃんになっていたのはびっくりしたな………

 色々とぼけていたようだし。クエストの事一切覚えていないってのは……。」

「記憶が色々と矛盾するからなのかな?」

あのクエストを受けた人間はそれなりにいたはずだ。それら全てを記憶していたのなら彼女の精神は狂っていただろう。

「ねえ、たかや。」

ドラゴンナックルはそう言って、たかやに声をかける。

「課金アイテムなんかはどうなってるの?」

課金アイテム。それについてはリアルマネーで買えるゲーム内アイテムである。

「……それがだな。」


「……どうやって出てくるのかわからない?」

「はい、これらのアイテムについては、冒険者がいつの間にか持っていますので……。」

そんな馬鹿なと言いたいが、課金アイテムについてはすぐに買えるようになっているので、普通の店に入ることはない。

「……もしかしたら、誰か親切な人がシステムを構築してくれていて、説明を忘れてるのかも。」

「そんな人がいるのなら相当なうっかりさんだな……それとも表に出れない理由があるのか………。」


さて、月………。

「ふぇっくしょん……。あう………」

くしゃみをした女性は次の瞬間にまるで何かに強制されるかのように眠りについた。

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