世界が美しく見える理由

那月 結音

第1話

 プラチナリングが、きらりと光る。

 秋空に滲む夕日を反射しながら、左手の薬指で清楚に光る。

 色白で華奢な指。その先が持つスマートフォンは、たった今通話モードに切り替わった。

「もしもし。お疲れさま。……うん。さっき仕事終わって、これから駅に向かうところ」

 控えめな薄桃色のルージュで彩られた唇。瑞々しいそこから零れる声は、風采に比して少々幼く感じられた。

 オフィスカジュアルな黒のパンツスーツに、踵の低い黒のパンプス。インナーは、薄手の白いタートルネックセーターで、シックに可愛く纏められている。

「夕飯、家で食べれる? ……わかった。じゃあ、用意して待ってる」

 腰まで伸ばした黒髪をひとつに束ね、毛先を風に遊ばせながら雑踏を歩く。切り揃えられた前髪から覗く、黒くつぶらな瞳は、まるで猫のような愛嬌を湛えていた。

「何が食べたい? ……え? なんでもいい? それ一番困るやつ」

 道行く人々が、頬を染めて振り返る。いつでもどこでも注目を浴びるほどの麗姿を携えているにもかかわらず、当の本人はまったくといっていいほど気にしていない。というより、気づいていない。

「じゃあ、わたしの独断で作る」

 周囲の視線をよそに、淡々と会話を進める。見た目と口調にギャップがあることは否めないが、彼女をよく知る人は皆「そこがチャームポイントだ」と口を揃える。

 彼女——一色いっしきれいがスクランブル交差点に差しかかったところで、信号が赤に変わった。

 スマホを耳に当てたまま、立ち止まる。

「やっば! ノワのMVじゃん!」

「ヴォーカルのToya超かっこいいよねー!」

 女子大生だろうか。今時のファッションに身を包んだ彼女たちの黄色い声が、怜の耳に入ってきた。もしかすると、通話の相手にも聞こえたかもしれない。

 真正面にそびえるビルの群れ。そのうちのひとつに嵌め込まれた巨大なディスプレイに、その場にいる大勢の人が吸い寄せられるように視線を留めた。

「……あ、そうだ。いつものお店でタルト買って帰るよ」

 躍動する4つの影。

 仄暗いセットの中、それぞれ黒の衣装を纏い、迫真のパフォーマンスで圧倒し魅了する。

 官能的で洗練された真善美。

 ドラムを、ベースを、ギターを、カメラが順に抜いていく。

 流れていたのは、今を時めく、あるロックバンドのミュージックビデオだった。

「……うん。うん。じゃあ、またあとで」

 サビの直前。画面を占拠するように、金髪の男性がゆらりと浮かび上がった。マイクを持つその艶姿に、人々の意識は釘づけとなる。

 信号が青に変わる。人の波が動き始める。

 次の瞬間、息を呑むほど研ぎ澄まされたミックスボイスが、交差点内に凛然と響き渡った。

「気をつけて帰ってきてね——十夜とおや

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