宗教の問題 その1

※今回は非常にデリケートな問題を含んでいます。その為、ややぼかしている部分がいくつか存在します。ご了承ください。


アキバ円卓会議において、治安の問題以外にも幾つかの議題がのぼる事がある。

異世界に来て初めてわかることも多々ある為、そのあたりのすり合わせなんかも円卓会議で話し合う事が存在するのだ。


「……宗教ですか。」

円卓会議の代表であるクラスティが今回取り上げられた議題について、一言で説明する。

「はい、先日、ツクバのキリヴァ公に引き渡した男が死刑になりました。」

そのシロエの言葉に一同がざわつき始める。死刑と言う言葉に不穏な物を感じたからだ。

この会議には上級幹部も参加しており、その言葉の重さに驚愕する。

「男の正体は邪神教団の邪神神官でした。

 クエスト<邪神教団>のですね。親父が作ったクエストです。

 過去にも似た事件が起こっており、村が数個消えたと言う記録も残っています。」

ミチタカの後ろに立っていたたかやがやや言い訳がましく言葉を口にする。

「今回の件については、ツクバで起きた事件であり、また男が子供をさらって、生贄にしようとしていたと言う報告もあります。」

シロエの言葉に全員が仕方のないと言う顔をする。

「今回の事件で一番の問題となったのが、俺達が邪神教団についてやや軽めに考えちまってたって事だ。」

ミチタカの言葉に全員が神妙な顔つきになる。ゲーム時代の考えでやや動きがちな冒険者はまだまだ多い。

とはいえこの事件は子供たちにとってみればきつい現実になるはずだ。少なくとも放っておいて、得になる話ではない。

「邪教神官は4年ほど前から、活動をしていたらしいですね。神官がつけていた日記からそのことが読み取れます。」

「4年前と言うと……おおよそ4か月前か。何かイベントがあったっけ?」

「確認できる範囲内では、ツクバで学生が1人、怪しい儀式に参加していると言う事でした。その時は気にもとめなかったそうですが、今回の事件とつながっているかもしれません。」

聞き込み調査で確認された事を話すシロエ。その言葉には様々な難しさを感じさせる。

「そう言う風に設定されただけの人間が、そう言う風に行動しただけ……。」

カラシンの言葉は重い。彼が邪神神官になったのは、<F.O.E.>がそう設定しただけだかなのか、それとも彼自身の選択なのかさっぱりわからないからだ。

「<邪神教団>の復活させる邪神は、教徒によって違ったはずですけど、どんな神様を復活させようとしてたんですか?」

「今の所はまだ不明です。ですが邪神はすさまじい戦闘力を持っています。

レベル60レイド4が最低ライン、確かレベル120レイド4が今までの限界値だったと思います。」

「レベル120の邪神は、エリア開放イベント時に、エリア支配ボスとして何度か登場してきました。その時は周りに無数のパワーソースが存在してそれを破壊する事で弱体化していきました。」

シロエの言葉をたかやがフォローする。

「つまりガチでレベル120の邪神と真正面からやり合う必要はないわけか。」

「……今まではですが。」

「最悪、アップデートでパワーアップしている可能性も否定できません。」

やや、全員が邪神対策についての話し合いを始める。


「みんな、あつうなっとるとこ悪いけどな。」

そう言って1人の女性が廃人会議をしているメンバーに声をかける。円卓会議のメンバーの1人マリエールだ。

「……邪神との戦いよりも先に、まずはこっちの世界の神様について整理すべきやない?」

「そう言えば、確かにこっちの世界の神様については私達あまり知ってることありませんよね。」

「「「おい、施療神官(クレリック)wwww」」」」

レザリックの発言に突っ込みを茶化すように突っ込みを入れる一同。

とはいえ、今の今までゲームの中でのロールが基本だった為、冒険者の施療神官の中には、自分が何の神に仕えているのかさっぱり知らないと言う人間まで存在したのだった。


「基本、<エルダー・テイル>は多神教世界です。」

たかやが、そう言って説明を行う。

「これには幾つかの理由があります。まずは一神教にした場合森呪使い、霊媒師(メディウム)などの他の回復役との設定のすり合わせが難しい事、クエストを作る時に、多神教の方が様々な依頼を作ることができる事などが上げられます。」

「多神教はゲームの都合と言うわけか。」

「はい、その通りです。」

「……確か信者関係のロール職業がいくつか存在したよな。」

茜屋=一文字の介がそう言って、指を折りながら数えだす。

「『太陽神の使徒』『月神の使徒』『戦神の使徒』『大地神の使徒』『芸術神の使徒』『知識神の使徒』『恋愛神の使徒』『医療神の使徒』『農耕神の使徒』『海洋神の使徒』『天空神の使徒』『植物神の使徒』『炎神の使徒』『守護神の使徒』『狩猟神の使徒』『牧神の使徒』『織物神の使徒』『鍛冶神の使徒』『審判神の使徒』『風神の使徒』『運命神の使徒』『雷神の使徒』『冥神の使徒』『伝令神の使徒』の24個か。」(水→天空、酒→炎、回復→伝令に変更。)

「多!!」

「それにNPC専門職の『邪教神官』『Cの使徒』の2種類がありますけど……。」

そう言ってたかやが言葉を濁す。

「邪教の神様ごとに、使える能力が変わってくるので、これらを合わせれば42種類の神様がいる事になりますね。」

「「「さらに増えるのか……。」」」

「それと、ヤマトサーバ独自の設定の中に土地神に近い存在が何名か存在したかに思えます。」

「しかし、それだけ神様が多いと、宗教間対立とか激しそうだが……。」

「信徒の奪い合いで少々の問題がある程度で、複数の神様を同時に信仰してもよほどのことが無い限り、特に問題は無いそうです。」

これは大地人から聞いた話であり、裏付けは何度もとっている。

「邪神を信仰しなければ、得に大地人達も何も言わないみたいですね。」

そう言いながらソウジロウは情報をまとめる。

「こちらの神様を信奉する事に抵抗を覚える人間は少ないと思います。ですがあちらの神と同時に信仰する事を大地人はそれほど拒んでいません。」

「ま、日本人はやや宗教には鈍感な方だからな。異世界に来てもこっちの神様信仰する事にそれほど違和感はないだろうな。」

クリスマスやバレンタインを祝い、正月には神社めぐりを行う、そんな人間が異世界に来て神殿で神様に感謝する事を拒むだろうか。いや拒まないだろう。

「しかし………神様が24人以上ってのは多くないか?」

ミチタカが素直な疑問を言う。

「それ言ったら日本じゃ神様は八百万いるって言いますし……そんな問題じゃないでしょ。」

「そいつはそうか。」

カラシンがややずれた答えを行うが、ミチタカは納得する。

「ですけど料理の神様はいないんですね。」

「……そういやそうだな。」

ロデリックが細かな点を指摘をし、アイザックが疑問を口にする。

「あっ、きっと料理の神様がいないから料理に味が出ないんだ!!」

「こらこら思い付きで言うものではありませんよ。」

「もしかしたら、遠い未来にゃん太班長が料理の神様として祀られるようになるかもしれませんね。」

「はは、それはちょっと勘弁してほしいかにゃ。」

その和やかな雰囲気の中で、その会議は終わった。



D.D.D.ギルドホール。

「ミロード、何をお考えで?」

「少しね。日本人なら異世界の神様を信仰できると言うのなら……他の国の人間は異世界の神様を信仰できるのかどうかね………。」

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