人間はそうと知らずとも天命や精霊、神が実在し、人間の醜さが弱者を虐げているという、決して奇抜でも華やかでもない設定や世界観、展開の物語です。ですがそれは、そんなものは不要だから。読み進めるほどに、シンプルでありながら重厚、幻想的でありながら生者の息遣いが感じられる世界の中に引き込まれていきます。
ある意味ではありきたりな世界の在りようはすぐ馴染んでしまうのに、与えられた天命のもと、愛や居場所を求めてさまよう人間や精霊たちの想いと生きざまが、こんなに飾り気のない文章と展開であっても存在感を放つのは、ただ見事の一言。ハイファンタジーとはかくあるべし、ですね。
幻想的な世界での人間と精霊たちの壮大な群像劇を読みたいなら、この作品を読むべきです。
万物にはそれを司る精霊が宿るという、アミニズム、あるいは八百万の神の思想にも似た世界観のなかで綴られる物語です。
本来人には見えないはずの精霊を見、その声を聞くことができる少女ナディアは、その能力ゆえに迫害されて育ちます。両親からも疎まれ、捨てられたも同然の扱いで預けられた施設から逃げ出すところから、ナディアの本当の「生」が始まります。
自分はなんのために生まれ、なんのために生きるのか。悩みを抱えるのは、ナディアだけではありません。人とは違う力を持ち、特殊なさだめに縛られる精霊たちもまた、人間同様苦悩し、そして死んでいくのです。
壮大な世界観と重厚なテーマ性を持つこの作品ですが、文章は非常に練られており読みやすいと思います。全体的に心理の描写に重きを置かれている印象はありますが、情景の描写がおろそかになっているわけではありません。どちらかといえば淡々とした筆致ながら、作中に登場する土地の雰囲気はしっかりと伝わってきます。作者の表現力の高さがうかがえます。
全体的に、海外の古典児童文学、古典ファンタジーを思わせる空気を纏うこの作品。登場人物たちがそれぞれ悩みながらも、前に進もうとする姿に共感できました。
ナディアの旅から始まった物語は、さまざまな精霊たちの生き様を描く第二部を経て、第三部が始まったところ。二部の主人公であったジゼルと、浅からぬ因縁を持つであろうセオドアが主人公のようです。続きが気になるところです。
この物語の凄まじいところは、伏線が後々になって回収されることだろう。
序盤はまさしくタイトル通りに精霊が主軸となる。そして人間という生き物について考えさせられる。だが決して精霊だけのお話しではないことを理解して頂きたい。
中盤からの怒濤の展開。だが話のテーマはぶれずにすべてが始まりと繋がるのだ。
そしてこの作品を読む方々はお話に登場する『闇』を見落とさないで欲しい。この作品においてそれは侮辱だ。
ファンタジーに登場する闇ではない。そんな一言では語り尽くせない。
闇には意思があり、それ故に美しい。
これらはすべて私の主観であるが、ハッキリしていることは一つある。
どんな形であれど少女は愛される運命にある。