テントの問題
テント……<大災害>の前は、ちょっとした拠点として、あるいは雰囲気づくりとして作られていた道具だった。
しかし、<大災害>以降、冒険者の必需品として上がるほどの重要なアイテムとなっていた。
大災害前は誰でもコマンドでポンポンと立てていたのだったが、何故かコマンドで立てる事ができなくなり、実際に立てなければいけないと言う事態になっていたのだった。
しかし、それでも冒険者のありあまる体力と、ちょっとした知識さえあれば、特に問題なく立てる事が出来るので、それほど重大な問題にはならなかった。
<大災害>以降、こちらの世界で休息しなければならなくなったので、テントの価値は急上昇している。
外の活動においての疑似的なプライベート空間の作成、雨露を防ぎ、体力の消耗を押さえ、雨避けを防ぎ、飛び出す時もすぐに飛び出すことができるメリットが存在する。
しかし、大地人の中にはテントを使わない人間も多い。
狩人達や木こり達はその重さや周りが見えない事を嫌い、商人達はすぐに動けるように荷馬車で活動するため、テントは必然的に冒険者、あるいは体力を温存するための騎士達の物になっていった。
これらの道具もまた手作業で作れないか問題となったのだ。しかしそこには大きな壁が待ち受けていた。
必要な生産系スキルが多岐にわたるのだ。
この<セルデシア>においては生産物に対して不適切な加工を行おうとすると、様々な問題が発生する。
薪を割るぐらいならばともかく、スキルも無しに細かな木工細工を作ろうとすると、かならず失敗する。
(中には薪を割る事ができない冒険者すら存在するらしい……)
細工をしようとした木が割れたり、まったく加工できなかったりするのだ。
そして、テントを作る場合、天幕などの布は、<裁縫師>、木組みの部分は<木工職人>、金属などの部分は<鍛冶屋>と作成に必要なスキルが複数に渡っているのだ。
勿論他の部分にスキルを持っていない人間は一切手を出せない。
こうなってくると作れるのは複数の職業を併せ持つ大きめの生産系ギルドに限られることになるのだが、そういったところでもテントの量産には二の足を踏んだ。
需要と供給の量が間に合わない為だ。
どのような外観で、どれぐらいの人数が利用し、どのような目的で作られるのか……そう言ったものがわからないと、テントは作れないのだ。
どんなものが売れるのかが分かりにくいのならばコマンドで作った物で十分……そんなわけでテントは今も<大工>がコマンドで作っているのだった。
しかし、コマンドで作ったテントには幾つかの弱点があった。
あまり頑丈ではないのである。元々趣味の一品ではあった為、耐久度がそれほど高くなく、守護戦士の一撃で破壊される、範囲魔法の巻き添えで破壊されるのである。
価格が高くなればなるほど派手な外見になっていくが、耐久度はそれほど上昇しない。
これらには意味がある……無数のテントを並べての妨害行為を防ぐために、テントはすぐに破壊できるように耐久度は低く設定されているのだ。
これはまずいとロデリック商会の<裁縫師>たちがとんでもない奮闘を始めたのだ。
昼夜を問わず実験を行い、低レベルの鍛冶スキルを与える装備レベル80の秘宝級アイテム『鍛冶神のハンマー』すら使い(結局意味は無かったが)、無数の実験と研究を繰り返すうちに、耐火、対冷、対電撃の3属性に対する高い防御力を持った布が完成し、それを使ったテントも完成した。
しかし………
「あれ?」
さっそく組み上げようとしても、中々テントが完成しない。
「おいおい、どうしたんだ?」
そう言って今度は別の男がためすとあっさりと完成する。
「一体何があったんだって、ひょっとしたら!!」
「「サブ職業!!」」
そう、そのテントを組み上げるのには高いレベルの<大工>技能が必要なのだった。高価な素材を使い、高価な部品を作ったことで使用可能レベルが上昇してしまったのだ。
「「使えない………」」
テントの利便性は、誰もが使えてこそだ。大工がいなければ作れないテントなど、一体誰が使うだろうか?
かくして、耐久力の高いテント建造作戦はここに潰えた。
しかしこの耐久力の高い布は新型馬車の素材として生まれ変わり、強力な防御力を持つ耐久力の高い馬車として新たな人生を得たのであった。
……必要<騎乗>技能がレベル80を超えていなければ流行っていただろうとはロデリックの言葉である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます