現世と幽世を渡す"渡し船"。果たして誰が生者で、誰が死者なのか

焼却炉に身を投げた女子大生が「私が生きている限り、あいつはずっと傍にいる。(…)この死を持って、私――相澤恭香は自由を手に入れるのだ」
という遺書とともに大きな謎を残したことから物語は始まった。

しかし、必ずしも相澤恭香が「なぜ」死んだのか、そして「あいつ」は誰なのかが重要なわけではない(それは作中ではっきり明かされるのだが)。というのは、本作で重要なのはむしろ『人生相談センター~渡し舟~』の存在だからである。

これは「傍観」「幇助」「模倣」「転換」という四つの方法で自殺者をサポートする組織だが、特に後者の二つにはギミックがある。
模倣は、自殺を別な動機や事件の出来事に仕立て上げること。
転換は、いわば自分を死んだことにして別な人の死体を用意することだ。

恭香がこの仕組みを利用したことは想像に難くないわけだが、むしろ問題は、他の人々が"渡し船"を利用したことによって奇妙に物語を捻っていくところだ。

そこでは好意と殺意がすれ違うのとともに、偶然と必然が交錯しているのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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