特集
皆さん、最近生きていて誰かに裏切られたと思うことはおありですか? 僕は昨年、新しいタブレットを購入して「こいつがあればこの冬はずっと布団の中で暮らしていけるぜ!」と思ったのもつかの間、買ってから早三ヶ月で故障が発生し、先日泣きながら修理に出したものです……。
というわけで、今回は「裏切られた人々」が主人公の作品特集。裏切られた以上当然復讐がセット!……と言いたいところですが、復讐しようにもその対象が既にいなかったり、逆に実は被害者だと思っていたら、実は自分が加害者側だったなんていう作品もあり、復讐の爽快感ばかりではなく、なんとも言い難いやるせなさや、裏切られた以上に強い絶望感を味わえる作品もございます。
いずれも完結済みの作品のため、「この先どうなるんだ!」とモヤモヤすることはなく、一度読み始めたら最後まで一気読み必至な作品ばかり。是非あなたの好みの作品を見つけてください!
魔力が使えなくなり、信頼していた仲間の勇者にも見限られ、自身が創設したギルドから追放されたアーレ。以前から各所で恨みを買っていたためアーレに次々と刺客が送られてくるのだが、彼に残された武器はギルド運営で磨き上げられた口先三寸のみ……。
このあらすじだけだと、よくある追放ものに思われるが、本作の素晴らしいところは、登場人物の誰もが計算高く現実を生きているところにある。圧倒的に不利な立場ながら行く先々でタフな交渉を成功させるアーレはもちろん、彼を追放したルッツも王家を利用して、自身の権力を最大化しようと狡猾な計画を描く。さらにアーレが追放されたと聞いて彼のピンチを助けるためにやってくるヒロインたちも、その裏では自分だけがアーレを独占しようと虎視眈々と機会を窺っている。この登場人物が皆一筋縄ではいかず、誰もが毒のある考えを隠し持っているのが本作の大きな魅力だ。
スタートこそシンプルながらも、複数人の様々な思惑が絡み合いながら繰り広げられる会話劇は読み応えたっぷり。時には舌鋒ばかりではなく、実際の武力がぶつかり合うこともあり、竜や魔法が乱れ飛ぶアクション描写も絶品。主人公を助ける竜騎士や魔導士は相当の実力者なのだが、敵もただ一方的にやられるばかりではなく、しっかりと対策を練って挑んでくるからたまらない。
序盤から散りばめられた様々な伏線もしっかりと回収して完結しており、最初から最後まで太鼓判を押せるハイクオリティーな追放ものだ。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)
本作の主人公、ビル・リッジスはとことん裏切られ続ける。弱小貴族としてつつましく暮らしたかっただけなのに、戦争で軍功を挙げたために王からは不品行で知られる王女を押しつけられ、結婚から逃れるため領地に逃げれば、将来を誓った幼馴染が寝取られているのを目撃する始末。
これで終わればただの悲劇なのだが、リッジスはその卓越した戦の腕によって周囲に裏切られた後も、すぐに前以上の出世街道に乗ってしまう……そして、また裏切られるのだ! 過去の裏切りを乗り越えようやく平穏な日常を手にしたと思ったら、思わぬ角度からまた裏切られるこの落差がたまらない。
裏切りというインパクトに頼るばかりではなく、血気盛んだった若者が夫となり、父となり、そして老人となって亡くなるまでの、一人の男の生涯を心情の変化を交えながら最期まで描ききっているのも素晴らしい。経歴だけ見れば充分成功者と言えるのに、本人にはつらいことの連続となっている点に強いドラマ性が感じられ、ある種の大河ドラマを見ているような気分にもなれる一作だ。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)
男爵家に嫁いだものの夫のアルベルトからは全く相手にされず、さらに義母の死とともに離婚を言い出されたクロエ。彼女は離婚する条件として、生前に義母から譲られたあるものをひとつだけ頂戴していくのだが……。
離婚後、義母から譲られたものの影響もあってどんどん成功していくクロエ。一方元夫のアルベルトはクロエを手放したことで、ものすごい勢いで落ちぶれていく。ここまでだったらスタンダードな「ざまぁ」展開なのだが、そこにスパイスを加えるのがアルベルトの愛人であるマリーの存在。
商会の娘である彼女はクロエの存在が邪魔になると考え、言葉巧みにアルベルトを操って、クロエを追い落とそうと暗躍する。このマリー、狙い自体は悪くないのだが、駒として動くアルベルトが凡ミスを繰り返し、思わぬ形で周囲の地雷を踏み抜いていく様子が大変面白い。
「ざまぁ」的な要素はあるもののアルベルト側の自滅という側面が大きいため、そこまで陰惨な内容にはならず、またラストにはちょっとした救いもあって、爽快感ではなくしみじみとした読後感が味わえる内容に仕上がっている。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)
聖剣に選ばれ勇者として魔王討伐の旅に出たグラド。長い旅の果てに魔王を倒し10年ぶりに妻のラナが待つ故郷に戻ったグラドだが、そこで彼が目にした光景は、ラナが見知らぬ男、そして彼との子供と思わしき少年と仲睦まじく暮らす姿だった……。
妻の不貞を目撃して失意に沈むグラドは、共に旅をした仲間に慰められ、そのまま彼女たちと結婚することに。王都で盛大な式を挙げ、式に現れて泣きついてきた妻をあっさりと袖にするグラドだったが、しばらくして真実を知ってしまう。実は妻の不貞はグラドの勘違いだったのだ……!
裏切られた被害者だったつもりが、実は裏切った加害者だと突きつけられ、一気に世界が反転する絶望感がとてつもなく重い。またグラドが思い違いをした背景には様々な人物の思惑が隠されているのだが、そうだとしてもやはり一番の原因が自分にあるという事実は変えようがなく、もはや贖罪の方法も存在しない……。このグラドが精神的に追い詰められる過程は読み応えがあり、主人公を追いこむにはこれぐらいやらなければダメだという作者の意志を感じられる。内容が内容だけに人を選ぶかもしれないが、裏切りがもたらす重さを、これ以上なく読者に痛感させる一作だ。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)