閑話休題その三


  ○閑話休題○ ~かばねレポート~



 こんにちは。黒土かばねです。

 今日はミタマちゃんのおうちに遊びに来ています。

 ミタマちゃんとは学校ではいつも一緒にいるのですが、プライベートではあまり誘ってくれないので、ミタマちゃん家に来るのは初めてです。

 ミタマちゃんの家は思ったより普通の一戸建てです。

 白い木の柵とこじんまりした芝生の庭、車が一台納まるガレージ。

 そして二階建ての可愛らしい洋風の家。


 なかなかおしゃれです。

 正直意外です。もっとグロテスクな家を想像してました。

 呼び鈴を鳴らすとさっそくどたばたと足音が聞こえてきました。


「いらっしゃい! かばねちゃん。上がってー」

 私服のミタマちゃんが出迎えてくれました。ショートパンツにパーカー。ミタマちゃんは華やかなので何を着ても似合います。うらやましいです。


「おじゃまします……」

「やあ、いらっしゃい。ミタマの父です」

 ミタマちゃんのお父さんが出迎えてくれました。すごく優しそうなお父さんです。

 細身で背が高く、服装も髪型も清潔そうにシュッとしてます。

 しかもイケメンメガネです。

 あと二〇歳くらい若ければわたしの好みにどストライクです!

「ママー、ミタマのお友達がお見えになったよ」


 ミタマちゃんのお父さんがくるっと振り向いて奥へ呼びかけます。

 しかしその後姿を見てわたしは悲鳴をあげそうになりました。

 釘です。ミタマちゃんのお父さんの背中にびっしりと釘が生えてます。

「ああ、びっくりした? パパね、浮気しないようにママに釘刺されてんだ」

 たしかに釘を刺すっていう言葉があるけども……

 ガチで刺さってます。頭の後ろにも。どうやって生きてるのか不思議です……


「いやあ、しかし女子中学生はいいねえ。無垢なふくらみかけの青いつぼみ……細いふともも……はぁはぁ……匂い嗅いでいい?」

「ああ、そうだ。パパはロリコンだから気をつけたほうがいいよ」

 ミタマちゃんのお父さんの目つきがこわいです。近づいてきます。


 と、突然ミタマちゃんのお父さんの背中から血が噴出しました。

「ぐぼぁ!」

 釘がめりこんでいます。血をまきちらしながらこっちに近づいてきます。

「せめて……匂いを……」

 廊下の奥からぱたぱたとスリッパの音が聞こえてきました。

 ミタマちゃんのお母さんです。

「あら、いらっしゃい。ミタマ、リビングに作りたてのケーキがあるからあとでお友達と食べてね」

 優しそうな笑顔。明るい金髪を後ろで結い、胸元にはエプロン。

 めちゃめちゃ美人です。モデルさんみたいにスタイルもいいです。


「パパ、お邪魔しちゃだめよ。さ、遠慮なく上がって。ミタマちゃんと仲良くしてあげてね」

 ミタマちゃんのお母さんはわたしににっこりと微笑むと、ミタマちゃんのお父さんの頭をつかんでひきずっていきました。廊下に血のあとがべっとりとついてます。

「すごくきれいなお母さんだね……あんな奥さんがいるのにロリコンなんだ……」

「昔、パパが二十歳だった頃に、当時十歳だったママに呪いをかけて誘拐しようとしたんだけど、逆にママの呪い返しをくらってママから逃げられない体に改造されたらしいよ」

「……なんか壮絶だね」


 ミタマちゃんの案内でリビングに行くと、いい匂いがしてきました。

「今日のおやつだよ。かばねちゃんも遠慮なく召し上がれ!」

 手作りのリコッタパンケーキに、バナナやみかん、いちごなど、好みのフルーツを好きなように乗せていただきます。リコッタチーズを練りこんだパン生地はしっとりと柔らかく、メープルシロップがほどよく染み込んで上品な甘さが口の中に広がります。

 ミタマちゃんはクリームでデコレーションして遊びながら食べてます。味でも食べ方でも楽しめる絶品スイーツです。


 かわいいおうちに美人のお母さん、おいしいスイーツ……なんとも憧れのご家庭です。

 視界の隅に血塗れのお父さんが転がっていなければ……


「あのー……ミタマちゃん。お父さん、放っておいていいの?」

「いいのいいの。パパは心臓をどっか別の場所に封印されてて、それを破壊しない限り死なないから。だから好きなだけ呪術の実験台にできるの」

「そ、そうなんだ……ちょっとかわいそうな気もするけど……」

「大丈夫だよ。パパはドMだから呪いをかけると喜ぶんだよ」

「ん、なになに? パパの話題?」

 ミタマちゃんと話しているとお父さんが割り込んできました。血塗れのまま。

「そうだ、かばねちゃんだっけ。今日は泊まっていくよね? もちろんお風呂入っていくよね? ミタマと三人で背中の流しっこしよう!」

「やめときなよパパ。またママにミキサーにかけられるよ」

「ロリっ娘と一緒にお風呂入れるならミキサーなんて怖くない。ねーっ? かばねちゃんはいいよねーっ?」

「あ、あのその……」

 シュッと投げ縄が飛んできて、ミタマちゃんのお父さんの首にかかりました。そのままどこかにひきずられていきます。

「あーあ……だから言ったのに。いこっ、かばねちゃん」

 ミタマちゃんに二階へと案内される間、この世のものとは思えない絶叫と悲鳴が聞こえてきました。わたしは逃げるように二階へ上がります。


 二階にはミタマちゃんのお部屋がありました。

 意外にもかわいらしいお部屋です。

 ヨーロッパのおとぎばなしに出てきそうなアンティーク風丸ベッド。手作り風の木の棚にアロマオイルやビンに入ったキャンディなど、色とりどりの小物が並んでいます。

 壁にはミタマちゃんが自分で作ったというフェルトのお人形や、ミタマちゃんが集めているピンバッジ等が飾られています。


 古くなった浮き輪の一部やもう小さくなった衣服や雨合羽の切れ端などを縫い合わせて、本棚カバーや椅子の背もたれカバーなどが作ってあります。適当に組み合わせたようでいながら、なんとなくアートっぽくも見えます。ミタマちゃんはこういうのを作るとき何気にセンスがいいのです。

 おしゃれで雰囲気のあるお部屋です。

 ただ……部屋の一角に立つ案山子が気になります。釘の跡だらけです……

 これで呪術の練習をしているのでしょうか。


 この日は夕食をごちそうになり、ミタマちゃんの部屋に泊めてもらいました。

 お風呂に入って髪をとき、パジャマに着替えたミタマちゃんはベッドに飛び込むとそのまま眠ってしまいました。


 身体を丸めて眠るミタマちゃんの寝顔はあどけなく、いつものやんちゃぶりが嘘のようにかわいいです。寝顔だけ見ていると天使です。

 布団をかけてあげると、寝返りを打ってむにゃむにゃ言ってます。


「かばねちゃん……」

 名前を呼ばれてどきっとしました。寝言みたいです。

 わたしの夢を見ているのでしょうか。少し照れくさいです。

「内臓飛び出してるよ……」


 どんな夢を見ているのか大体想像がつきます……

 ミタマちゃんのおうちは、中に住んでいる人以外はちゃんとしていました。

 ミタマちゃんは家の中でも外でも変わらず元気ですが、家の中だとほんのちょっとだけいつもより素直な気がします。


 かばねレポートでした。



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