まず率直に……すっごく面白かったです。
キャラクター造形、世界設計、謎の提示と伏線回収、長編としての構成、芯たるテーマの通し方……全てが高いレベルにあると感じます。
ホント、ちょっと驚くくらいの満足度でした。
ハイファンタジーが好きなみんなにオススメしたいなぁ、この作品。
……と、そのうえで。
野暮を承知で、ビジネスとしての編集目線で申し上げるなら。
この完成度をできる限り維持しつつ(商業100%の思考なら、損なってでも)、「5秒で通りすがりの読者の目を引けるような、何か」を設定できると、より裾野の広い作品になるのかな、と思います!
手が止まらなかった。と言えば、言い過ぎに聞こえるだろうか。
ファンタジーに慣れた者なら、洪水のように流れ込む用語の数々に混乱することもなく、またベタな要素に笑みを浮かべることもなく、素直に読み進めることができるのだろう。恥ずかしながら私はその手のファンタジーに不慣れだったため、設定を把握するのに四苦八苦する無様を晒していた――序盤は。
四章に区切られた本編。内初めの三章は、終盤へと進んでいくにつれ加速を始める。怒涛の展開に次から次へと明かされる秘密、そして新たに生まれる謎。きっと一章を読み終えた時、読者は誰もが同じ実感を持っていることだろう。しかし真に驚くべきは、その加速が三章に通じてさらに速度を増していくということだ。まるで拳銃に込められた弾丸のように、回転しながら急転回を繰り返す。射出された鉛は、四章という名の"果て"へと到達する。"果て"に広がるは広大な世界だ。"果て"から始まり、"果て"へと到達したこの物語は、無限の未来へと収斂するのである。
いささか比喩が過ぎたか。だがこれだけは述べておきたい。四章全てを読み終えた時、初めて読者はその可能性――エピローグ二編に触れることができる。これほど重厚で芳醇な読後感を味わえるのは至上の贅沢だろう。その贅をこそ、享楽として共有し語らいたいのである。
文字数、読了時間に見合った読後感、満足感。それがここにある。
四の五の言わずに、まずは読め。
まず世界には謎がある。
それを紐解く旅に出るのが読書だと思う。
ゲーム実況のような、誰かにエスコートされて物語世界を楽しむのが、今や悲しいことに一般的で、“謎”は鳴りを潜め、“不思議”は息を殺している。
だが、ここには謎が、不思議が、昔のままに息づいている。
読み進めれば読み進めるほど、謎が謎を呼んで、世界がどんどん深まっていく。
──まるで、地下10階へと続く大図書館のように。
エスコートしてくれる相手は必要ない。
なぜなら、主人公が、ヒロインが、あなたと一緒に旅に出てくれるから。
読書って本来、孤独を愛する人のためのものだと思う。
……あ、それと、キャロラインはでたらめ敬語かわいいです。
主人公ノルド君は、「壁の向こう」を目指します。
それは、「ファンタジー」を追い求める私達と重なります。
向こうにあるものは何だろう?どんなものが待っているんだろう?
ファンタジーが好きな人なら、ノルド君を他人とは思えないでしょう。
そして、彼の冒険は、読者の冒険ともなっていく。
其れ程までに、主人公へ感情移入でき、主人公に共感し、主人公を想うことができる作品です。
作中では、一般的な異世界ファンタジーとは違った、本来ファンタジーでは出ないような世界が広がっています。
しかし、「主人公に感情移入している読者」として見るからこそ、この世界観が「異質であり、不思議な世界」となり、ファンタジーを際立たたせています。
そして、主人公ノルド君の変化と、登場人物たちとの交流。
感情移入が強くなるからこそ、この人間関係が強く胸に刺さってきます。
「読者」としてではなく「主人公と同じ目線で、共に歩める」
それがこの「双つ月の三界譚」です。
ファンタジーが好きな方ほど、この作品をオススメしたい。引き込まれること間違いなしです。
少しの寂しさと未来へ向かう力強さと爽やかさ、これがこの物語を読み終わった読後感です。
少しずつ明かされる歴史や真実にああ……と思いながら面白く引き込まれました。
ラストは柔らかな陽ざしと風の暖かさを感じられて好きです。
居なくなった彼のことは残念だけど、彼の本当に望んでいたことはいずれ叶うと信じたい。
多分それは三界で真実を知り前を向いて歩く人達すべてが望むことだと思うから。
立場の違いやこれまでの歴史から簡単に争いはなくならないだろうけど、すべての種族が知らず食卓を囲んだあのシーンのようにお互いが思いやれる存在だってことに人々がいつか気づければいいけど。
次世代の彼らには幸せになりつつ頑張って欲しいなあ。
(3/17追記あり)
【2016年3月8日 11:18 レビュー】
果ての壁、好奇心をそそる地下迷宮図書館と中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を堪能していたつもりが意外な天界の世界に。
主人公ノルドにいったいなにがあるのか、二つの世界(敵の世界もあると仮定すると三つ?)が今後どうなっていくのか。
美しい描写と息を飲むアクションシーン。
そして世界の謎、先が楽しみです。
(3/11 追記)
新たな人物と世界が加わり謎に迫れるのか、それとも謎が深まるのか。
そして期待したい再会もありそうでますます楽しみになってきました。
(3/15 追記)
ロジオンとノルドがいいコンビに(笑)
なんとなくいろいろ繋がってきそうだけど、情報が少なくて想像しかできない。でも楽しい。
(3/18 追記)
ロジオンさんがいるおかげか魔界が一番居心地がいい。女性悪魔さんも何を教えてくれるか気になるけどね。
果たして壁の向こうにはなにがあるのか。
「知ること」に対する主人公ノルドの知的好奇心の強さは読者と共鳴し、先を読みたいという気持ちを強くします。主人公のみが興味を示す膨大な閉架を持つ大図書館を探検する、読書が好きな方なら琴線に触れる設定ではないでしょうか。
作中における魔術と方術に対する説明も違和感なく脳にスッと入ってきます、世界設定なども全体を通して読みやすいです。
一章では閉ざされた世界における静かな空気感が魅力的です、二章では世界観や空気感がガラッと変わります、是非その目で確かめてください。
天界とは、そしてプロローグの少女が語る生き地獄とは。この世界の全容を把握するまでは目が離せません。
この作品では、あらすじにも書かれている通り、主人公の少年ノルドの住むメイリベルの町は『果ての壁』と呼ばれる壁で覆われている。
何故『果ての壁』というものが存在しているのか?誰が作ったものなのか?向こう側には何があるのか?
町に住む者ならば理由を知っていて当然、知らずとも疑問を抱く位は自然といった所……にも関わらず、誰一人理由を知らず、ノルド以外はそれを考えもせず、知ろうともしない。
読み進めていくと、読者である我々もまた、当然、それらの疑問の答えを知りたくなってくる。
まるで自身がノルド少年であるかのような感覚を味わえる。何故、誰もこれらの疑問の答えを知りたいと思わないんだろうか?
これは、この作品の世界に引き込まれているからに他ならないだろう。
探究心と好奇心に満ちたノルド少年は、私たち読者の写し身とも言えるのかもしれない。
壁の向こう側に何があるのか……?ノルド少年と共に知っていきたい、無数にある謎の答えを知りたい、続きが読みたい、と思える作品であると、私は評させていただきます。
ファンタジーと言えば、私は中世で人口が少ない所だと牧歌的な、多いところだと喧騒が聴こえ、ものが溢れかえっている様相を想像します。
メイベリルの町はほどよい田舎で、石畳で整えられた静かな雰囲気がとても美しい街なのだろうと、読み進めるうちに思い馳せていました。
図書館の描写も丁寧で、ノルドが閉架書庫を探索するさまに引きこまれて行き、気が付くと読み進める手が止まらなくなっていた。
その後、果ての壁での出来事から、この物語の根幹にかかわる情報が一気に流れ込んで来ますが、流されずに、そこかしこに散りばめられた三界の謎を追って読み解いて欲しい。
珍しい形のハイ・ファンタジーで、ミステリーの雰囲気も楽しんで。
まず感じるのは、主人公周辺がとても閉鎖的であるということです。
『果ての壁』はもちろん、街の人々の冷たさは、主人公の生活の閉塞感をよく表しています。
個人的に一番象徴的だと思ったのは、広大で多量の書物を収めている図書館に、街の人々がまるで無関心だということ。そこにある知識の泉にそっぽを向いていることは、街の人々が現在の生活で何も不満がないことだと思います。
だからこそ、主人公ノルドの好奇心や知識欲がコントラストになってよく映えるのでしょう。
壁を乗り越えようとする。本を探す。主人公の行動一つ一つがこの時の止まったような街では異質であり、だからこそ物語を読む我々には魅力的に映ります。
天使や悪魔に魅了された少年が、これからどのように歩んでいくのか、とても楽しみです。