宗教の問題 その3
施療神官のマリエールはアキバ円卓会議の11ギルドのうちの1つ、三日月同盟のギルドマスターである。
その為、幾つかの案件についての会話が行われることになる。
チョウシの街を訪れているマリエール達に大地人の施療神官達が話し合いを求めてきたのだ。
「……つまりなんや。神器があったのならそれを売ってほしい……そう言うわけやな?」
「はい、我々は所々に神殿を持っておりますが、やはり何らかの形で神器を置くべきかと思ったのですが、それについて今の今まで思いつかなかった次第でございまして………。」
それは、今までそう言うクエストが無かったらからでは……と、マリエールは心の中でそう呟いたが言葉には出さなかった。
呟けば、それこそ彼らの精神にダメージを与えそうだからだ。
「まあ、『神器シ……』、『神器』は装備レベル90……サブ職業次第では50で装備できる、秘宝級装備やけど、結構冒険者側の需要も多いんよ。」
『神器シリーズ』は攻撃力こそレベル90の装備としてはそこそこだが。まずサブ職業で神官系技能を持っていた場合、メイン職業が合わなかったりしてもレベル50でも装備できると言う事。それぞれの神にそったスキルの追加が上げられる。
只、必要レベルが足りていない場合は、性能が低下すると言う特徴があるが、それでも低レベルから使い続ける事が出来ると言う事は
例えば鍛冶神のハンマーなどは、『鍛冶スキル』の付加などが存在する。
「それは確かにわかっております。只冒険者様が使わなくなった『神器』をこちらで引き取りたい……我々の願いはそこにございます。」
「でも黒も……冒険者が使ったアイテムって、価値が下がりそうな……。」
後ろで控えていたドラゴンナックルが突っ込みを入れる。
「いえ、冒険者が使われた武器であったとしてもその冒険者が偉大であれば、価値はあります。」
施療神官はきっぱりと説明を行う。
「………身もふたもないけど、確かにそう言う面はあるわよね。」
偉人が使った武器と言うのはわりかし東洋西洋問わずにそれだけの価値が存在する事がある。
こちらの世界で秘宝級装備と言われる、マジックアイテムの幾つか……特にレベル50~60あたりの秘宝級装備は向こうの世界の偉人達が使っている武器は数多い。
「せやかて、使っている道具をいきなり渡せと言われて渡す人間はおらへんよ。」
マリエールはやや強めに説得する。
「うちらかて、どの神様がどんな力を持っているのかさっぱりわからへんし……。」
「でしたら、ちょっと詳しい人から聞いてみます。」
そう言って後ろに控えていたドラゴンナックルが耳に手を当てて会話を行う。
「ねえ、たかや。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
『どうした?』
ドラゴンナックルの横から声が響いてくる。念話の特徴として、
「信徒系ロール職の特徴をちょっと教えてほしいんだけど………。」
『わかった説明するからよく聞いとけよ、『太陽神の使徒』は光輝属性に追加ダメージ、『医療神の使徒』は回復魔法に追加効果、『植物神の使徒』は森呪使いの魔法が使えるようになって……』
その言葉を聞いた瞬間、ドラゴンナックルは念話能力を一回切る。
「すみません、たかやはデータ廃人ですので、どうも変な方向で詳しいようです。」
「……なるほど、そのお方はどのような力を持っているのかが詳しいのですな。」
フォローできないほどのトンデモ発言を大地人の施療神官達は平然と受け止める。
冒険者と言えば、レベルも戦闘力も桁外れの存在だ。そんな彼らがわずかでも勝つために知恵を振り絞ってるのだろう……と大地人達は考えた。
とはいえ、大地人としてもその考えに理解できない事もない。能力としての神官の差異も存在する事は確かだし、それについての知識を冒険者が持っていることも変な事ではない。
何故彼女が連絡をいきなり切ったのかがさっぱりわからないが、しかしながら彼女達が望むような情報ではないのだろう。
「それと少し気になったのですが。」
そう言っていきなり大地人の施療神官が声をかけてくる。
「冒険者の一部が信じている、神についてです。」
その言葉にマリエールが驚愕する。その事に関する突っ込みに関しては、色々とまずい事があるのだろう。
「その神は子供を生贄に捧げたりしますか?」
「は?」
その質問に、マリエールが聞き返す。
「冒険者がどのような神を信奉しているのかはさっぱりわかりません。ですがススキノの噂を聞けばかなりひどい事になっているとの事………。」
それを言われると、冒険者達は弱い。
「それが、冒険者の信じる神のせいであるのなら、我々は許せないのです。」
その言葉を聞きながら、大地人の施療神官は真剣な眼差しでマリエールを見る。
(どないしよう………。)
迂闊な答えは、大地人すべてとの反発を招く。頼みのシロエとヘンリエッタは今ここにはいない。
「どうなのでしょうか?」
不安を浮かべた顔で迫られてマリエールはやや怖気づくが、やがて意を決して喋りだす。
「うちらの世界の神様は、色んなところに神様がいて、色んなところで祀られてるんや。」
「ふむ………。」
「んで、神様が見てるーというか、悪い事をすれば神様に怒られるーみたいに教えられてるんやけど……。」
「ふむふむ。」
「どーも、向こうの神様はこちらに来ないと思っとる人がぎょうさんおるみたいんや。」
「なるほど、それを聞いてやや安心しました。こちらの神を認識していけば、暴れている冒険者達も考え直してくるでしょう。」
そう、安心した顔で大地人の施療神官達は、立ち去って行った。
「……はあ、疲れたわぁ………。」
安心した表情でマリエールが崩れこむ。この世界においての宗教に関しては全くのノーマークだったので、とんでもない緊張の連続であった。
「……と言う事があったの。」
そうドラゴンナックルは念話でたかやに報告を行う。
『……なるほど、こっちの世界の宗教に聞きたいってそう言う事だったのか……。』
「うん、データじゃなくて、どんな宗教なのかって事。でもさ、幾らなんでも子供を生贄にする宗教なんてこちらにあるわけ……。」
『あるぞ。主にレイド級クエストで。』
「え?」
『え??』
「なにそれこわい。」
『まっ、まあ今の所、それらしいクエストは配布されていなかったから、たぶん大丈夫だよ多分。』
「それフラグだから! あまり言っちゃだめだよ!!」
ドラゴンナックルはそう言って、ぞっとした表情を浮かべた。
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