精霊と人。それぞれが自らの生きる道に迷い、苦悩する。

 万物にはそれを司る精霊が宿るという、アミニズム、あるいは八百万の神の思想にも似た世界観のなかで綴られる物語です。
 本来人には見えないはずの精霊を見、その声を聞くことができる少女ナディアは、その能力ゆえに迫害されて育ちます。両親からも疎まれ、捨てられたも同然の扱いで預けられた施設から逃げ出すところから、ナディアの本当の「生」が始まります。
 自分はなんのために生まれ、なんのために生きるのか。悩みを抱えるのは、ナディアだけではありません。人とは違う力を持ち、特殊なさだめに縛られる精霊たちもまた、人間同様苦悩し、そして死んでいくのです。
 壮大な世界観と重厚なテーマ性を持つこの作品ですが、文章は非常に練られており読みやすいと思います。全体的に心理の描写に重きを置かれている印象はありますが、情景の描写がおろそかになっているわけではありません。どちらかといえば淡々とした筆致ながら、作中に登場する土地の雰囲気はしっかりと伝わってきます。作者の表現力の高さがうかがえます。
 全体的に、海外の古典児童文学、古典ファンタジーを思わせる空気を纏うこの作品。登場人物たちがそれぞれ悩みながらも、前に進もうとする姿に共感できました。
 ナディアの旅から始まった物語は、さまざまな精霊たちの生き様を描く第二部を経て、第三部が始まったところ。二部の主人公であったジゼルと、浅からぬ因縁を持つであろうセオドアが主人公のようです。続きが気になるところです。

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