数日に一度、古い繁華街の一角にあるジャズ喫茶で書き物仕事をさせていただいています。やはり「仕事以外にできることがない」環境は仕事を捗らせずにはいられませんからね。そうです。私にとっての外出とはすなわち、己を追い詰めることなのです。
しがないとしか言いようのないライターですらそうなのですから、創作という修羅場へ日々踏み込んでおられるみなさまはなおさらですよね。カクヨムコンテスト11も2月2日11時59分が締め切り、最後の最後まで書き込み続けられている方もいらっしゃるかと思います。どうかご自身を追い立てて追い込んで追い詰めに追い詰めて、私のようなしがないおじさんを叩きのめす最高の一作を完成させていただけましたら!
さて、今月は金のたまご回。みなさまに出逢っていただきたい「この作品」をご紹介いたします。追い込みの合間に、人事を尽くして天命を待つじりじりした日々の最中に、またはいそがしい1日を踏み越えたその後に、ひと息ついてお楽しみください。
11月のある土曜日、浅井大樹の元へクール便が届いた。ずしりと重い荷物、その内に収まっていたものは弟である翔太の生首! しかも「あ、兄ちゃんや!」、突然しゃべり出して……。どうやら酷い殺されかたをしたらしいが、とにもかくにも昔通にしゃべるしゃべる。そうして始まったのだ。兄と生首との不可思議な共同生活が。
理不尽でシュールなシーンからスタートするこのお話ですが、驚くほど普通なのです。翔太さんは普通にクズ野郎なのに、思いの外真っ当な人間なのが効いているのですよね。
テンポよく朗らかに綴られる彼の驚くほど無垢な人となりが読者に好感を与え、最初は混乱していた大樹さんにもまた兄としての心持ちを取り戻させていく。気がつけば、兄と生首の日々という異様で異質な話ではない、兄弟愛で彩られたなんとも普通の人間ドラマに魅せられ、惹き込まれていくのです。
「何事か!?」から「何でもない」へシームレスに変じていくドラマ。他愛のなさの端々に光る大切なものを、あなたもぜひ拾い上げていただけましたら。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
進学した高校で、藤野冬佳は自転車に乗って行き過ぎただけの男子生徒へ一目惚れをした。彼――春松優斗は文芸部員の上級生で、その作品にまで惹き込まれた彼女はそのまま入部を決める。そして密かに想いを深めていったのだが。ずっといっしょにいる幼馴染みの入部をきっかけに、彼女は一目惚れをした自分と向き合わされることとなる。
表現が豊かですばらしい。用いられている言の葉というものがとにかく綺麗で、且つ可角が尖っていて。だからこそです。冬佳さんの日常が恋によって研がれていき、仄かな輝きを帯びる様が視えるのは。加えてその装飾の彩が、幼馴染みである水村秋乃さんをきっかけに光を削がれ、重く鈍いどろりとしたものに成り果てる様子が剥き出されるのは。
この流れを言い換えるなら青春の闇となりましょうが、こうまで叩きつけられるのは著者さんの妥協ない文章表現と、容赦なく冬佳さんを追い立て、追い詰めていく姿勢あればこそなのです。
ひとりの少女の内で演じられる恋の始まりから終わりまでを書き切った本作、ひと言で表せば「思春」です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
義憤の念から暴君ディオニス殺害を企てた羊飼いのメロス。かくて誰もが知る『走れメロス』が語られるかに思われたが……3日めの朝、ディオニウスが何者かに殺害されたのだ。容疑者は当然メロスである。が、妹の結婚式に出席していた彼には不可能。果たして人質から親友同様の容疑者へ立場を変じたセリヌンティウスは、謎の究明へ乗り出した。
名作をIFミステリー化した本作、探偵役のセリヌンティウスは自身の無罪を証明することを強いられるわけですが、相手は親友メロスの鉄壁のアリバイですよ。これがもう固い!
視点というものは物語の様相をまるで変えてしまうものですけれども、著者さんのこの捻り具合、実に読者を焦らして盛り上げてくれるのですよねぇ。いや、メロスがこうなると憎らしくてたまりませんよ。
そして来るセリヌンティウスとメロスの直接対決! けして派手派手しさはない、しかし緊迫引き絞られた言の葉の攻防、果てに明かされて証される真実とは!?
転じに転じて辿り着く末路、その様には息を飲むよりありませんよ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
一念発起して使いにくい冷凍庫を処分すると決めた天川。しかし、いざ処分しようとすれば立ち塞がるのだ。家電リサイクル法という壁が! 産廃業者へ産廃物を持ち込む。ただそれだけだったはずが、天川は思わぬ辛苦を味わうこととなる……。
量販店への割高な持ち込み料を惜しみ、天川さんは直接、古い冷凍庫を産廃業者へ持っていくことにしました。が、行ったはいいけれども迷って困って、いろいろ思って感じて。
実際に天川さんが体験した“初めて”に、読者である私もまた「へあー」と感心するよりありませんでした。出来事を正確に記し、右往左往する天川さんの赤裸々ぶりに「ふふっ」とさせられながら。
そして思ったのです。これって旅行記を読んだときの心境ですよねーと。実際、普通に生きていて産廃業者さんと接する機会なんてないじゃないですか。我々が日常を過ごしている場の内にはこんなふうにたくさんの異郷がある。その気づきこそまさに、エッセイの醍醐味なのです。
つまらない日常の裏にはその実未知が満ちている。それを楽しく教えてくれるお話です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)