0003縁その三 のん兵衛の矜持

0003縁その三 のん兵衛の矜持


「うーい! 帰ったぞ!」


「また飲んできたのかそいつは誰だ」


「こいつは飲みの席で会ってな気があって連れてきた! こいつは縁の鏡に記憶を封じているらしいさっさ返してやれ!」


「私はサカタルという」


 そのサカタルと名乗る妖怪は和服の青年のように見える。

 ただ頭に被る酒とかかれた小さな酒樽が異彩を放つ。


「サカタルか名前の通り酒樽をかぶっているしそのまんまのん兵衛御みたいな名前だな」


「そうだろう私のこの名は忘れてしまったが人子につけてもらった名でな気に入っている。この樽がないと私は落ち着かなくてな常にかぶり続けている」


「サカタルお前の縁を返却する」


 俺は縁の鏡をサカタルにかざしそう唱えた。


『「サカタル酒をもってきたぞ一緒に飲もう」

 「旨い酒だろな」

 「当り前よ」

 「よし飲もうか人子の酒のつまみは旨いからな」

 「お前らのつまみが適当すぎんだよ」

 「確かに我ら妖の食事は単調だからな」

 「だろだから簡単な男飯のつまみでもうまいうまいっていうんだろ作り甲斐があるけどさ」む

 「違いない」

 「サカタル俺の夢聞いてくれるか俺は――その時は一緒に――ぜ」

 「それ本気一度記憶を失ってさらに失ってすべて忘れる気それでいいの?」

 「私は旨い酒が飲みたい例え何を失おうともな』


 「思い出した私は何かを忘れている」


 「どういうことだ?」


 「私はとある妖に記憶を預けている。そのあとで縁屋先代に私の記憶封じてもらった。私はその妖に会い預けた記憶を返してもらわねばいけない」


 「そんな大事な記憶なのか?」


 「とても大事な記憶のはずだ……私の身と引き換えとしてもな……」


 「その妖のいる場所はわかっているのか」


 「ああ二木妖山のふもとの祠に住む妖だ」


 「二木妖山あの悪趣味な酒飲みの集まるという……」


 「何が悪趣味なんだ」


 「詳しくは知らんが妖を溶かした酒を好むと噂されている」


 「確かに悪趣味だな……妖怪なのに妖怪を溶かした酒とか……」


 「だとしてもいかなくてはいけない……何があってもな……」

 

 「心配だから一緒に行ってやろうよ妖神様」


 「いつもなら断るところだか……二木妖山秘蔵の酒のん兵衛なら行くしかあるしかあるまい。流石に妖を溶かした酒などいう気持ち悪い酒は飲みたくはないが、二木妖山には並みの酒を数段旨くする術を使う妖もいるときく明日の本番に備えて飲むぞ」


 「いいな飲もう一緒に飲もうと思って酒は用意してある」


 「ほどほどにしておけよ」


 『騒がしかった二人の酒盛りの声を聴いているといつのまにか眠ってしまった。

 『「お前本当に酒が好きだな名前は?」

 「私に名前はない」

 「じゃあ俺がつけてやるよ。酒が大好きだから酒の樽とかいてサカタルなんてどうだ?」

 「酒の樽か私にびったりだな私は今日からサカタルと名乗ろう」

 「というわだたっぷりつまみを持ってきたから酒と交換だ」

 「不思議な人子だな。人子の癖に妖怪の酒が好きだとは」

 「人間の酒も嫌いじゃねえが、妖怪の酒の不思議な深みは人間の酒じゃ味わえないからな。それにここまで気の合う飲み友達はいねえからな」

 「だったら飲むか酒飲みの交流はこれしかあるまい」

 「ちげいねえ」』


 「ツナグ朝よ」


 「ここか二木妖山か酒臭いな」


 「そりゃそうだろう。ここ二木妖山は酒飲みが最後にたどり着くといわれている酒飲みの終着点一年中酒盛りが行われているらしい」


 「こっちだこの先の祠に目的の妖悪酒がいる」


 「ここに悪酒がいるのか」


 「小僧酒は持ったな」


 「こんなもの持って酒盛りに参加する気か?」


 「まさか酒盛りの途中噂の妖酒を飲まされたらたまってたものじゃないからな。ここでのやり取りは全て酒で行われるといわれている。この酒と引き換えに酒を旨くする術のかかった丸薬と交換するのだ。来たようだぞ」


 「来ましたねサカタル殿。奥へどうぞお連れ様もご一緒に」


 とても酒臭い酒と書かれた着物を着た白い肌の青年がこいつが悪酒か。


 「その前にこの酒と酒を旨くする丸薬と交換してくれ妖使っていないやつだぞ」


 「ほうこれは中々上物のようだ交換に応じましょう奥へどうぞ」


 「本当にここにいるやつらみんな酒しか飲んでないな。おれがいても誰も見てない」


 「私どもは人間の肉には興味はありませんからね。我々が興味があるのは――ついたようですね。この中にサカタル殿の記憶が置かれています」


 「これで記憶か」


 「こちらがサカタル殿の記憶と蛙殿の丸薬となりますお確かめを」


 「これが噂のこんな機会がなくては来るつもりなかったが問題は味だ旨いんだろうな」


 「むろんですよ。サカタル殿これは強く握れば記憶は返却されますよ」


 「こうか? うっ!?」


 「大丈夫か?」


 よろけたサケタルに手を差し伸べる。


 『「人子よ何故妖である私ばかりのと酒を飲むが同じ人子ではだめなのか?」

 「人子じゃなくて俺は銀治なぎんじ俺は妖怪の酒が好きだかな普通の奴は妖怪の酒の味すらわかんねえ。こんなに旨いのにもったいない」

 「確かに人の子の酒は旨いが懐が妖怪の酒と比べて浅い」

 「だよなこの飲むたびにコクと味が微妙に変化して飽きさせない味わい人間の酒じゃ味わえねえ。サカタル俺の夢聞いてくれるか! 俺はこの酒の味を人間の酒で再現する! その時は一緒に飲もうぜ! 俺は実家の造り酒屋を継ぐぜ!」

 「だったらもっと酒を飲め! いつまでも付き合ってやる!」

 「どうだ今回は?」

 「旨いが懐がまだ浅いな」

 「五年かかってこれか……なかなかうまいかなねえな……」

 「前と比べれば格段に旨くなっているあとは時間も問題だろうな」

 「どうだ今回は?」

 「味は極上だがまだ懐が足りない。もういいのではないのか人子の酒にしては最高に近いと思うぞ」

 「俺は最高の酒をお前と飲みたいから酒を造っているんだよ! この味と妖怪の酒のこくと深みこれが合わされば世界最高の酒になる! その酒でお前と一緒に飲み明かす祝い酒俺の夢だ!」

 「ふふ! 不思議な男だなお前は」

 「そういうお前もな!」

 「銀治死ぬな! まだお前の夢は――」

 「はは……酒の……飲み……過ぎで……体……やっち……まう……とか……のん兵衛……らしい……最後……だぜ……お前……との……約束……果たせ……なくて……ごめんな……俺の……夢……は……息子と……子孫……に引き……継がせる……何十年……かかる……かわか…………らねえ……ができ……たら……絶対……飲んで……くれよ……」

 「銀治ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

 「あれからたった十年……銀治が死んでから酒が水のようだ……あんなに好きでうまかった酒が高々に三十年足らずの銀治との酒は旨かったな……あれほどうまい酒はまた飲めるのだろうか……」

 「あれからさらに十年……酒はますますまずくなり……銀治の子たちはまだあの酒は再現できてはいない……」

 「さらに十年……どうやっても……銀治との酒盛りと約束を忘れられない……そうだいっそ酒の樽でもかぶってみよう……酒の匂いに常に包まれればうまい酒が飲めるかもしれない……」

 「ダメだったどうしても忘れられない……酒の匂いがなくては狂いそうで酒の樽も脱げない……もう我慢できない! 二木妖山の悪酒を訪ねよう。対価は――」

 「なるほどでは人の子のとの記憶を時が来るまで私が預かろう対価はあなたの――」

 「ああ……これで最後まで旨い酒が飲める」

 「悪酒に記憶を預けたのはいいが……その空白感で酒がまずくなる……悪酒ではこれ以上難しいそうだし……噂の縁屋に頼ってみるか、私は最高の酒が飲みたいその理由は悪酒に預けて忘れてしまったがな……』


 「確かに返しました約束は守ってもらいますよ」


 「ああすべて思い出した」


 「どんな約束をしたんだ」


 「それよりいきたいところがある私の友の造り酒屋に行きたい頼めるか報酬はこの酒だ」


 「まさかそれは噂に名高い乗った! さっさとのれ速攻で用事を済ますぞ!」


 銀治の造り酒屋前


 「ここかなにやっているんですか?」


 店の前の大きな酒樽に集まる人たちに尋ねる


 「これは家の造り酒屋の守り神サケタル様に酒をお供えしているのさ。歴代最高の酒作りの名人として名高い銀治って人が残した風習さ」


 「サカタルこれって……」


 「ああ間違いない……」


 サカタルは捧げられた酒を。


サカタル「旨い……銀治の酒は……本当に……旨いな……完全にお前の求めた味だ……」


 サカタルのめからポロポロ涙があふれだす。


 「サカタル体が……」


 「いいんだ……ツナグ殿……これが私が悪酒に記憶を預けた対価……願いをかなえた今……私の体は酒にかわる……私は行かなくてはいけない……こんな最高の酒を飲んで独り占めなんてできないからな……銀治やっと一緒に酒が飲める……約束通り祝い――」


 カタルが言葉を言い終わる前にサカタルの体は酒にかわりどこから飛んで行ってしまった――

その飛沫の中に酒盛りをする二人の姿を確かに見た――

二人は最後まで大好きな酒に飲まれて消えてしまった――

それが幸せなのかお酒を飲んだことがない俺にはわからないけど――

それでも二人の笑顔を見てお酒を飲むならこんな顔で飲みたい――

 そう俺は思った――


 「それにしても噂が本当だとはな。まさか妖が酒になるとは」


 「先生酒ってそんなに旨いのか?」


 「当り前だ! そんなこともわからないからお前はガキなのだ! 今度ワシか飲ませていやる!」


 「まだ俺は未成年だから飲めないよ」


 「くだらない人子の法とやらかつまらん!」


 「大人になったら一緒に飲むよ」


 まだお酒の味はわからないけど――

 妖神様とサカタルが心から愛するお酒の興味が出てきた――

 どんな大人になれるかはわからないけど――

 二人のようにおいしくお酒を飲めるようになりたいそう思った――

 その時泣けたらいい涙かもしれないそう思った――


 裏話003

 銀次は生前。

 サカタルという酒の神と酒を飲みに行くと毎晩酒盛りにいっており妖怪の見えない家族は不振がっていたが、ある日を境に別物のうまい酒を造るようになりいつしか家族もサカタルという架空の酒の神の存在を信じるようになっていた。

 銀次が肝臓をやって床に臥せたころには酒造りの名人として名が通っており時の権力者もその酒を愛飲していて。

 銀次が死んだあと銀次にあやかり店頭に酒の神サカタルと称した大きな酒樽を置き毎年酒をささげる神事として代々それを受け継ぎ銀次の死後百数十年、ついに銀次の求めた妖怪の酒の深みに匹敵する至高の酒を作り出した。

 その酒の名前は銀タル。

 この名前は銀次の遺言ではなく歴代最高の酒職人とされる銀次とその造り酒屋の氏神サカタルの二つにあやかったもの。

当然のごとくあの世での銀次との再会の酒盛りに二人は大いにその酒をたらふく味わい騒ぎサカタルが求め続けた最高の酒を飲んだ


次回予告

0004縁その四 生まれ変わってももう一度君に恋をする

類稀な美貌を持ち女しかいない

妖に一人の男の転生体の捜索を依頼される縁屋

その言葉に異を唱える妖神

妖神の協力もあり転生体と出会えるが当然のごとく記憶は受け継がれておらず

勝ち誇る妖神

その時――により――

二人の結末はいかに?

そして二人の結末はいかに相も変わらずの濃厚なドラマが君たちを待っている

君の君たちの心へ感動を――

ただそれだけだ――

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