十一話「これからが本番だよ」



「ルール説明は以上になります。それでは、両チームお互いに握手!」

 説明が終わり、呪いチームとエースチームはネット際まで寄って握手を交わす。魔法ビーチバレーも青少年の心身育成の一環。相手に対する礼儀がまず第一だ。


「よろしくお願いします!」

 ミタマがまずクリスと握手を交わす。

「全力でいくよ! 油断しないでね!」

「はい! こちらも全力でいかせていただきます!」

「瞬殺してほえ面かかせてやるからね!」

「ひええ……お手柔らかに……!」

 クリスの次に梓……と、お互いに両選手と握手を交わし、チームキャプテンのミタマとクリスが先攻、後攻を決めるじゃんけんを行なう。


「グーッ!」

「パーです」


 クリスの勝利。エースペアの先攻だ。

「さすがクリス様。運まかせの勝負では無敵です」

 オレンジ色の試合用ボールがクリスの元へ。

 腰を低くして身構えるミタマとかばね。

 アンパイアチェアに腰掛けた審判ことビーチバレー部部長(栗色のショートヘア、男勝りだけど意外と家庭的)がホイッスルを口にくわえる。

 しんと静まり返った会場。

 ライン後方でボールを構えるクリス。


 ピィィィィィィィィッ!


 試合開始のホイッスルが高らかに鳴らされた。

 と同時に歓声が沸き起こる。エースペアへの応援が巻き起こる。

「さて、いよいよ試合開始です。まずはエースペアの先攻。サーブはクリスティーナ!」

「サーブの構えだけでも様になりますなぁ」

 しなやかに反らした体。ボールの打撃音すら天上の打楽器を打ち鳴らすかのような雅をかもしだす。


 鋭い弧を描いて相手コートへ打ちだされたボール。予測着弾点はラインぎりぎりの絶妙な位置だ。

 しかしそこには素早くミタマがまわりこんでいた。

 きっちりと落下点を読み、体の正面でレシーブ。ボールの威力だけで体が押し出されそうになるほど重い球だがきっちりとかばねに向けて弾いている。

「かばね選手、ちゃんとトスが上げられるか? 練習では不安でしたが……」

 自分に向かって飛んできたボールを、ぽんとトスするかばね。

 しかし明らかに低い。しかもミタマがスパイクを打つにはタイミングが全然合っていない。

 これは駄目か――と誰もが思った、その瞬間。


「《氷結眼》!」


 精一杯強くボールを睨みつけるかばね。

 するとボール周辺が一瞬で凍てつき、地面から細い氷柱が生えてボールを空中で固定する。

「止まってる球になら当たるよ!」

 だーっと後方から走りこんだミタマが勢いを乗せてジャンプ。

 氷柱はじりじりと伸びてボールがちょうどいい位置にくるよう調整する。

 ふりかぶった腕。小柄な体を全力駆動させ、力一杯ボールに叩きつける。

 真芯を捕らえた打球は鋭角に打ち出され、クリスも梓も反応できないまま砂地に突き刺さる。

 回転の勢いで砂を撒き散らしボールの三分の一ほどが砂に埋まる。

 騒いでいた観衆が静まり返った。

 ミタマとかばねがハイタッチ。


 ようやく思い出したかのように秘書メガネの声が響き渡る。

「お――――っと! 先取点はまさかの呪いペア! ミタマ選手、小柄な体に不似合いなほどの鋭い鋭角スパイク! いつの間にこんな強烈なスパイクを身につけたのか……!」

「わかりましたぞ! わら人形を打つ際の金づちの動作! よく見ればスパイクの動作に似ていると思いませんか! あの動きが肩と腕の筋肉を鍛え、知らず知らずのうちにスパイクの威力をも鍛えていたのですぞ!」


 梓がぎりっと歯噛み。

「まさか……練習で全然駄目だったのは演技なの……?」

 それに答えるのはクリス。

「いいえ、おそらくあの時は本気だったのでしょう。しかし、心境の変化があったのか二人ともいい目をしています。彼女達は自分に足りない部分をお互いの魔法で補える事がわかっているのでしょうね」

「だから油断するなって言ったのに」

 ミタマは不敵に笑いながらボールを受け取る。

「かばねちゃんのエターナル・ブリザード・アイズがあればあたしもスパイクが当たるんだ!」

「勝手にルビふらないでね……」

 サーブ権は呪いペアに移動。

 ボールを持って構えるミタマ。だがエースペアはもう面構えが先ほどとは違う。

 もう油断なし。先ほどのように簡単には得点させてくれないだろう。

 考えていても仕方ない。

 ミタマは覚悟を決め、サーブを打つ。

 全力でただ打てばいい氷結眼からのスパイクと違い、コントロールの悪いミタマは山なりのサーブが精一杯。


 ふわっと浮いた球が相手のコートへと――

 届きそうになったところで。

「忍法! ぬりかべの術!」

 梓が印を結んで叫んだ。

 と同時にネット後方に巨大な壁がそそり立つ。

 砂煙を上げて数メートルの高さにまでそびえたった壁は、相手コートを完全に視界からシャットアウト。飛んできたボールが壁に当たって跳ね返る。


「汚い! さすがニンジャ汚い!」

 跳ね返ったボールは拾う間もなくぽすっと砂地に落ちる。

「得点! 一―一! なんと中央に壁がそそり立ってしまった! さすが……なのか?」

「見た目のかっこ悪さなど気にせず冷酷非常に点を取りにいく梓選手! わが孫ながらいい性格に育ってくれたわ!」

「余計なお世話! おじいさま……正体隠す気ないのね……」

 サーブ権はエースペアに移動。

 梓はぬりかべの術を解除し、サーブ位置に移動する。

「ミタマちゃん……! どうしよう、またぬりかべの術やられたらスパイク撃てないよ……!」

「あたしに任せといて!」


 ぐっと頷くミタマ。

 梓の鮮やかなサーブがかばねを襲う。

 一瞬焦るかばねだが、ぐっと腹を据えてきっちり正面でレシーブ。

 と同時に再びぬりかべがそそり立つ。

「ほほほ! 点数が欲しかったらこの壁を乗り越えておいで!」

 ふらふらと舞い上がったボールに向けミタマが飛び上がる。

「呪いの生命誕生ハッピーバースディ!」

 バシィ! と叩き付けたボールが壁へと直進。

 このままでは跳ね返されるのは必至――

 だがボールは壁面にぺったりとへばりつく。よく見ればボールに手足が生え、壁にしがみついていた。


「さあ! 壁を這い上がって向こうの陣地に飛び込んで来なさい!」

 ミタマの命令に答えるようにボールがくるっと振り向く。

 ボールにはアメリカンコミックに出てくるキャラクターのような顔が発生していた。

「あねさん、この壁……へばりついているだけで精いっぱいっす!」

 ボールは甲高い声で苦情を述べる。

「あたしの命令が聞けないっての!」

「そんなせっしょうな……ボールは友達っていいますやん。もっと労わってほしいっすわ……」

「なに勝手に友達ヅラしてんの? あんたは下僕でしょ」

「下僕!? 下僕以上友達未満!?」

「点数取ってきたら友達になってあげてもいいよ。ランク一の友達だけど」

「友達をランク分けしてるでやんすか!?」

「がんばりなさい。かばねちゃんですら最近ランク二に上がったばかりなんだから」

「わたし最近までランク一だったんだ……」

 ボールは短い手足を動かして必死によじ登ろうとする。

「早くいけ」

「ちょっ……! あねさん、砂ぶつけないで! 今のぼってますやん……!」

「向こうにはきれいなお姉さんがいるよ」

「……まじすか?」


 急にボールがスピードアップした。

 壁の頂上まで一気にのぼりきり、下のコートを見下ろす。

「うほっ! 美人さんいてますやんかぁ~! あっし、張り切るでやんすよ!」

 ボールは両手につばをつけ頭にのの字を描くと、プールの飛び込みのように頭からまっさかさまに落下した。狙う先はクリス。

 アメコミ調の濃い顔がぐんぐん迫ってくるのを見て梓が思わず叫んだ。

「きもっ!」

「傷つきますわぁ~! こんな顔に生んだあねさんに文句いってやっておくんなんせ」

 レシーブするべく構えるクリスの前に、梓が割り込んだ。

「こんな気持ち悪いものをクリス様にレシーブさせるわけにはいきません! ここはわたくしが……!」 

 ボールは両手両足を広げ、目を閉じ、唇をつきだし――

「うわあああ、きもいっ!」

 梓は顔をそらしながらかろうじてレシーブ。

 体の軸がずれたため、ボールは大きく後方に弾かれる。

「しまった……!」

 このままでは明らかに届かない。だがクリスは落ち着いていた。

「大丈夫……おまかせください」

 クリスはすっと両手を胸の前で組み合わせ、静かに目を閉じて祈る。

 天上から一本の曙光が差し込むような錯覚すら受ける神々しさに、観客からため息が漏れる。


神降臨ペンテコステ


 陽光差し込む天窓付近に、天使の白い羽が舞う。どこからともなく祝福の鐘が響く。

 天から差し込む一条の光――錯覚でもなんでもなく、紛れも無く光の柱がそそり立つ。

「クリス様……! 早くも勝負を決める気ですの!?」

 クリスティーナの象徴ともいえる神聖魔術科究極奥義。滅多な事では使わない最大の切り札をいきなり投入するという事態に、梓は息を飲んで様子を見守る。

 それだけクリスは本気という事だ。

 空には高速で雲が集まり、渦を巻いている。差し込む光に照らされ、赤、青、紫と様々に色を変え、やがて――光とともにバッと散る。


 厳かな鐘の音とともに、眩い光の中から人影が舞い降りてくる。

 白い法衣、白い髪に白いヒゲ。

「おお……これが神のお姿……なんという奇跡」

 会場中の人々が歴史的に見ても滅多にない奇跡に酔いしれている。

「ミタマちゃん……どうしよう、神とか言ってるよ」

「やばいね。あいつ相当つよそうだ」

 ふわぁっ……と砂浜に降り立った神は、今まさに地面に落ちそうになっているボールに手をかざす。神の力により吸い寄せられたボールが、神の手に収まる。


「あ、あの……あっしはただあねさんに命令されただけで……」

 ボールはびくびくしながら巨大な神の姿を見上げた。

 神は低く腹に響く声で厳かに告げる。

「神は慈悲深い。お前を赦そう」

 ホッとするボール。


「赦すとは言ったがいつどこで赦すかまでは指定していない。お前が地獄を一巡りする頃には赦そう。死という慈悲をもってお前を赦す」

「え――ッ! なにその理屈!」

 神はボールを掴んだ手を頭上に掲げた。その手はまさに天井に届きそうな高さだ。

 そして思い切り力をため――

 びったあああん!

 力いっぱい呪いペアのコートに叩き付けた。

大人気おとなげなっ!」

 思わずかばねが叫ぶ。

「得点、二―一! エースペアがリード! ボールに生命を与えてぬりかべをクリアした呪いペア、しかしクリスティーナ選手の切り札が炸裂! なんと神を召喚してしまいました!」

「女子中学生の呼び出しに応えてのこのこやってくるなんてけしからん神ですな」

「あんたも似たようなもんですよね」

 ボールはふかぶかとコートにめりこんでいる。

「み、ミタマちゃん、ボールさん、しんじゃった……?」

「いや、しっかり生きてますぜ」

 めりこんでいたボールが自力で這い上がる。破裂していた体がみるまに修復していく。

「死ぬかと思った」

「そんなヤワな子に作った覚えはないよ!」


 しかし神はまだ相手コートに陣取っている。クリスと梓の背後に、まるで授業参観に来た父親のように突っ立っていた。

「あのでしゃばりなおっさんなんとかしないとなぁ」

「ど、どうするの……? だって神だよ……!」

「神っていったってピンキリでしょ。そこら辺にいるマイナーな神なら勝てるかもしれない」

 サーブ権は呪いペア。

 かばねがボールを持ってサーブ位置に移動する。

 梓は腕を組み、ネット越しのミタマに向かって自信満々に言い放つ。

「ふっ、クリス様の神召喚が出た後に得点した者はいまだかつて誰もいない。あなた達ごときにはもったいないけど、もう試合は終了したも同然ね」

「試合はまだ終わってない! 諦めません勝つまでは!」

「ミタマさん、私、あなた達をあなどりません。全力でいきます!」

「いいね! のぞむところだ!」


 ネット間際でミタマ達が火花を散らしている頃、かばねはボールを構え、サーブに入ろうとしていた。

「うう、失敗しませんように……」

「かばねねえさん、大丈夫ですぜ。あっしがちょうどまっすぐ飛ぶ位置に体をずらしますから、思い切り打っておくんなっせ」

 そういってボールは尻を突き出す。

「うう……逆に打ちづらい……」

「さあ! 思い切りばしっと! そんなに優しくつかまれたままだとあっし……変な気分に」

「えいっ」

 かばねは迷いを捨てボールを思い切り打ち出した。


「あうっ! ナイスです、かばねねえさん!」

 体をずらして軌道を調整したボールはまっすぐ相手コートへ向かってゆく。

 すかさずでしゃばろうとする神。

「そうはさせない!」

 ミタマの手には愛用の釘と金づち。

「ミタマちゃん、いつのまに!?」

 地面に釘を当て、思い切り金づちを振りかぶる。

呪いの生命誕生ハッピー・バースデイ!」

 釘の刺さった砂地から亀裂が走り、すぐさま大地が隆起していく。コンクリートと土の塊からさらさらと砂がこぼれる。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 雄叫びが空気を震わす。土塊とコンクリート片は次第に人の形をとり、禍々しい土の巨人は神にも匹敵する巨大さでそびえ立つ。


「出た……あの時の……!」

 梓が戦々恐々と巨人を見上げる。

 巨人はネットを挟む形で神とがっぷり四つに組み合った。

 衝撃で施設全体が揺れる。飛び散った破片が砂浜に降り注ぐ。観客席からは悲鳴。

 巨人が神を抑えている隙にボールは相手コートへ。


「ふんっ、わたくしがいる事を忘れてもらっては困りますわ! クリス様は次の魔法の準備を!」

「はい!」

 梓は両手の指を絡ませ、印を結んで叫ぶ。

「《忍法! 分身の術》!」

 その瞬間、十数人の梓が出現した。

 そのうちの一人がレシーブ。

 もう一人がトス。

 そして残り全員がスパイクに飛ぶ。

「一人でレシーブ&トスっていいの?」

「分身は魔法による打球と認められているからセーフですわ!」

 複数の梓が同じモーションでスパイクの動作に入る。

「分身はみんな巨乳なんだね……どれが本物の梓ちゃんか一発でわかるよ」

「うっ!?」

 動揺した梓が体勢を崩しスパイクの威力が弱まる。それをミタマが危なげなくレシーブ。

「かばねちゃん!」

「う、うん!」

 かばねがトスを上げようとした瞬間、クリスの声が響き渡った。

 クリスは砂地にヒザをつき、両手を組み合わせて祈りを捧げている。


磔刑エウラリア!」


「う? うわわ!」

 トスに入ろうとしたかばね。だが足下から突然十字架が生えてきた。イバラのからみついた真っ白な十字架に吸いつけられ、びしっとはりつけにされてしまう。

「わああ! なんだ……これ……!」

 両手両足ともに完全に身動きが取れない。

「お――――っと! トスに入ろうとしたかばね選手、十字架に捕らわれてしまった!」

「しかし水着姿のおにゃのこを磔にするとはクリス選手もなかなかわかってますなあ……見ましたか、十字架にセットされた際にたゆんっと揺れる例のアレ! 十字架にジャンピング機能をつけてほしいですな!」

「クリス様の封印魔法を破った者はいませんわ! これで二対一! もう勝負はついたも同然!」

 かばねは必死に脱出しようともがく。

「ううう……! こんな所で捕まっているわけには……!」

「かばねねえさん! がんばっておくんなっし」

 ボールは手足をばたつかせて多少なりと滞空時間を稼ごうともがいている。

「大丈夫! かばねちゃんなら脱出できるよ!」

「うん……! 《依り代の依子さん》!」

 ぽんっ! とかばねの体が十字架から離れる。

 その代わりに、十字架には日本人形が捕まっていた。

 日本人形はカッと目と口を見開き、もの凄く苦しそうな形相で悲鳴を上げた。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 トラウマになりそうな苦しげな顔と悲鳴を残し、十字架とともに消えていく。

「ボールを……!」

 ボールはまだ空中。急いでトスを上げようと駆け寄る。

「まさかクリス様の封印魔法から逃げるとは……しかし!」

 梓は印を結ぶと叫んだ。


「《忍法! スライム責め》!」


 ボールに駆け寄るかばねの足下に、ぼたぼたっと大量のゼリー状の物体が落ちてくる。

 半透明のそれらはぷるんっと震えながらかばねの足にまとわりつき、足を取られたかばねが砂浜に転ぶ。

「んぐっ!」

「お――――っと! せっかく十字架から脱出したかばね選手! 今度はスライム責めに! しかしなぜ忍法でスライムが……?」

「いにしえの忍者砦には女人の服を溶かすスライムがいたという。納得の術ですな。もしやこのスライムにも服を溶かす能力が……?」

「そんなものはないですわ!」


 顔を砂に埋めながらも、かばねはまだ諦めていない。

「んぐぐ……! 《髪の長いお友だち》!」

 砂浜に伏せたかばねの髪がわさっと伸びた。

 髪は意思を持っているかのように一塊になってボールへ伸び、勢いをつけて跳ね上げる。

「ナイス! かばねちゃん!」

 上空高く舞い上がったボール。さらに氷結眼で氷の柱を作って固定する。

 スパイクに向かうミタマ。だが――

「そうはさせませんよ」


 クリスの祈りに応じ、巨人と組み合っていた神が動き出した。

 巨人を振り払い、片手を天に向けてつきあげる。にわかに掻き曇る空。集まった黒雲から一条の稲妻が迸る。天窓を撃ち抜きコートを青白く染め、雷鳴が空気をびりびりと震わせて神の手に稲妻が集中していく。やがて稲妻は一本の光り輝く剣の形へと収束。

「断罪の剣!」

 神の手に収まった輝く剣が一閃。巨人の首がスパッと鮮やかに切断される。

 体勢を崩して倒れかける巨人。

「負けるな! 根性みせろ!」

 ミタマの激に応えるように、巨人は首がないまま持ちこたえた。

 巨人はぐっと力をため、体の内部が赤白く発光していく。内部の岩が灼熱し、どろどろに溶けてマグマのようになっているのだ。

 胸の内部で白光が大きく膨れ上がる。

 限界まで溜めた灼熱の奔流が噴火のように神へと撃ち出された。

 爆発的に飛び散る火山弾が神を撃ち抜く。

「ぐおおおッッ!」

 さすがの神もぐらりと揺らいで片ヒザをついた。法衣が熱で燃え上がる。

「いいぞ! やってしまえ! 神を殺せ!」

「これってビーチバレーだよね……?」

 この隙にスパイクを打つべくミタマが飛び上がる。


 が、神はまだ滅びてはいなかった。

 片ヒザをついたまま、光輝く剣を巨人に向けて投擲。その刃は灼熱した巨人の胸を貫き、巨人の体を四散させる。大量の土や砂がばさっと崩れ落ちる。

 氷柱に乗ったボールをミタマがスパイク。

 空いた空間目掛け、鋭い軌跡を描いて突き進むボール――

 だが、誰もいなかったはずの空間にクリスが飛んでいた。

 地面に着くすれすれで片手でレシーブ。ボールは再び空中へと跳ね上げられる。

 空中のボールを神がキャッチ。

 片ヒザをついた状態から身を起こし、ふりかぶり――叩きつける。

 大人げない一撃は容赦なく砂浜にめりこんだ。


「なんと――――ッ! めまぐるしい攻守の入れ替わり! 激しい攻防を制したのはエースペア! 得点は三―一! 呪いペアも善戦したのですがわずかにエースペアが上回っていたか! エースペア三点先取のため、チェンジコートを行ないます!」

「点数差は開いてますが、呪いペアがここまで善戦するとはみんな予想していなかったのではないですかのう。後半の巻き返しに期待じゃの!」


 ミタマはヒザに手を置き、振り絞るように息を吐いた。

「うーん! 惜しいい! あとちょっとだったのに。クリスちゃん、やるね!」

 クリスは砂まみれのまま身を起こし、弾けるような笑顔を見せた。

「私、全力で戦ってますから! 今すごく気持ちいいです!」


 ミタマもにやりと楽しげに笑う。

「後半はこうはいかないよ!」

 かばねも砂塗れのままコートを交代するべくネット際まで歩いてくる。

「うう。砂が口にはいった」

「かばねちゃん、ナイスファイトだったよ! 後半がんばろ!」

「うん!」


 試合前はがくがくだったかばねも今はいい笑顔を見せていた。もうすでに観客の目も気にならなくなっている。

「ふんっ! 呪いペアにしては……まあまあなんじゃないの」

「梓ちゃんの忍法はせこいのばっかだね」

「せこいとは何よ!」


 声をかけあいつつ、コートを交代していく両チームに、観客席から拍手が。

 お互いにコートの位置を交代し、乱れた砂が部員達に整備されるのを待つ。

 ミタマはストレッチをしつつ、整備されていくコートをみすえる。


「さあ! これからが本番だよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る