電車はお好きですか? 私も電車には毎日お世話になっております。ただ好きかといわれると、朝の通勤ラッシュがきつすぎて「好き」とは素直に言えません。しかし、たまに旅行などで新幹線に乗るときなどは、年甲斐もなくワクワクしてしまうのも嘘ではありません。やっぱり鉄道というものは、日常に溶け込んでいながらも、ちょっと特別な存在なのでしょう。いまや日本全国を繋いでいる鉄道路線。毎日365日、一日も休むことなく。一分の遅延も起こさぬよう、たくさんの人々が力を合わせて支えている日本が誇る文化でもあります。そこにはきっと、まだ私たちが知らない多くのドラマが眠っているはず。今回はそんな鉄道の物語を特集に取り上げてみました。読めば皆さんがいつも利用する電車も、ちょっと違って見えてくるかもしれません。皆さま、どうぞカクヨム発一番列車に是非ご乗車ください。
大阪第一産業高校には鉄道研究会がある。「撮り鉄」の高校二年生の播磨伸司が出会った新入生の矢立瀬戸は、電車の奏でる音が好きな「音鉄」の女の子だった。彼女を加えて個性豊かな先輩部員たちとの新しい一年間が幕を開ける。
鉄道研究会という一見マイナーで、なかなか馴染みのない部活の日常風景が新鮮です。
乗り鉄、車両鉄、時刻表、写真、模型、駅弁、そして音鉄。伸司や瀬戸ちゃん、先輩たちも、それぞれ「好き」はバラバラだけど、お互いの趣味を認め合う雰囲気が心地よく、鉄道マニアたちの賑やかなトークに思わず頬がゆるみます。鉄道に詳しくない素人でも、魅力がしっかり伝わってくるのが嬉しいです。
休日には、部員揃ってローカル線で旅をしたり、車両整備を見学したりと意外とアクティブ。ときには旅先の温泉や名物料理を堪能したり、ときには撮影のために過酷な山登りをしたりと大変なこともあるけれど、現地でしか味わえない、ちょっとした旅の感動のあれこれが楽しいんですよ。
部活動を通して少しずつ近づいていく伸司と瀬戸の関係ももどかしい。電車の響きと共に揺れ動く若者たちの純情が眩しい青春群像劇です。
(「レールの上の私たち」4選/文=愛咲優詩)
鉄道模型が趣味の高校生・松島真一は、秋葉原の模型ショップで、クラスメイトの美少女・蔵王ひかりと遭遇する。亡き祖父が遺した鉄道模型を修理してほしいと依頼されたことをきっかけに、二人は模型を通じて少しずつ距離を縮めていく。
物静かで陰キャな真一と、明るい陽キャなひかり。正反対の二人が、趣味を通じて心を通わせていくところが素朴でいいんですよ。
作中で描かれる鉄道模型Nゲージの世界も魅力的です。真一やひかりたち、高校生には決して安くない模型ですが、中古ショップを巡り、部品を集め、壊れた車両を直し、塗装を重ねていく。その地道な積み重ねの先に、世界でひとつの自分だけの一両が完成する喜びがある。
出来上がった車両をレールに走らせると、かすかな音と振動が部屋を満たし、時間が静かに流れていく。そんな穏やかなひとときが癒やされるんです。
最初は打算で近づいたひかりも、真一の不器用な優しさに次第に惹かれていき、真一もまた、可愛い趣味仲間との時間に胸を弾ませる。コレクターや、もの作りが趣味という人ならば思わず共感してしまうに違いない。鉄道模型が結ぶ、温かくて優しい青春物語です。
(「レールの上の私たち」4選/文=愛咲優詩)
有名な鉄道フォトコンテストで入賞するほどの「撮り鉄」高校生・野田真晴。しかし高校で写真部に入部するも、嫉妬と羨望から爪弾きにあってしまう。傷心の真晴を慰めるためネトゲ仲間が誘ったオフ会に現れたのは、大人気グラビアアイドルと、お嬢様校に通う清楚な美少女だった。さらに美人の幼馴染みも加わり、まるで夢のような撮影旅行が始まる。
正直に言えば、グラビアアイドルと、お嬢様と、幼馴染みに囲まれたハーレムのような撮影旅行が、羨ましくてたまりません。
ただそれだけじゃなくて、日本各地を巡る電車旅の風景がいいんですよ。小田急ロマンスカーの展望室から眺める箱根、信越本線で軽井沢の自然に触れ、江ノ電では江の島の海を、そして北海道ではトロッコ列車でラベンダー畑を駆け抜ける。どの旅路も鮮やかな情景で描かれて、まるで旅行に行ったような気分になります。
そして旅の思い出として浴衣姿だったり、水着姿だったり、ヒロインたちの魅力的な姿を写真に収めていく姿に、やっぱり何度も「羨ましい」と思ってしまう。鉄道と旅、そして人との出会いを描く青春ルポルタージュです。
(「レールの上の私たち」4選/文=愛咲優詩)
念願だった鉄道会社「JR西日本」への就職を果たした新社会人・勝浦礼。新人研修を終えた彼は、中国・四国地方最大級のターミナルである広島駅へと配属される。その日から、彼の鉄道マンとしての奮闘の日々が始まる。
普段、何気なく駅のホームで見かける駅員さん。そんなホームの「立ち番」の方々の苦労が身に染みます。
乗客の乗り降りを目視で確認し、ホームの安全を守るのが、礼の任された「立ち番」という役割。とくに在来線と新幹線が行き交う広島駅では、地元の利用客だけでなく、日本の鉄道に不慣れな外国人も多い。決して称賛されることはないが、数千人、数万人という人々の命を預かる責任ある仕事だ。
春夏秋冬、修学旅行生や帰省ラッシュ、行楽シーズン、年末の大移動と、ホームは休む間もない。猛暑の日も、凍える寒さの日も、礼は電車の安全運行のためにホームに立ち続ける。先輩の教えを受け、同期と励まし合い、鉄道マンとしての仕事の重みと誇りを得て成長していく姿に、「いつもありがとう」と感謝の念を送りたくなります。鉄道は、名もなき駅員さんの不断の努力で成り立っていることを改めて教えられる一作です。
(「レールの上の私たち」4選/文=愛咲優詩)