まずはカクヨムコンテスト11、ご参加くださったみなさま本当にお疲れ様でした! 私も新たな眼鏡を装着して読ませていただいておりますよ。ええ、もう2月が終わりそうという現実に打ちのめされながらね。いやいやそれはともかく、結果発表までもうしばしお待ちくださいね。
 そして今月は現代ドラマ×妖怪ということで、現代社会に在る妖怪をテーマとした4作品を選ばせていただきました。
 甘やかな異種族恋愛ファンタジーは一大ジャンルとして確立されているわけですが、現代ドラマはそれこそ現代だからこそいろいろな切り口が見いだせるテーマかと思うのです。だって異種族だからこその人間との相違点や、すぐそばに存在していればこその意外な類似性など、種々様々な要素との噛み合わせがいいジャンルですから。
 しかも「昔からいる」のはもちろんのこと、都市伝説のように「先ほど生まれた」でも成立しますからね。ネタがぶっ込みやすい!
 というわけで。書かれるみなさま、読まれるみなさま、どちら様にも親しんでいただき盛り上げていただけますとわたくしうれしゅうございますよー。

ピックアップ

真っ暗な先に灯を点したものは、懐かしい土地に在り続ける懐かしい者たち

  • ★★★ Excellent!!!

 上司の失敗をなすりつけられ、心を壊して辞職へ追い込まれた柊カナミ。が、なにもかもを失い果てた彼女は見つけるのだ。大好きだった祖母がくれた色あせた小箱を。同封されていた鈴の音を頼りに帰郷した彼女は、祖母の家でその地に住む人々と、そして人ならぬ者たちと再会する。

 短く刻んだ一文が効いていることにまず目を奪われました。これによってぽつりと剥き出される心情こそが、カナミさんのへし折れてしまった心の有様をなにより明確に表していましたから。

 けれどもしかし。
 同じ一文が、今度は闇底に囚われた彼女の心が様々な人と妖怪たちとの交流によってあたためられて動かされていく、その感想と感動をなにより強く表してもいるのですよ。

 誰かの言葉が彼女を少しずつ満たし、癒やしていく。けして強い言葉が連なっているわけではないのに力強さを感じるのは、そこにカナミさんの折れてしまった心が接ぎなおされていく、確かな予感があるからなのですよね。

 この作品をひと言で表すなら「情け」。読めばきっとあなたの心にも標の灯火が見えるはず。


(「“今”に潜むあやかしども」4選/文=髙橋剛)

奥多摩の古民家カフェは人とあやかしとで今日も変わらず営業中

  • ★★★ Excellent!!!

 夜勤明けで疲れた体を引きずり、葛城命は電車に乗ったのだが……寝過ごして乗り過ごし、着いた先はなんと奥多摩。そこで彼女は子狐と出会い、導かれるまま進み進み進んだ果てに倒れ伏す狐耳の美男子と行き会ったのだ。彼はもらった握り飯の恩に報いるため彼女の夢であるカフェで働くと言い出し、果たして命は夢を叶えることとなるのだった。

 奥多摩に開業した『古民家カフェあやかしや』店主の命さんがお客さんのお茶にまつわる問題や謎を解決していくお話――なのですが。

 人情系探偵ものかと思って読み始めると違うのですよ。狐妖怪の永久さんとの噛み合わないコメディ。あやかしたちとのほのぼの交流劇、神隠しにあった命さんの父親を探すシリアス。それぞれがちゃんと確立していますから。

 ただ、読み進めていくとわかるのです。様々な要素が絶妙な配合によって妙なるフレーバーを匂い立たせていること――まさにこの物語ならではの味わいを確立している点、そのすばらしさが。

 すっきりした飲み口がいつしか鮮やかな深みを成す物語、どうぞお召し上がりください。


(「“今”に潜むあやかしども」4選/文=髙橋剛)

誰かの姿を盗み取って悪事を働く妖怪は、雑巾に染ませた酢の臭いを放つ

  • ★★★ Excellent!!!

 ある障害を抱える山崎業人は、就労継続支援B型(B型作業所)で社会復帰を目指していたが、突然報せが入る。かつて酷く炎上して止めた配信者活動を見知らぬ誰かが勝手に引き継ぎ、しかも迷惑行為をしていると。しかも、自分と同じ顔をした男が……! 父と共に真相を究明しようとした業人は、その男が妖怪“布酢怒”であることを知る。

 絶対に自分ではない、でも自分にしか見えない存在。これ以上なくキャッチーな冒頭に心を鷲掴まれました!

 状況設定の作り方がすばらしいのですよ。主人公を今すぐ動くしかない状況に追い詰める巧みさと容赦なさ。しかもですよ、そんな業人さんへ降りかかるあれやこれや、その怒濤っぷりたるやもう凄まじいとしか言いようなし!

 人物がしっかり立てられているからということはもちろんですが、構成という骨組みが太く堅牢だからこそです。その怒濤に押し流されることなく布酢怒という未知の脅威を際立たせ、読者の心を絞り上げるのは。

 さて、いったい業人さんはどんな真実を見るのか? 彼と共にご確認ください。


(「“今”に潜むあやかしども」4選/文=髙橋剛)

くねくねはあそこにいた。よだそうはそこにいた。

  • ★★★ Excellent!!!

“あいつ”と連れ立って妖怪くねくねを探しにいった“おれ”と、自分のことを怪人よだそうだと言う“彼女”と病院で出会った“あたし”。ふたりが語るふたつの過去と怪奇談。

 くねくねは有名ですが、よだそうってなんだ? そう思って読み始めて、読み比べて、唸りましたよ。どちらもホラーではないんです。怪奇を入り口にして、ふたりがそれぞれ“あいつ”や“彼女”について語る――どちらもままならないものを抱え込んだ彼らの人物像を掘り下げていく回顧録なのです。

 一人称がいいのですよね。語る対象が他人ですから、理解しきれない部分が大きくて、今もわからないことばかりで曖昧で、話をどれほど重ねても神視点じゃないからこそ謎と余韻がずっと居座る。

 そして“おれ”と“あたし”がこの「わからない」という名の空白に自分の心情や心境を差し込み、対象者よりむしろ自分の心を浮き彫りにしていく展開、これに撃ち抜かれました。

 モキュメンタリー風味の物語だと思ったらこの上ない私小説だった。そんななんともいえない叙情を噛み締めさせられる物語です。


(「“今”に潜むあやかしども」4選/文=髙橋剛)