歴史書の問題 その2 冒険者の問題

ギルド『ログ・ホライズン』の食卓にギルドマスターであるシロエが一冊の黒い本を持ってやってきたのだった。

「おや、どうしましたか、シロエっち?」

「今回、『猫まんま』関連の歴史書が出てきたから、ちょっと複写して持ってきたんです。」

「……それはそれは。」

にゃん太はそう言って、その本を見る。

「玉三郎さんの事や、にゃん太班長の事も載っていましたよ。」

「しかし、こういうのがこちらの世界に残っているのはうれしくもあり、少し恥ずかしくもありますにゃ。」

「ただ、こちらの人の視点ばっかりですから、やや意見的には偏っていますけどね。」

「それでもですにゃ。茶会の歴史書は無かったのですかにゃ?」

「それが、放浪者の茶会の名前自体が載っていなかったのです。」

「それは………。」

茶会はギルドを組まずにやっていた。おそらくそのせいだろう、茶会は組織としてではなく、何かよく集まる集団としてしか書かれていなかったのだ。

例え地平線の果てまでの記録を探しても、放浪者の茶会と言う名前は見つからないのだろう。

「他にも、冒険者の事が書かれた歴史書はあるのかにゃ。」

「ええ、色々と………おおよそ、大規模戦闘系が中心になっていますので、生産系ギルドの歴史書は少ないですね。」

「……ふむ、そうですかにゃ。」

「流石に幻想級レシピの習得は乗っていたりしますけど。」

「つまり、冒険者の偉業などは歴史書に乗っていると言うわけですにゃ。」

「ええ、なんか僕は幾つものギルドを支えた大魔法使いって言う事になっていますけど。」

「大魔法使いシロエですかにゃ。」

「はは、あまりからかわないでください。」

あまりそう言った名前に興味が無かったので、まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだ。

「ただ、書かれてる内容が恥ずかしくて、燃やしてほしいって人もいますけどね。」

「……文字通り、黒歴史という奴ですかにゃ。」

その黒い背表紙の本を見ながら、にゃん太はやや苦笑いしながらつぶやいた。


さて、場所は移り変わってミナミ……。

アキバの方にもある歴史書は当然ミナミの方にもある。それは当然の事であるが……。

「……つまり、歴史書を燃やすわけにはいかない……そう言うわけですね。」

「はい、歴史書の量は歴史の量……即ち家の格の大きさを表します。例え一冊でもここにある歴史書を燃やすと言う事は、それこそウェストランデの歴史を燃やす事でもあるわけです。」

チッっと目の前のメイド服の女性が大きく舌打ちを行う。

ややもすれば強引な解釈かもしれないが、目の前の男の言いたいことはわかる。歴史書が無いと言う事はその歴史書を管理する力が無いと言う事だ。

それをすることは、ウェストランデの無能を示すこともなりかねない……貴族の一員としてそれは認められないと目の前の男は言っているわけだ。

それは例えミナミを支配する十席会議とはいえ焼却する事は許されない。金を受け取っている立場で、大きな口は言えないのだ。

濡羽には期待できない。その書物の中にはあの腹黒メガネの歴史書も混ざっているからだ。

他のメンバーも歴史書の償却に反対するメンバーが多いだろう。もし自分が焼いたのなら、それこそ十席会議を追われる身になる。さすがにそれぐらいの分別はある。

あの女との付き合いは文字通り黒歴史だ。それを後生大事にとっている奴らには腹が立つ。

「……まったく忌々しい……。」

憎たらしげな眼でその男に吐き捨てながら、その女性は去っていった。

「はあ……。」

その女性が立ち去った後、男はため息をついた。

「歴史書の量が家の格を表すか……。」

その事実は男の精神を陰鬱とさせた。何故かイースタルの方が歴史書の量が多いのだ。まるでウェストランデの歴史は後付でつけられたかのように途中からいきなり現れているのだ。

(これはアキバ周辺が先に作られており、ミナミの方が後で設定されたからである。)

「冒険者はやたらとアキバあたりを重視するが、何が原因なんだろうね。」

ヤマトの首都はキョウ。歴史書にもそう書いてある。だが冒険者と大地人の認識は異常に違う。

「彼らは本当にこの世界で生きていたのかね。」

そう言ってその男は大きくため息をついた。

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