⑦
「よし、終わり」
ぴっぴっ、と手から垂れる水滴を切って、残りはタオルできれいに拭き取った。
シンク周りを入念に掃除すること半時間。いまだ稼働中の食洗機にほのかに不信の眼差しを注ぎつつも、とりあえずピカピカとなったシンクに、怜は満足しているようだった。
「終わったよ」
「おー、お疲れ。紅茶準備できてるぞ」
「あ、うん。ありが……あっ!!」
足取り軽やかに夫の元へ向かおうとした怜の目に飛び込んできた光景。
それは、身の毛がよだつほどに恐ろしいものだった。
「ちょっ、十夜、何食べ……」
「んあ?」
今まさに十夜はタルトを頬張った。怜の目の前で呑み込んだ。
真っ赤なイチゴタルト。帰宅する前から楽しみにしていたイチゴタルト。彼と暮らし始めた頃から、ずっとずっと大好物のイチゴタルト。
甘いものが苦手な十夜には、ビターな生チョコタルトだったのに。
「ひどい!」
「いやいや、先言っとけ?」
「何年一緒にいるんだ!」
悪びれる様子のない夫。
その顔が綺麗すぎてかっこよすぎて、妻は余計に腹を立てた。
<to be continued……>
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