蝉川先生の作品は本作と異世界居酒屋「のぶ」しか読んでいないが、これまたさじ加減が絶妙であるとしか言えない。何のさじ加減かと言えば、”ほのめかし”である。架空の世界を舞台としていながら、その設定はすんなりと読み手の頭に入ってくる。しかしそれでいて読み手から想像力を働かせる余地を奪うわけではない。むしろ空想は広がる一方であり、読むにつれて期待が高まるのが抑えられない。これは”ダンジョン”という王道的な単語を呼び水に舞台設定の下地を作ることで間口を広げ、<愚帝の霊廟>や<狗使い>といった独特のキーワードで読み手を捕らえて離さない、ということなのだろうが、見事に捕まってしまった!と言わざるを得ない。
やや固い文体と、今はまだ最序盤で説明要素が少し多いかもしれない。そんなところはライトな作品に慣れ親しんでいる諸兄には一歩引かれるかもしれないが、これは読み続けていく価値のある一作であると、私は断言しよう。
『異世界居酒屋「のぶ」』や、『邪神に転生したら~』の蝉川夏哉先生の新作は、ダンジョン脱出物であった。
ダンジョンと言えば、トルネコの不思議のダンジョンやら、風来のシレンやらの、いわゆる、ローグライクゲームと呼ばれるものがある。
この手の”ダンジョン”、潜るだけなら結構潜れるのだ。
ただ、帰る事が難しい。
どれだけ潜って、どこまでで帰還するか。
それに少しでも失敗したら――ゲームオーバーである。
それに似た、シビアな妥協なしの”空気”を、この作品からは感じとれる。
ヒロインエナは、ゲームオーバー一歩手前で、主人公アリルと出会うことが出来た。
これからどう脱出するのか、追手をどうかわすのか、毎週が楽しみでならない。
期待大である。