「子供のやること」と付けられれば、なぜか微笑ましいものとされてしまうのがお定まりですが。そこには大人と大差なく、摩擦、衝突、怨恨、憎悪がわだかまっているものです。大人とは違う、経験や老獪さのうすい心がぶつかり合う時、まさに凍りつくような思いが、自他問わず、大人まで巻き込んでしまうのかも知れません。冷凍室のなか、白く凍りついた魚の姿に象徴される恐怖。
どこか遠くにありそうな、しかしながら身近にありそうでもある不気味で既視感を覚えました。だれもが奥底にもっている感情や子供のころの記憶に潜む暗がりが不意に現れたような作品です。是非。
私は『魚』というタイトルのホラー小説を探していました。自主企画を立ちあげ、みなさまのお手元にある『魚』を募りました。一番最初に見せてくださったのが、秋犬さまの『魚』です。素敵な『魚』でした。街で暮らしていれば魚は食品ですが、生活を共にしているとまた違ったにおいがありますよね。私には、彼らが大人としてやるべきことを執行したようにも見えます。狂人はずっと狂人であるという怖さ。今の社会に蔓延るリアルです。非常に身近なホラーでした。ありがとうございます。『魚』を探してくれて、ありがとうございます。
人口の少ない漁師町、娯楽に飢えた子供、しみついた魚の匂い――文中で的確に表現されるじめっとした空気、ノイズ入りのモノトーン映像のような漁港、その場の温度までを感じさせるような手腕にただただ感服しながらも、ストーリーを追う目は止まらない。作者の手が抜かれることなく迎えるラストは、読み手の肚を急速に冷やすだろう。魚は、もしかしたらあなたのことも見ているかもしれない。
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