広がるダンジョンに、貴方の想像力

蝉川先生の作品は本作と異世界居酒屋「のぶ」しか読んでいないが、これまたさじ加減が絶妙であるとしか言えない。何のさじ加減かと言えば、”ほのめかし”である。架空の世界を舞台としていながら、その設定はすんなりと読み手の頭に入ってくる。しかしそれでいて読み手から想像力を働かせる余地を奪うわけではない。むしろ空想は広がる一方であり、読むにつれて期待が高まるのが抑えられない。これは”ダンジョン”という王道的な単語を呼び水に舞台設定の下地を作ることで間口を広げ、<愚帝の霊廟>や<狗使い>といった独特のキーワードで読み手を捕らえて離さない、ということなのだろうが、見事に捕まってしまった!と言わざるを得ない。
やや固い文体と、今はまだ最序盤で説明要素が少し多いかもしれない。そんなところはライトな作品に慣れ親しんでいる諸兄には一歩引かれるかもしれないが、これは読み続けていく価値のある一作であると、私は断言しよう。