価値の問題

「どちくしょー!!!」

<大災害>が起こる前の数日前、彼はパソコンの前でそう叫んだ。

「なんでこんなアイテムが出てくるんだよ!」

彼等がダンジョンで見つけたアイテム。それは秘宝級アイテムの『新妻のエプロン』だった。

レベル低下と同時に、料理スキルを与えると言う……意味不明な効果もさることながら、装備レベルが低い為に価格も低く、それこそレベル50の制作級武器よりも価格が安いと言う代物であった。

4年前に、クエストの報酬品として渡されたのが始まりでそれから、何度かパーティーランク女性型モンスターのドロップアイテムとして落ちる事が確認されている。

アタルヴァ社はスキルを付加するアイテムを非常に警戒しており、そのアイテムの価値は非常に低かった。

『外れ中の外れじゃねえか……。』

『ジョークアイテムなら、もうちょっとましなアイテムが欲しかったな。』

『売ったって、金貨500枚だっけ?』

『コレクターアイテムだからな。NPCがたまに金貨2000枚で買ったりするがそれぐらいだ。』

『ばらして、素材にするか? まあ装備レベルが装備レベルだから、ちょっとした服しか作れねえけど。』

『鎧のままでいいだろう? 服なんていらないし。』


そして、<大災害>が起きる。

彼らはゲーム世界に閉じ込められ、鎧姿のまま戦わないといけない事になったのだ。

「どちくしょー。服なんていらないって言ったのは誰だ!」

「お前だ!!」

何しろずっと鎧装備はとても重い。戦闘系に特化していたため、服については一切買っていなかったのだ。

「……こうなったら、この新妻のエプロンを売って服を買う金に……。」

「待て、料理スキルの価値が激減している(料理を作っても段ボールみたいな食感にしかならない為)。今売っても二束三文以下にしかならんぞ。

 それぐらいならいっそ……コマンドでばらしてその布で服を作ろう!! そっちの方が価値がある!!」

そうメンバーの一人が提案する。

「そうだな………確かに装備レベルは低くても秘宝級アイテムだ。確か素材としては優秀なんだっけ?」

「ああ、何せ素材を取りに行く時間が増えて修理用の素材が足りないらしい。今素材として売れば金貨1000枚になるぞ!!」

「それだけあれば、NPCの店である程度の服が買えるな!!」

「よーし、そうと決まればさっそく行動だ!!」


そして彼らは意気揚々と新妻のエプロンをコマンドを使ってバラバラにすると、その素材を売って自分の服を買ったのであった。


そして最後に………

「どちくしょーーーーーーーーーーーっ!!」

<円卓会議>が完成し、スキルと生産の謎が書かれた紙を見た瞬間、彼らの叫びは最高潮に達した。

「あれがあれば手料理が手料理がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「海洋同盟が新妻のエプロンに金貨10万枚出すって書いてあるわよ………。」

「10万まーい! 10万まーい!!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ………。」

何しろ、料理スキルさえあれば味のある料理が作れるのだ。料理スキルを付加する新妻のエプロンはそれだけですさまじい金になるのだ。

文句を言おうにも、拾ったのは幸運だし、素材に変えたのは自分達だ。仲間たち同士で責任を擦り付ける事もなく彼らはやけ酒をしたのだった。


<大災害>前、生産系スキルを与えるアイテムは冒険者の思う価値よりも高く設定されていた。

大半が秘宝級であり、わずかながら幻想級アイテムにもその能力が存在していると言われている。

それについての不満は一切なかったとは言わないが、制作級でスキルをばらまかれるよりはましという意見が一定以上あったのも事実だ。


「こうなったら今日はやけ酒だぁぁぁぁぁっ!!」

彼らはそう言って、ただ酔うだけの酒を飲んでうさを晴らし、明日へのかてとするのだった。


大災害は様々な物の価値を一変させた。

有用な素材を売って、利益を得た人間もいる一方、彼らのように、有用なアイテムを破棄してしまい、大金を得られなかった人間がいる。

利益を得られた人間は次の利益の為に、得られなかった人間は今度は利益を得られるように努力するのだった。

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