二章 和の国の姫君、ハレムへ行く ―④
初めて見た浴場は、私に鮮烈な衝撃を与えた。
内部は三つの部屋に区切られている。着替えをしたり、
──すごい。こんなの初めて見た。
心臓が激しく脈打っていた。
じりじりと後ずさってぽつりとつぶやく。
「みんなすっぽんぽんだわ……!」
ありえなかった。浴場にはおおぜいの女性がいる。かろうじて大切な部分は布で隠しているものの、誰もがおおっぴらに素肌を
「うう……恥ずかしい……!」
私も裸だった。布をギュッと握りしめて、素肌を
「なんでそんなに拒否するのよ?」
「ヒッ! ま、前くらいは隠しなさいよお……!」
デュッリーの態度は堂々たるものだった。豊満な肉体を見せつけられて真っ赤になる。あからさまに顔を背けると彼女は
「和の国……だっけ? お風呂に入る習慣がなかったの?」
「あったわよ! もちろん!!」
でも、こんな大人数で入ったりしない。入浴はいつもばあやと二人きり。それも、
「私の知ってるお風呂と違う〜!」
頭を抱えていると、デュッリーがクスクス笑った。
「しばらく市街の邸宅で過ごしてたでしょ。その時はどうしてたのよ」
「よぼよぼのお
「なるほどねえ」
そもそも専用の浴場はなかった。湯を張れる設備を持つ家はよほどの金持ちだ。
「部屋に戻ります」
さっさと
「逃がさないわよ。磨くって言ったじゃない」
ぎらり。デュッリーの瞳が妖しく光る。
「お願いします!」
一声かければ、おおぜいの女性が寄ってきた。
「ふわあ……」
湯船に浸かったとたん緩んだ声が出た。末端からジワジワと熱が伝わってくる。緊張で硬くなっていた体が自然と
「ゆ、湯船に浸かるってこんなに気持ちいいの?」
あまりの衝撃に
「失礼いたします」
「──!?」
縁に寄りかかっていた頭に、熱めのお湯がかけられる。すかさず香油を注ぎ、頭皮を
「……な、なにこれえ」
ふにゃふにゃの声を出すと、そばにデュッリーが立っているのに気がついた。
「ライラー。全身をマッサージしてあげるわ」
「まっさ……?」
「マッサージよ」
にこりと笑みを浮かべて手を差し伸べる。
瞳には熱がこもっていて、なぜだか底知れぬ艶っぽさを醸し出していた。
「言うことを聞いたら、いまより気持ちよくしてあげるって言っているの」
「デュッリー……!」
──きゅうん、と胸が高鳴った。
彼女の手を取った私は、めくるめく新しい世界へ旅立った。
ほんのり温かい大理石の寝台に横たわりマッサージを受ける。体中の凝りを解され、たまった
「これは……!」
浴場内ではお菓子がふんだんに振るまわれていた。
「あああああ! 浴場最高!!」
ご満悦である。
ここは極楽? 極楽に違いない……。
緩みきった顔でシェルベットを頰張る。羞恥心なんてどこかへ行ってしまった。
裸の付き合い? いいじゃないか。こんなんだったら毎日来たい。
「どうだった?」
デュッリーが私に
「すっごく気持ちよかった。抵抗してたのが馬鹿みたい。ありがとう」
「そう!」
「なあに? それ……」
「これ? 砂糖を煮詰めてから、蜂蜜とレモン……酸味の強い果実の汁を加えたの」
「砂糖に蜂蜜!? すごい。高級品じゃない!? さすがはハレムね。
ドキドキしてお願いすれば、デュッリーはにこりと不思議な笑みをたたえた。
「ごめんね。食用じゃないのよ。〝アダ〟って言って、こう使うの」
指で
「デュ、デュッリー……? な、なにを」
困惑を隠せずにいると、アダの端っこに指をかけたデュッリーが、問答無用で一気に引きはがした。
ビリビリビリビリッ!
「ぎゃ───────っ!!」
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