絵の問題

私は≪絵師≫……という事になっている。

生まれてこの方絵など一枚も書いたことは無いし、芸術とは何かを理解したこともない。

しかしながら私が生活に困窮したことは一切ない。

私は家の裏で生えている草木を使って基礎的な絵画道具である、≪8色絵の具≫、≪黒い鉛筆≫、≪イレイサー(消しゴム)≫、などを初級冒険者などに売って生活していたのからだ。

5月ごろから急に絵画道具の需要が減ったのか、冒険者達がやってこなくなったのだ。

昔なじみの商人たちが多めに買ってくれるのでそれほど生活は苦しくはならなかった。

何でも昔なじみの商人が言うには、冒険者達が色々と変わってしまったらしい。

その為、かなりの混乱が生じていて、基本的な素材に色々と不足が生じているらしい。

「……なるほど、冒険者達が来なくなったのはそういうわけだったのか………。」

そう納得しながらも、画材を少しずつ売る日々だったのだ。


そんな生活が変わったのが、ミナミに史上最大規模の冒険者ギルド<ミナミPlant hwyaden>が生まれたからだ。

何でも、規模だけで言えば約1万人。現在存在してる最大規模のギルドである<D.D.D.>が5000人という事を考えるとその倍である。

後で歴史書を調べてみたら1万という数のギルドはほぼ存在しないという。

そして彼らは、すさまじい勢いで生産ギルドを買収したらしい。


「……あなたにも色々と協力してもらいますわ。」

そう言って目の前で<ミナミPlant hwyaden>の第2席であるメイドが声をかける。

「いや協力と言っても、私はしがない<絵師>ですよ。いったい何を協力すればいいのですか?」

「ご謙遜を、貴方が一番ヤマトで有名な絵師ではないですか。」

「いえいえ、有名だというならば、ホクサイ殿が有名だと思いますが。」

「……何故、ここで葛飾北斎の名前が出てくるのです??」

目の前のメイドは一瞬きょとんとして聞き返した。

「カツシカホクサイって誰ですか?」

「??????」

「??????」

お互いに混乱したように眼をパチパチさせる。

「葛飾北斎は私達の世界の有名な画家です。」

「ホクサイ様は私達の世界でも有名な画家ですよ。キョウの都一番の絵師だと大評判です。」

「聞いたことがありませんね。」

「そうですか? 割と有名だと思ったんですが………。」

(フレーバーテキストか……)

そう思いつつも顔には出さずにメイドは言葉をつづける。

「ですが、冒険者達に有名な絵師は誰かと聞けばかなりの人数が貴方だと答えましたわよ。」

「……一枚も絵を描いたことがないのにですか?」

「…………絵は描けますか?」

「パレットでなら。」

「でしたら十分です。必要な素材は私達が準備しますので、かなりの数、あるものを作っていただきたいのです。」

「……一体何を???」


私は最終的に<ミナミPlant hwyaden>の元で働いている。

何やら方向を指示する看板や、立ち入り禁止のマークなどの絵が大量に必要らしくその人材を集めていたらしい。


後で聞いた話によると、スキル<ジョブチェンジ:絵師>を持っている人間はそれほど多くなく、ヤマトにおいては自分も含めて2桁もいないらしい。

何故かレベル90の冒険者<絵師>にも<ジョブチェンジ:絵師>を持っていないらしい。

その為数少ないサブ職業を変えることができる人間として重宝されている。


あとなぜかホクサイ様はタコの絵を大量に書かされたらしいが、何故か冒険者達は落胆しており、その落胆した冒険者一同はあのメイドの攻撃魔法で大神殿に送られたらしいと風のうわさで聞いた。


一体何が何だかわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る