④
あれからすぐに退勤し、家に着いたのは午後七時を少し回ったところだった。
途中、お気に入りのカフェで小さなオードブルをテイクアウトし、コンビニに寄ってスパークリングワインを購入した。お洒落で可愛いラベルの白ワイン。アルコールは滅多に飲まないけれど、今日はなんだか気持ちよく酔えそうな気がした。
ひとりでの夕食。ほんの少し贅沢気分を味わった後、片づけをしてリビングに移動した。
ソファの上に、両膝を抱えて座り込む。テレビをつけて該当のチャンネルに合わせれば、前枠のバラエティ番組が盛り上がっていた。
夫が本番を迎えるまで、あと半時間だ。
「十夜たち、大丈夫かな……って、大丈夫か。素人じゃないんだし」
結成十年。デビューして五年。
彼らが小さなライブハウスで演奏しているときからずっとそばで応援し続けてきた。
正直、音楽のことはよくわからない。流行の音楽にはすこぶる疎いし、俗に言う〝推し〟なんかもよくわからない。
でも、十夜たちの音は好きだ。お腹に響くほどの重低音は怖いし、高音のピッキングハーモニクスは脳みそを掻きむしられるようで肌が粟立つけれど、それでも。
彼らの、真っ直ぐな音が、自分は大好きだ。
「……」
自分が十夜のそばにいることで、十夜だけではなく、ほかの三人の邪魔になるのではと考えたこともあった。実は、何度か十夜のもとを去ろうとしたこともある。
だが、そのたびに、三人はこう言ってくれたのだ。「十夜と一緒にいてやって」と。
それは、身寄りのない、幼い自分のことを想ってかけてくれた言葉なのだと知っている。
だから、彼らの邪魔にだけはなりたくない。彼らの夢を壊すようなことはしたくない。
してはいけないのだ、絶対に。
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