生物系大学院生のためのファンタジーノベル

生物系院生たちの艱難辛苦の記憶と親近感をくすぐってくる。ポジ/ネガコン、「呪文」構造解析、超解像イメージング、インターカレーター、ドミネガ、フレームシフト、実験動物を用いたモデル実験に目の色の形質による評価。実験系確立のために数週間空振りしたり、幸運を味方にしてポジティブデータを得たり。
地方国立大のマイナー分野研究室での描写は(ちゃんとドラマチックにしつつも)写実的でどこをモデルにしているのかと疑うレベルだし、一方で魔法/呪術の考証はよく練りこまれていて十分な説得力とSF的魅力まで持つに至っている。

ただ、ここまで想定読者層狭めるならいっそ(武闘派巨乳ツンデレヒロインや蛇足的ハーレム展開といった)ラノベ成分入れない方が突き抜けてて良かったのではとも思い少し残念。なぜなら、めちゃくちゃ面白いのにラボで周囲に勧めにくいからだ。そういうのが苦手な方(カクヨム開く人なら大丈夫かな?)は、ちょっと目を瞑って読み進めて欲しい。それだけで読むのを止めるのはあまりに惜しい。
この物語においてはそれらも不可欠な要素として編み込まれているので難しいと思うが、そっちのバージョンもあれば是非読みたい。

41話(完結?)更新後追記。
対ヒト呪術という重要性の低下した研究分野としても、解呪研究のプログレスとしても、また、マイナー分野を歩む博士学生のキャリアパスとしても、実に痛快な結末だった。ポスドクとなった「僕」の次なる活躍に期待。

その他のおすすめレビュー

@sakaiyさんの他のおすすめレビュー9