②
怜が買い物をすませて帰宅する頃には、薄暮の中にたくさんの灯りが浮かんでいた。手元の時計はまもなく午後六時。今日はずいぶん早く終業できた。おかげでゆっくり料理に浸れそうだ。
カードキーで開錠して家の中へ。この春に越してきたばかりのここは、ルーフバルコニー付きの高級マンションである。
五十二階。驚きの3LDK。
今流行りのデザイナーズマンションは、部屋の隅々までお洒落で眩しかった。
おまけに広い。すこぶる広い。
LDKで三十畳超えという桁違いの広さに、落ち着いて寛げるようになるまで、半年の時間を要してしまった。
このマンションを選んだ理由はふたつ。
ひとつは、怜の通勤に便利な立地だったから。そしてもうひとつは、セキュリティ面で非常に優れていたからだ。とくに後者は、彼と暮らすうえで絶対に欠かすことのできない要素だった。
パリッとしたスーツから、だぼだぼのパーカーに着替えてキッチンへと向かう。髪も緩くシュシュで結い直し、邪魔にならないように袖をまくり上げた。
帰りに購入した、いちごタルトと生チョコタルトを大事に冷蔵庫へとしまい込み、エコバッグから材料を取り出し調理にかかる。
最後にこれを作ったのはいつだったろうか。たしかそのときも、彼は「美味い」を連発し、嬉しそうに食べてくれた。
ちゃんと工程は覚えているだろうか。腕は鈍っていないだろうか。
「……よし」
気合い一発。
マカロニを茹でて、具を炒めて、ホワイトソースを作って。
ふたり分の真白いグラタン皿に盛りつけ、パン粉とチーズをたっぷりとふりかける。
キッチンに広がる、あたたかくて、まろやかな香り。おのずと顔が綻ぶ。
なんでもいいと言われてしまった。だから作る。
彼の好物のグラタンを。
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