0009縁その九 涙という塩水
0009縁その九 涙という塩水
「え~に~し~や~うっい~」
また妖怪かずいぶん言葉を伸ばすな。
俺は振り返り。
「何の用だ酒くっさ!?」
「え~に~し~や~お~と~め~に~そ~ん~な~こ~と~い~わ~な~い~こ~れ~は~ビ~ル~よ~って~ビ~ルく~さ~い~」
何も間違えていないじゃん。
このビール缶片手に如何にも暗そうな空気をまとう上下ジャージの長髪目隠れのほほを赤くしたスタイルのいい女の人はなんだ?
妖怪だろうけど。
何の妖怪かよくわからない。
「小僧どうした? ぬ! これは
「か~え~る~い~い~す~ぎ~そ~れ~は~ツ~ガ~イ~の~い~な~い~ど~う~ぞ~く~ま~ぐ~って~い~な~い~け~ど~わ~た~し~に~ツ~ガ~イ~は~い~る~」
「ほう麦酒を飲むことと繁殖欲しか欲がないといわれる蛞蝓女郎にしては珍しいな」
「わ~た~し~の~ツ~ガ~イ~は~の~み~と~も~だ~ち~だ~か~ら~さ~が~し~て~ほ~し~い~」
「わかった! この縁の鏡で縁を照らせ――何も起きないな」
「そりゃ相手が死んでいるからだろうな。おいお主そのツガイに最後にあったのはいつのことだ?」
「す~こ~し~お~ひ~る~ね~し~た~だ~け~そ~ん~な~に~じ~か~ん~た~って~な~い~」
「何馬鹿なことしを言っておるお主らの少しは人子からすれば十年二十年は下らん年月だ。ツガイとまぐわい繁殖欲がないならなおのことだ。繁殖欲があるなら人子にある程度合わせるといわれているがな」
「そ~れ~で~も~さ~が~し~て~ほ~し~い~か~れ~が~ど~う~な~った~か~し~り~た~い~の~」
「じゃあまたハクのところへいくか」
「無理だな前にも言ったが奴はハクのやつは今休眠中だあと三十年は起きてこん」
「じゃあどうすればいい妖神様?」
「おいお前その服誰からもらった? それがツガイなら探す方法はあるぞ」
「む~う~か~え~る~わ~た~し~の~な~ま~え~コ~ム~ギ~だ~い~す~き~な~ビ~ル~の~ざ~い~り~ょ~う~ツ~ガ~イ~が~つ~け~て~く~れ~た~の~」
「わかったコムギよその珍妙な服はツガイからもらったのだな?」
「そ~う~だ~よ~」
「小僧こ奴の珍妙な服に縁の鏡をかざしこういうのだ。縁よその持ち主を探し出せとな」
「縁よその持ち主を探し出せ」
すると頭に光景が走った。
『「お~に~い~さ~ん~な~ん~で~こ~ん~な~こ~と~し~て~い~る~の~わ~た~し~の~お~と~も~だ~ち~は~お~お~よ~ろ~こ~び~だ~け~ど~」
「ああこれはビールのおそっわけだよ。僕は生まれつき目が見えないからビールの臭いにつられてやってくる蛞蝓くらいしか飲み友たちはいないんだよ」
「わ~た~し~な~め~く~じ~だ~よ~じゃ~あ~わ~た~し~と~あ~な~た~は~お~と~も~だ~ち~~だ~ね~」
「そうかじゃあ蛞蝓のお嬢さんお名前は?」
「わ~た~し~に~な~ま~え~は~な~い~よ~」
「じゃあ君たちが大好きなビールの材料からとってコムギなんてどう?」
「う~ん~い~ま~か~ら~わ~た~し~コ~ム~ギ~あ~な~た~の~な~ま~え~は――」
「僕は――」』
「小僧どうした?」
「なんでもない縁の鏡から光がこれをたどけばいいんだよな?」
「そうだ縁の鏡は生きている者かその持ち主の最後の住処を探すことができる縁がないならそれすら無理だがな。さっさと解決するぞ。わしに乗れ小僧ども」
その言葉に従い雲の乗った膨らんだ妖神様の上に乗って移動すること暫く。
「ここかでも明らかに廃墟だし、人すんでるのこれ?」
縁の鏡に導かれてついた先は明らかに廃墟に見える一戸建ての家だった。
「どうやら遅すぎたようだな。ツガイが何らかの理由で死んだあと親も死んだのだろう。縁の鏡で探せるもの生きている者とそれに深いかかわりにある住処ぐらいだからな」
「そ~ん~な……」
「絶対に泣くなよ。お主ら蛞蝓女郎は己の涙の塩ですら命にかかわりかねん」
「じゃあどうするんだ妖神様? その人の眠るお墓でも授かすか」
「そんなことをしてもこ奴は納得せんだろう。小娘いやコムギよ。ツガイに会いたいか?」
「あ~い~た~い~」
「会えるかはまでは保証できんがツガイの気持ちを知ることはできる。ただしそれを知れば恐らくお前は死を免れん。それでも知りたいのなら方法はある」
「ちょっ妖神様!」
「小僧今まで何を見てきたのだ。それでも縁を繋ぎ見届けるのがお前の仕事だ。命を懸けてきた妖たちはその程度は覚悟しておろう。ツガイに対する気持ちより命の方が大事程度の気持ちなら真の縁とは言わん。少なくとも今までも奴らはそうであった」
「そ~れ~で~も~あ~い~た~い~た~と~え~い~の~ち~う~し~なっ~て~も~」
「そういうわけだ妖怪石を使え小僧」
「そんなことして何が起きるんだ?」
「ワシを信じろお主は妖怪石を使えばよい。唱える言葉は妖怪石よ時を超え縁をつなげだ」
「わかった妖怪石を時を超え縁をつなげ」
俺が妖怪石を掲げ呪文をとしなえると。
「空間に穴が開いたのか?」
俺の前方の空間に穴のようなものがあらわれた。
その光景はどうやらこの廃墟のように見える。
「よし過去に繋がったな。この先に飛び込めその時間はお主とつがいが最後に縁をつなげる機会の時だ。過去に永劫に戻れるわけではない短時間だから注意しろ」
「い~って~く~る~」
小麦はその穴に飛び込んだ。
「でようやって見届けるんだこれ? 音声はともかく光景は」
「何心配するな大事なところは見逃せないようにしてある。縁屋のもう一つの役目はその縁を神々が鑑賞する娯楽要素もあるからな」
「何その動画投稿サイトプロ投稿者みたいなの」
「神は人の何百何千倍は生きるがそれゆえに新鮮な娯楽を求める神も多い。この世界を食いつぶす人子のからくり文明がいまだに続いているのは高いレベルの娯楽のおかげだ。それがなくては百年は前に人子の文明は滅びておる」
なんだそりゃエンタメのおかげで文明滅亡のがれてたの。
「ほれ光景が切り替わるぞ。どうやら家にいるのはツガイの親のようだ」
「す~み~ま~せ~ん~」
「どちらさんですか?」
「わ~た~し~コ~ム~ギ~こ~こ~に――」
「貴方が息子言っていたコムギさん? 美人さんだね。でもごめんね急に引っ越して息子も残念がっていたわ。息子はもういないの」
「ど~う~い~う~こ~と?」
「引っ越した理由は息子が体調をいきなり崩して病院に近いところに引っ越したんだけど。闘病の末息子は――ずっとコムギさんに会いたい会いたいて言い続けて頑張っていたんだけどね。コムギさんに連絡取りたくても住所も電話番号もわからないって引っ越してから知ってね。でも来てくれたよかったわ。息子の遺品中身はしらないけどこれに全てを込めたそうよ。受け取って――」
探し人の母親が何かをコムギに渡す瞬間。
コムギの姿が掻き消えた。
「あれ? いない幻覚だったのかしらでも遺品が――まあいいわ。これで息子も心置きなく天国で過ごせるでしょうし」
「戻ってきたか何を渡されたか見せてみろ」
「こ~れ~な~あ~に~」
「包み紙の中は……なんだこれは意味が分からん珍妙なものだな」
「これってカセットテープ」
「なんだそれは?」
「映像を記録したり音声を記憶する道具だよ。これは音声限定のはずだけど。でもどうするか……今どきカセットテープを再生できる機器はめったにないぞ。当然俺も持っていない」
「なら縁の鏡を仕え。縁の鏡を使えば文にかかけれた内容をダイレクトに知ることができる。本当にその珍妙なものの中に言葉が封じられているなら知ることができるはずだ」
「やってみるよ――」
「待て小僧コムギよ。最後の確認だこれを知ればお主の命はここで終わる本当にいいのだな?」
「そ~れ~で~い~い~か~く~ご~し~た~」
「というわけだやれ小僧。縁の鏡にそいつを入れで縁を表せと言えばよい」
「縁を表せ」
俺が縁の鏡にカセットテープを入れると頭に光景が走った。
『「やったぞ蛞蝓とビールを飲むしか趣味がない僕に飲み友達ができた。しかも女の子自分は蛞蝓とか言っているけどどんな姿なんだろう目さえ使えればな。彼女が本当に蛞蝓でも僕は愛せるんだけどな。であって数日の相手にデレすぎだな僕ちょろすぎるよ。女の子とまともの話したことがないからなコムギさんは僕をどう思っているんだろう」
「私は今日コムギという名前をツガイにもらった。仲間たちのいうように一目見ただけで彼をツガイと認識できとでも何だろうこの気持ち表と違い心の中では流暢な言葉と想いがあふれて止まらないなんでこんなに彼と一緒にいられるだけで幸せなんだろう……繁殖したいけど……それとはまた違う気持ちただ一緒にいたい会話したいそんな気持ちがあふれて止まらない」
「今日コムギさんに凄いことを聞いたコムギさんは彼氏がいなくてツガイつまり夫が欲しいそうだ。僕が立候補したら彼女の迷惑かな……」
「やっぱり仲間に聞いても違う私はおかしいのかな……人子は蛞蝓が苦手というから彼と会う時はずっと人化の術で人間のふりをしている。彼の目では私は見えないのに彼のために美しくなりたい気持ちが止まらない。ずっと彼の見えない目に私を映してほしい」
「コムギさん元気がないな何か悩んているのかな」
「私はおかしくなってしまった頭の中には彼のことでいっぱいで、繁殖するよりも密着して頭をなでてほしい。一つでも多く言葉を返しあいたい」
「決めた僕はコムギさんに告白するもう気持ちが抑えられない」
「私は今日彼といったん離れることにした身を引き裂かれる思いだけどおかしくなった私ではだめだから……一眠りして元に戻そうそのあとツガイになってもらおう」
「今日コムギさんに告白を告げる前に別れを告げられた少しの間と言っていたけど僕のこと嫌いになったのかな」
「あれから数日僕は体調を崩し病院に入院することになったしかも困ったことに両親は前の家を引き払いコムギさんとのつながりが立たれてしまった。彼女が何者でどこに住んでいるか電話番号もわからない。早く治して彼女に告白しよううまくいくといいな」
「だめだ僕はもう持たないコムギさんとはもう二度と会えないかもしれない――だから僕は音声を記録できる機器を使ってカセットテープに僕の想いを載せた――僕の最後の気持ちコムギさんに届け――コムギさん好きです――僕は君を愛して――」』
「サ~ト~ル~さ~ん~わ~た~し~も~あ~な~た~が~す~き~」
コムギの相貌が涙がぽろぽろとあふれだす。
「コムギの体が縮んでいく」
「だから言ったのだこうなるからな。こ奴ら蛞蝓女郎は塩にとても弱く自身の涙でさえ体をたやすく縮めてしまう」
「限界まで小さくなるとどうなる?」
「そりゃ消えてなくなるつまり死だ」
「何か手は――」
「え~に~し~や~こ~れ~で~い~い~わ~た~し~は~サ~ト~ル~と~む~す~ば~れ~る~た~め~に~し~ぬ~の~そ~れ~が~わ~た~し~の~ね~が~い~」
「ても――」
「逝かせてやれコムギはツガイ以外と通じる気などはない。これも縁屋の仕事だ」
「あ~り~が~と~う~え~に~し~や~か~え~る~あ~あ~サ~ト~ル~さ~ん~む~か~え~に――ありがとう縁屋――」
そうしてコムギは涙という塩水に飲まれて消えてしまった――
それは悲しいようで本人の願いをかなえたと幸せな瞬間であった――
それが正しいかは今の俺にはわからないけど――
最後のコムギの姿は涙という宝石で彩られ輝きとても美しく――
あれだけ美しい宝石のような涙という塩水が願いを叶える宝石のように――
彼女の望む結末につながってほしい――
そう思えた――
そしてその涙はいつか俺の目から流れるのだろうか――
あれほど美しい涙は――
「なあ妖神様コムギはこれからどうなるんだ?」
「あ奴らは執念深いからな気にいったオスが死ぬとき一緒に死んで来世までツガイになろうとする。そのため奴らにツガイと思われたら最後来世も結ばれるように性別はオスに固定されてしまう。奴らは何度生まれ変わってもメスにしかならんからな」
「それってどれくらいなんだ?」
「ワシの友が調べただけでも多くて数十回は超えたそうだ。虫微生物小鳥爬虫類獣人子ありとあらゆる形で転生してもツガイの生まれ変わりと結ばれたことがあるらしい。個体差はあるようだがな」
そうか二人は――
俺はその光景を思い浮かべ――
二人に永遠の幸せあれ――
そう祈るように小さくつぶやいた――
裏話009
人間のオスとしか繁殖できない妖怪で繁殖期になると気にいったオスをツガイにして卵を産む。
しかし卵を産んでもツガイは解放されず生涯蛞蝓女郎の夫として扱われる。
人間と繁殖した彼女たちは人間の時間にある程度合わせてくるが繁殖したことのない蛞蝓女郎は時間の間隔がとても大雑把一眠りで十年寝ることもよくあること。
コムギはツガイと繁殖するよりイチャイチャが楽しくで幸せで自身が同族と違うことに悩み。
おかしくなったと思いこみサトルに別れを告げ治療のため二十年眠っていた。
彼女たちは病気もケガも酒を飲んで寝ればなんでも治るとい考えがある
コムギが眠りにつく少し後にサトルは病にかかり病院に入院し元の家を親が引きはらいコムギとあえなくなったと思い込んだサトルはコムギと再びあうため懸命に闘病するが検討むなしく病死してしまう。
その前にコムギの気持ちを録音して親にそれを託した。
中身は少ない言葉て好き愛していますという内容だったが縁の鏡によりそれに込められた想いは全てコムギに伝わった。
その時までのコムギはまだ眠気眼ですべてを思い出せていなかったがサトルの想いを知り全てを思い出し彼の後を追うことになる。
コムギの最後の流暢な言葉は最後の瞬間だけ心の流暢な言葉が漏れたもの。
サトルの趣味はさらにビールを注ぎ暫くしてビールの香りにつられ寄ってきた蛞蝓語り掛ける実に寂しい趣味であった。
生まれつき目が見えず酒を飲まなくては家族以外とまともに話せない気性でありと友も当然できず寂しい人生を送ってきたがコムギと出会い変わろうと決意して徐々に性格と愛想が明るく変わり始めところで病気になった。
そしてしばらくたちとある町に生まれた麦花 むぎか というのんびり屋の女の子がサー君というあだ名の男の子に一目ぼれして求婚をする話を語るのは野暮である。
次回予告
00010縁その十 二人のために落ちた星
星空の下でしか姿を現さない妖に夫の捜索を頼まれる縁屋
死んでいると思われたその男は彼女のために何をしていたのか
そして明かされる真実
しかし時すでに遅く彼女の力は尽きようとしていた
そして二人は星の輝きと共に
最後に縁屋の前で流れ落ちた一つの流れ星に縁屋は
そして二人の結末はいかに相も変わらずの濃厚なドラマが君たちを待っている
君の君たちの心へ感動を――
ただそれだけだ――
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