今月とりあげた作品はおぼろげに"社会"というテーマを共有しているように思われた。カクヨムでは異世界ファンタジーが依然人気だが、それに負けず劣らず面白いのが現実社会を拡張して練り上げられた作品たちだ。急に世界に変化が起きたら役所はどうするのか?(いつもと変わらずか)、教育現場がゲームのようになったら? なぜちょっとした出来事で平和な学級での日常が壊れてしまうのか。もしかしたらその背景にはコズミック・ホラーの狂気が渦巻いているのでは? そして、普通に見える日々の事件の裏で活躍する組織が、その普通さを演出しているのではないか? そこでは何が普通で何が異常かを不可避的に問題視せざるを得ないが、そういった意識を描き出す格好の媒体が小説というフィクションなのである。

ピックアップ

ダンジョンは今や利権の最前線

  • ★★★ Excellent!!!

役所務めの公務員とひとくちに言ってもかなり色々な部署があるわけで、彼ら彼女らが具体的にどんな仕事をしているのかはっきりとイメージを持っている民間の人はそんなに多くないのではないだろうか。

本作は「魔界の入り口」が発生した日本では行政がいかなる行動を取るかを題材としたシミュレーション作品である。
とりわけ面白いのは、ダンジョンから現れた魔物に対して警察や自衛隊が対抗するという方向性ではなく、ダンジョンをある種の観光資源とみなし、地方経済の活性化のためさまざまな企画によって運用していこうというところである。

ダンジョンという物理的な市民に対する脅威すら政治にとっては利権であり、衆議院議員の先生が、地元に利益誘導するために「箱モノ行政」のネタとしていっちょ噛みしようとしてくる様子はある意味で非常にリアルであり、そしてダンジョンものとしては切り口が新鮮である。

こんな感じで、現実でも我々の見えないところでさまざまなやりとりが行われているのかもしれない……。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

スタミナ飲料で過労を凌ぎ、使わない生徒は退学で給料UP。教育者とは──

  • ★★★ Excellent!!!

表題どおりの内容だが、その組み合わせの妙には驚かされた。

ソシャゲの仕組みを取り入れた高校と聞けばとりあえず最初はゲーミフィケーション的な方針が想像されうるものだが、本作ではむしろソシャゲのようにクラスが組織される。

主人公であるところの先生がプレイヤーであり、生徒がカードだ。
先生が出勤するたびに「新卒採用」キャンペーンによる「ログインボーナス」として新しい生徒の編入(ガチャ)を誘発することができ、生徒にはノーマルからSSレアまでのレアリティがある。

おいおい生徒をカード扱いとはいかなるものかという感想もあろうが、まさにその通り。
本作は徹底的に生徒のカード扱いを推し進めたブラックユーモア的作品なのだが、やっていることは完全に普通のソシャゲのプレイである。

この点ではソシャゲユーザーにとって思わずクスっとさせられる作品であることは間違いないのだが、同時に現実の教育制度に対するちょっとした風刺にもなっているのではないだろうか。とにかく面白い。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

些細な嘘で始まったいじめ、けれどそれは必要だった嘘

  • ★★★ Excellent!!!

小学生の「わたし」と「彼」をめぐる、淡い恋愛模様を描いた物語。

文章が味わい豊かで、なまじ心地よく読んでいける分、中盤から起きる「わたし」へのいじめの様子が堪える。

もともと転校生だった「わたし」は、クラスで浮かないように嘘を使って話題提供などをすることが多かったようだが、それは無害な嘘だった。
彼女がいじめられっ子に転落したのは、仲の良い話相手である「彼」に告白したいというクラスの女子の相談に乗ったことによってだ。

そこで彼女はまたもささいな嘘をつくのだが、本来は決していじめにあうような内容ではなかったはずだ。
しかしそれは結果として「彼」への告白を頓挫させることになる。それは不運な事故のようにも見えたのだが、もしかしたらそれすらも「わたし」が計画したことだったのだろうか。

もちろんそうではないのだが、まるで計画的犯行のように展開する恋愛劇の中で、「わたし」が嘘を嘘で否定して自分の気持ちを示す様子にはちょっとしたカタルシスがある。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

この世のあらゆる時とところ、邪神の蠢動とそれを狩る夜鷹の舞う音あり。

  • ★★★ Excellent!!!

本作はクトゥルフ神話を背景にしたオカルティックなダーク・ヒーロー小説だが、クトゥルフにいっさい親しんでこなかった読者でも楽しむことができる。
というかむしろ、クトゥルフのピュアな世界観を味読できるという点ではおすすめの作品である。

クトゥルフを読む上でついてまわるキーワードは宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)だ。
身震いせずにはいられない根本的な恐怖や不安が人を突き動かす様子が、いくつかの時代にわたって描かれていて非常に巧みで、
近年もTRPGとしてもプレイバック的に流行している要因にはこういった懐の広さもあるわけだ。

また、クトゥルフがラブクラフトによるフィクション体系として書かれていることは当然有名だが、そのこと自体について語る登場人物たちが、真実と虚構の境界を揺さぶってくる様子も絶品。

そしてなにより、数世紀以上に渡り邪神たちと争ってきた仮面の夜鷹・ウィップアーウィルの活躍が、御託をひとまず飲み込んで刮目すべき格好よさなのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

現世と幽世を渡す"渡し船"。果たして誰が生者で、誰が死者なのか

  • ★★★ Excellent!!!

焼却炉に身を投げた女子大生が「私が生きている限り、あいつはずっと傍にいる。(…)この死を持って、私――相澤恭香は自由を手に入れるのだ」
という遺書とともに大きな謎を残したことから物語は始まった。

しかし、必ずしも相澤恭香が「なぜ」死んだのか、そして「あいつ」は誰なのかが重要なわけではない(それは作中ではっきり明かされるのだが)。というのは、本作で重要なのはむしろ『人生相談センター~渡し舟~』の存在だからである。

これは「傍観」「幇助」「模倣」「転換」という四つの方法で自殺者をサポートする組織だが、特に後者の二つにはギミックがある。
模倣は、自殺を別な動機や事件の出来事に仕立て上げること。
転換は、いわば自分を死んだことにして別な人の死体を用意することだ。

恭香がこの仕組みを利用したことは想像に難くないわけだが、むしろ問題は、他の人々が"渡し船"を利用したことによって奇妙に物語を捻っていくところだ。

そこでは好意と殺意がすれ違うのとともに、偶然と必然が交錯しているのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)