⑥
「ぅなっ……えぇっ!?」
整いすぎるくらいに整っている怜の顔が奇抜にうねった。大きく見開かれた目には、日本人離れした十夜の秀麗な顔。真剣な眼差しが真っ直ぐ妻を射貫く。
「む、無理無理無理無理! ちょっと待って!」
「事務所には了承もらってるって言ったろ? 公表すれば、気兼ねなく一緒に外出できる。買い物だって、遊びだって、誰に気を遣う必要もない」
「だからちょっと待ってって!」
淡々と話す夫の声を、怜はシンクを叩いて遮った。その勢いのまま、カウンター越しに前傾姿勢で迫る。
「公表して、もしそれでバンドの人気が落ちちゃったら? わたし生きてけない! 切腹だよ! HARAKIRI!」
「なんでだよ……」
独特の妻のセンスに、金色の眉尻が下がる。思わず漏れる嘆息。慣れてはいるものの、いまだその表現を予測することは不可能だ。
呆れながらも感情を乱さない十夜とは対照的に、怜は不安や心配を呪文のように呟いている。
彼女がこんなふうに感情を顕わにするのは、最近では珍しくないことだ。けれど、その凄絶な過去を知るだけに、十夜はつい嬉しくなってしまった。不謹慎と承知で。
「ま、今日はいいや。タルト食おうぜ。買ってきてくれたんだろ?」
「え? あ、うん……」
「オレ紅茶淹れる」
気持ちをバタつかせる妻が、たまらなく愛おしい。
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