00010縁その十 二人のために落ちた星

00010縁その十 二人のために落ちた星


「縁屋起きてくれよ」


 それは蒸し暑い初夏の夜のことだった。

 暑くてぼんやりと覚醒した意識に聞こえる女性の声。

 と窓をたたく音。

 何故か外が明るい気がする。

 俺は眠気眼をこすりつつ部屋の端で一升瓶片手に眠りこける妖神様をゆすって声をかけた。


 「妖神様妖神様なんか呼ばれているんだけど対応して大丈夫か?」


 「なんだ煩い……この声は大丈夫だ……さっさと対応してこい……」


 「寝ちまったよ適当だな……はーい今開けるよ」


 俺は窓を開けた。

 すると光の塊が飛び込んできた。


 「僕は星姫星空女ほしぞらおんなという妖怪さ」


 その人物は人間でいえば十代前半くらいで女性らしい長髪に可愛らしい顔に明るい空気をまとっている。

 胸はそこそこだが全身が強く発光していて何故は眩しくなく細部まで彼女の姿を認識でき神々しくもある。


 【ほう珍しい星空女とはな】


 「妖神様って!? 透けてる!? 幽体離脱!?」


 【騒がしいぞ小僧ワシとて神の端くれこの程度は造作もない。話を戻そうこ奴ら星空女は夜空の星が輝く夜でしか姿を現せん妖怪だ】


 多分これ妖神様起きるのめんどくさいんだな。

 起きる代わりに幽体離脱とかどういうめんどくさがり方だ。


 「そういうことさ」


 「でっ何の用だ男でも探しているのか?」


 「その通りさ僕のツガイを探してほしい。種族は人子さ」


 【また馬鹿なことを星空女と人子の色恋は大抵ろくな結果は生まん。どうせ星空にしか姿を表せんお主に愛想をつかされたのであろう】


 「人子の色恋は大抵ろくな結果は生まん――だから僕達は心に決めたツガイとしか色恋はしない」


 【そういえば昔聞いたことがあったな星空女の一族は心に決めた相手と終生通じ合える秘術があると聞いた覚えがあるが……】


 「その通りさ。だから僕は一人の人子にそれを使って何度も心と体で通じ合った。子供はできたことはないけどね」


 【ならば簡単に探せるであろう何故見つからんのだ? そこまで深いつながりがあれば居場所など簡単にわかろう】


 「それが不思議なんだ僕が表れるときずっとあいつの存在を感じているんだけど。何百年どこを探しても見つからない。見守れるくらいの距離にいるはずなのにね……」


 【本当か? 何百年……信じがたい……小僧縁の鏡を使ってみろ】


 「縁の鏡よ! 縁を照らせ! あれ何も起きない……」


 【縁の鏡で探せないのはすで死んでいるか転生してこの世に生れ落ちてにいないかあとはこの地上にいないかの三択だけだ】


 「そんな確かに存在は感じるのに……」


 【知らんワシは寝るあとは勝手にやっとれ小僧この小娘に付き合ってやれ】


 「妖神様……俺明日学校なんだけど……星が出なくなるまで付き合うのはちょっと……」


 【そこは心配せんでよい。こ奴らは夜の神の眷属共に過ごすだけでその時間の数倍眠りについたように夜の神の加護により体は休まる。いくらつきあっても睡眠不足になどならん】


 「だったら一緒に付き合ってくれよ」


 【今晩は嫌じゃな。どうせこ奴ののろけ話に付き合わされて一晩つぶすだけだ。それに流石にしっかり眠んと酒は抜けんからな。こ奴に付き合えば明日二日酔いは確定だ。そういうわけで眠るじゃあな】


 「じゃ仕方ないな。話を聞かせてくれ」


 「僕とあいつの出会いは綺麗な星空の下だった。親に口減らしのためために捨てられたあいつは食べるもの物なく行き倒れていた――」


 『「お姉さん天女なの?」

 「いや違うよ。僕は夜の神の眷属星空の精さ」

 「別にいいや……最後に綺麗なものを見れたしもう……」

 「何を言っているんだ! 夜の世界の美しさは僕なんかよりももっと綺麗さ! これも何んかの縁だ! 君の夜のすばらしさを教えてあげよう!」

 「でもお腹が減って動けないよ……」

 「ふふ! それは心配いらないさ! 君に今夜の神の加護を与えたもうお腹は減っていないだろう?」

 「ほんとだ! あれだけ減っていたお腹が減っていない!」

 「ただしこの夜の神の加護は僕とともにいるとき限定だよ! だから僕が姿を現せない星の出ない夜にはこの加護の恩恵は得ることはできないから定期的に食事は必要だけどね。僕は星姫君は?」

 「おらはたろ吉」』


 「それから僕たちが知り合って数年過ぎた。たろ吉は元服してとある村で猟師になってね――」


 『「たろ吉いるか?」

 「ああいるぜほれ今朝取れたイノシシの牡丹鍋だ一緒に食おうぜ」

 「ああ旨そうだ最初は面食らったが食事はいいものだな」

 「そうだ忘れてた! 星姫の好きな甘味のはちみつ酒があるぞ!」

 「おありがたい大好物だはちみつ酒! でもいいのか毎回こんなもの食べて?」

 「大丈夫だお前のおかげで村のほかの漁師じゃできない夜の狩りができるから食うには困っていないからな。命の恩人で一番ダチに出し惜しみはしないぜ」

 「では早速頂くか」

 「おう食ってくれ」

 「旨いなこれはどうやって作っているんだ? 食わせたい奴がいるんだが……』


 「それからまた数年たったたろ吉の体は僕の背をいつの間にかこし村の娘たちから求婚を受け始めたころ僕たちは結ばれた――」


 『「なあたろ吉何故村長の娘との縁談を断った中々の器量よしの娘だと僕の目には映ったけど」

 「俺には心に決めた相手がいるからな」

 「どんな子なんだい? 僕の自慢の友と釣りあうか僕が判断してあげよう!」

 「俺が好きなのは星姫お前なんだよ!」

 「なっなっなっなっなっに何を――」

 「星姫お前は俺が嫌いか?」

 「嫌いじゃない――」

 「俺と一緒にいるのは嫌か?」

 「いやじゃないむしろずっと一緒にいたい――」

 「なら星姫俺はお前が好きだ! 大好きだ! 俺の嫁になってくれ!」

 「ぼっ僕は――」』


 「それから二十年とても幸せな日々が続いた。生まれて数千の年月の中で一番に……子供こそはできなかったが人生で最高の時間だった……だがある日を境にたろ吉は姿を消した――」


 『「星姫大事な話がある……」

 「どうしたたろ吉。妻である僕に何の話だい?」

 「俺はこれからやることがあるだからお前とはしばらく会えねえ……」

 「何をする気なんだい?」

 「お前を一生幸せにするためだ……」

 「今でも僕は幸せだよ? 子供はできるかわからないけどそんなのたろ吉といられるならそれでもいい」

 「それ――俺――死ん――き――前――一人――まう俺は――お前――同じ――生きたい――ため――俺――お前と――夜の――なる――ため――」

 「たろ吉どこに行ったんだ? 僕はお前を愛して――」』


 「あの日私はたろ吉の言葉をすべて聞けなかった……運悪く星空にかかった雲に遮られ僕の体が表せなくなってしまってね……何度も後悔して何度も雲を呪ったさ……それから百年たろ吉の家でのあいつを待っていたがたろ吉はついに現れなかった……」


 『「たろ吉どこに行ったんだ……僕を一人にしないでよ……」

 「僕に気に入らないところがあるならどんな所でも直すし……僕に作れるならどんなおいしいものでも用意するから……たろ吉……」

 「たろ吉僕は君を……」

 「たろ吉僕を嫌いでもいい……愛さなくてもいい……ただ一緒にいてくれれば……」

 「うわ~~~~~~~~ん! たろ吉……たろ吉……たろ吉……たろ吉……」グスグス

 「なんだろうたろ吉を感じる……たろ吉に見守られている……考え違いじゃない! どこにいるんだ? たろ吉!」』


 「こうして僕たちは――今日はこれまでのようだ。何かわかったら教えてほしい」


 「わかった」


 気づけば朝か中々長い話だったな。


 「さてどうだったのだ小僧?」


 「半分のろけ話だった」


 「だから言ったのだ。これも縁屋の仕事の一環だ。これからどうするつもりだ?」


 「とりあえず学校から帰ったら蛙丸吉の知り合いの鼻のいい妖怪よんでおいてくれないか?」


 「呼んでどうするつもりだ。あ奴の鼻は方角しかわからんぞ?」


 「手がかりくらい見つけられたらいいかなって思って」


 「まあいいだろう。ただし芋の薄揚げと交換だ。毎回ただ働きさせては丸吉もあ奴にも悪いからな」


 「じゃあほいビックサイスのポテチトリプルコンソメ味」


 俺は机の中からビックサイスのポテチトリプルコンソメ味を取り出し妖神様に渡した。

 ポテチ初心者にはやはり香り高いこれだな。

 味もコクも深い多くの人に愛されるあまじょばくてお酒に合うらしいし。


 「うむよかろう帰る前には呼んでおいてやる」


 「じゃ学校に行ってくる帰ったら頼むぞ?」


 「わかった前の河原によんでおくさっさといけ小僧」


 そうして放課後河原にやってきた。


 「おっいた丸吉は犬顔は……って酒くっさつーか犬顔まで酔いつぶれてる……」


 俺が川岸に行くと蛙丸吉と犬顔が酔いつぶれグースカ寝ていた。


 「仕方あるまいあの薄揚げ芋がうますぎるせいだ。そもそもあの小娘からゆかりものを借りているのか? なくては探せんぞ」


 「あっそういうえば忘れてた……」


 「なら無駄骨じゃな」


 「そんな」


 「わふ!」


 酔いつぶれた胴体が犬顔の妖怪が天を指さした。


 「妖神様どういう意味だと思う?」


 「どれどれこ奴の魂に聞いてみよう――何々なるほどこ奴は酒に酔うと探し人をゆかりの品なしに探せるらしい。わかるのは方向だけなのは変わらんそうだが」


 「それで空を妖神様――って可能なのか?」


 「可能といえば可能だが人子の範疇は超えた神技だぞまずありえんと思うがまあやってみて損はあるまい」


 その晩は雲もなく星空がきれいな夜だった、


 「縁屋たろ吉は見つかったのかい?」


 「それを確かめるためにここに来たんだここなら邪魔もないし汝らの縁に力を分け与える」


 俺は妖怪意思を取り出しそう唱えたすると妖怪石から飛び出した光は天に飛び上がった。


 「光が空へ何をしたんだい縁屋?」


 「やっぱり思った通りだこれで探し人には会えるはずだよ」

 

 「まさか小僧の予想が当たるとはなこれで解決だな。やはり酒を飲まんと気分が乗らんな。仕方ないこれも仕事の内だ」


 そういうえば河原では珍しく酒も飲まずシラフだったけどこれに備えていたのかな。

 解決時に酒飲んでたらまともな報告できないし縁屋の仕事は神々の娯楽要素もあるとか言ってたしな。


 「よう星姫久しぶり」


 この人がたろ吉か十代後半の和服の体格のいい青年に見える。

 中々のイケメンでこれで仕事ができる男ならもてていて当然だな。


 「たろ吉その若い姿はいったい今までどこに――」


 「実は俺お前と同じ夜の眷属にならないか夜の神に誘われてな。その修行を空でずっとしていたんだ。そのことを言おうとしたら運悪く雲に星が隠れて伝えられなかったんだ……その途中だったんだが今さっき縁屋のおかげでその修業は完了した」


 「夜の神の奴め相変わらずのようだな。秘密主義は度がすぎると困り悲しむやつがいるとあれほど――」


 「たろ吉お前は私を嫌いになっていなくなったわけとじゃないんだな?」


 「当り前だ俺はお前と一緒にいるために夜の眷属に――」


 「すまないたろ吉僕はもう――」


 「何を言ってお前体が――」


 星姫の体から光があふれす。


 「僕はお前を探すために大半の力を使ってしまった――最後にお前に会えてよかった――何をして……たろ吉!――」


 たろ吉は星姫を抱きしめる。


 「たろ吉巻き込まれるぞ! 僕たちの体は星々の力の塊その最後は触れるもの全てを巻き込んで――」


 「離すもんか! 俺はお前のためにいままで生きてきたんだ! 俺が夜の眷属になろうとしたのはお前と一緒にいつまでもいるためにだったんだぞ! 俺は最後の瞬間までお前と一緒にいたい! そのために俺は――」


 「泣くなんて男らしくないな――」


 「お前だって泣いているだろお互い様だ――」


 二人は大粒の涙を流す。


 「縁屋ありがとう予定はくるちっまったがこのままだったら悪い未来になっていたと思う」


 「ありがとう縁屋僕たちはいつまでも一緒だ! たろ吉!」


 「ああいこう星姫愛している」


 「僕もだ」


 光かさらに大きくなった。


 「たろ吉来世があるならまた僕を愛してくれるか?」


 「当然だ俺のツガイはお前だけだ」


 「ああ僕はこんなに愛されていたん――」


 光がはじけ光とともに二人は消え去ってしまった――

 それは流星のように一時ではあったけど――

 飛び散った光の一部が天に上がり空を見上げると二つの星が輝いている気がした――

 二人は星になったのかもしれない――

 永遠に離れない夫婦の星に――

 これは俺の勝手な考えだけどそうであったらいいそう心から思えた――

 そしてまた目頭は熱くなった――

 前よりもずっと――


 「なあ妖神様二人はこれからどうなるんだ?」


 「このままいけば何かの生命に転生するのだろう。夜の神は秘密主義で何を考えているかはわからんが、悪い神ではない奴らに対して思うところもあろう」


 「つまりどうなるんだ?」


 「別にいう必要はなかろう。お前が考えている未来とおそらく同じだ」


 「そうかならいいんだ」


 二人の想いはすれ違い危うく悪い結果に繋がろうとしていたけど――

 結果二人の想いは通じ合った――

 その先は俺にはわからないけど――

 二人ならきっとまた出会い愛し合い今度こそ幸せな未来を作れるだろう――

 そう輝く星空に思いをはせると――

 一つの流星が満点の星空に流れ落ちた――

 でも俺は願い事は願わなかった――

 それはきっと天の星となった二人のために流れ落ちた星だから――

 


 裏話010

 たろ吉は星姫と過ごすうちに自分だけ年を取りいつか星姫を一人にしてしまうと悩んでいた

 そんな時に夜の神に眷属にならないか誘われその誘いに乗り空の星で修業することを決意する

 その星は大気圏近くにある空間にある星で厳密には星ではない

 妖星と言われ妖力のあるものにしか見ることができない夜の神の領域

 そのことを星姫に伝えようとするが運悪く雲で星が伝えそびれてしまう

 夜の神は徹底した秘密主義で眷属にすら詳しいことをかたらない寡黙な神でついに星姫にそのことを教えることはなかった

 その間星姫は力を切り売りして様々な妖怪にたろ吉を探してもらうが結局見つからず

 最後の手段として縁屋を頼った

 何故最後なのかというと人間よりはるかに強く多彩な術と力を持つ妖怪の方がたろ吉を見つてくれる可能性が高いと思っていたから

 何気に犬顔妖怪は多くの妖怪にできなかったたろ吉の居場所を方向だけでも探し当てている

 そしてそれから時は流れであった星を愛する二人の男と女は満点の星空の下出会い満天の星空の下婚姻の約束をして結ばれることになる

 二人の節目には必ず星の輝く夜の日でかれらは生涯夜の星々にに愛されていた

 それは夜の神なりの謝罪の意味が込められていたため二人の幸せは夜の神によって定まっていた



次回予告

00011縁その十一 猫の擬娘

化け猫に主人の最後を看取りたいと依頼される縁屋

しかし妖神は化け猫が人の形をとるには人を喰らわなくてはいけないというが

本当に彼女は人を食ったのか?

何故食べたのか?

最後に明かされる真実はお互いを思いあう家族の形そのものだった

そして二人の結末はいかに相も変わらずの濃厚なドラマが君たちを待っている

君の君たちの心へ感動を――

ただそれだけだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る