小説は、嘘です。
当たり前のことを言って驚かせて失礼しました。フィクションであっても内部に真実を隠していると信じて、私達は小説を読みます。
それでは、本作冒頭に描かれる、登場人物がことごとく嘘をつく様子は真実でしょうか。「人間は嘘つきだ」という真実を描いたと見るでしょうか。
嘘と真実は線を引いて分けられるものではなく。嘘をつく理由は様々で一概に責められるものでもなく。それは当たり前のことなのに。複数の嘘が積み重なる中で、嘘が様々な貌を持つことが見えてきます。題名と真逆ですが、群像劇としてはそうなのです。
嘘をつくなら、どのような方法で、どのような意図を持って。その二点を本作は突き詰めます。そして、最後に、嘘をつかれてよかったと多くの人が思うと信じています。
上手な嘘つき。それは作家にとって最上の褒め言葉です。
「ああ! やられた!」と、ラストまで読んで思わされました。
「ああ! 読んで良かった」と、同じく最後のページまで読み終えた後で満足させられました。
本作はいわゆる「ホラーアイコン」が目立つ作りになっています。
出版社勤務の山城は、「とある事故物件」マンションに住むことを命じられる。
ホストをしている鈴木は「霊能力者」の竜泉という名前で活動することになる。
息子と娘を持つ大樹は「息子の謎の失踪」という事態に見舞われる。
ひとまずこの三人のコンセプトを見るだけでも、「ホラーとして何か怖いことが起こりそう」な雰囲気が漂ってきます。
果たして、この先に何が起こるのか。山城が怪奇現象などに見舞われるか。竜泉もインチキをした先で怖い目に遭うか。
でも、そういう予想とは別の方向へ、読者は最終的に連れて行かれることになります。
いかにもなホラーアイコンで「大体こんな感じになるのかな」と自然と想像させられてしまう感じ。そういう感覚を抱いた瞬間に、既に作者の術中にはまっていた。その事実に気付かされた瞬間に、「うむむ!」と唸らされることになります。
「なるほど、そういうことか!」というのが読み終えた後の感想。
とにかく、絶対に最後まで読んで欲しい作品です。