0008縁その八 幽霊の初恋

0008縁その八 幽霊の初恋

「さて帰るか」


 縁屋の仕事をするようになって暫く平穏な時は少なくっなたがいがいに楽しいから困る。

 厄介ごとばかりだけと間に挟まれる人と妖怪の縁中々知りえないリアルなドラマが目の前で展開していくのだ。

 こんなのはまるしかないやろ。

 ああ俺将来に何の仕事に就くかな。

 こんな濃厚なドラマを見せつけられてたら普通の仕事に耐えられない気がする。

 まあ学生時代限定縁屋の仕事だ十分楽しんでも罰は当たるまい。


 「縁屋話があるよ!」


 「何の用だ? って!?」


 「何がおかしい?」


 俺は声をかけてきた妖怪? を見て一瞬面くらってしまった。

 その姿は高校の制服を着た女性。

 顔は可愛らしく年相応に見えて腰までの黒髪の長髪。

 胸は控えめで如何にも学生だが……


 

 「幽霊……だよな……」


 その学生服の女子幽霊? は体が透けていた。

 妖怪って幽霊含めるのか?


 「そうだよ幽霊の七星アキナだよ! 八歳ぐらいから幽霊から妖怪になっただよ!」


 「なんだ騒々しい」


 「妖神様」


 「むっ! これは珍しい妖霊族ではないか、しかも半端者・・・・とは」



 「むう! 新参だけど私は立派な妖怪だよ!」


 「なんだ気づいて・・・・おらんのかだから半端者なのだ」


 「ところで妖神様妖霊族ってのは?」


 「人子の中で妖力を宿す者の魂がなんかの理由で魂が抜けたときその妖力で魂が妖化する霊体だけの体を持つ妖のことだ」


 「そうなんだ私は朧気だけど確か小学生の時車にはねられてね。それでこのありさまさ。元の体はもう戻れないだろうね」


 「あいまいだな覚えていないのか?」


 「こ奴らは霊体だけの存在ゆえに知識や記憶は時を経ることに失っていく。そこいらの霊のように大半の知識や記憶を失い執着心だけで現世にしがみついている連中よりは多少ましな存在だ」


 「むう! 本当だけど言い過ぎたよ!」


 「その割には普通に会話できるけど」


 「そこがそこいらの霊よりはましなところだ。仮にも妖怪の端くれだからな時を経ることに失う知識と記憶は量はそこいらの霊の数十は違う。知識と記憶を失うことは避けられんがな。そこいらの霊なら大半の知識と記憶を失い己が何者なのかすらわからなくなる年月妖霊族として過ごしているようだ」


 「さて! 本題にはいるよ! 名付けて私最高の成仏作戦!」


 なんだそりゃ幽霊が自ら最高の成仏を望むとか聞いたことないぞ。

 テレビなんかの特集だと成仏する方法なんてわからず執念だけで現世にしがみついている感じだが。

 流石幽霊といえ妖怪アグレッシブだな。


 「そういやお前の服俺の学校の女子の夏服だよな? どうやって手に入れたんだ」


 「この阿呆が相手は霊気の塊姿なぞ思いのままだ」


 「うん! そうだよ! えい! これが冬服だよね?」


 そういうとアキナの衣服が冬服に代わった。


 「えい! やっぱり夏服の方が可愛いよね! やっぱりこっちの方がいい!」


 アキナはまた夏服に戻った。


 「でっ私最高の成仏作戦とかいう作戦の内容は?」


 「むふふふふ! よくぞ聞いてくれましたよ! 私か一目ぼれした男の子に好きと告白して受け入れてもらってそのまま成仏するの!」


 「全く持って馬鹿らしい! そんなことを妖霊族がすれば執着が強くなってより一層成仏できなるだけだ! これを小娘に言うのは変な話ではあるがな」


 「じゃあどうするんだ?」


 「その作戦を決行するのだ」


 「えっ!? さっきダメみたいに言ったじゃん!」


 「他の妖霊族ならな。こ奴のように半端者・・・なら問題ない」


 「ならやるかいつやる明日か?」


 「今日だよ! 今日じゃなきゃダメな気がする!」


 「でっ相手はどいつだ?」


 「その男の人はずっとなにかの絵を描いているの! その姿を一目見て私はハートを撃ち抜かれたの!」


 「わかった美術室だな! そういえば美術部に変わった生徒がいるって聞いたことがあるな……同じ絵しか描かないのに天才といわれてるとか……今は関係ないか学校に戻ろう」


 その足で学校で戻り高校に入れないアキナを招き入れ美術室に向かう。


 「ところで断られて悪霊化とかやめていくれよ」


 「多分大丈夫そんな気がする……」


 「そこまで気に病む必要はない小僧むしろ心配すべきは――ほれついたぞ! おあつらえ向きに一人しかいないようだ! ほれわしが人子に小娘が人間に見える術をかけてやる!」


 「じゃあ行ってこいアキナ」


 「わかった! 私絶対告白を成功させて成仏する!」


 俺が続い声かけようとしたとき光景が走った。

 『「あーちゃん大きくなったらぼくと――して!」

 「うんけーちゃんわたしを――さんにしてね! ぜったいだよ!」

 「うん! ぜったい! ぼくが――になったらね!」』

 あーちゃんアキナのことだよな。

 もしかして一目ぼれってのは――すると縁の鏡が光り輝き映像を投射した。

 そこには美術室の中が映りだしている。


 「どうやら縁を見届ける必要があるようだな。念のため妖怪石を用意しておけ展開次第では必要となる」


 「どういうことだ妖神様?」


 「すぐにわかる良く見ておけよ。その行動次第でこの縁の質が変わるからな」


 「すいません」


 アキナが美術室に入ってきた目当ての男はメガネの優しげな印象をうける男子学生。


 「あれ? 妖神様アキナの声は人間に聞こえるのか?」


 「声に妖力を込めれば可能だ。仮にも妖怪の端くれだからな」


 「何の用でしょ――」


 「好きです! 一目ぼれです! 私の想い受け入れてもらえますか?」


 「あーちゃん――」


 「けーちゃん――なんだろう――何かわからないのに涙が」


 アキナの目から涙があふれだす。


 「この絵って!」


 「小娘の絵だどうやら縁者だったようだな」


 そんな残酷なことがあるのか。

 これじゃあ執着しか残らないじゃないか。


 「あーちゃん。この日を僕はずっと待っていたんだ。何度も何枚も君の絵をかいてつながりを深めて、いつか君に幻影でもいいから会いたくてあーちゃん僕あの時の約束を果たそう。今日は僕の18才の誕生日僕のおよめさんになってくれる?」


 「けーちゃん――うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」


 アキナは苦しみだし体から黒い何かが漏れだし体に闇が張り付き始めた。


 「どうしたのあーちゃん!?」


 「何が起こったんだ妖神様!?」


 「小娘の過去の記憶が一部蘇りこのひょろガキと別れる未来を想像して悪霊化しかかっておる!」


 「どうすればいい妖神様?」


 「すでにわしは口にしたぞ!」


 「これか! 汝らの縁に力を分け与える!」


 俺は妖怪石を掲げた。

 すると光がアキナの映像に飛んで行った。

 後から聞いた聞いた話だがこの縁の鏡にて投射された映像は現実につながっているそうだ。


 「あーちゃん……」


 「ごめんね……けーちゃん……私このままだと悪い存在になっゃうの……だからさよなら……」


 アキナは白い光に包まれ浮き上がりした。


 「いかないで! あーちゃん!」


 二人の瞳から大粒の涙がこぼれる。


 「でも……よかった……いつもの……大好きな……けーちゃんで……最後に……大好きな……けーちゃん……告白され……ちゃた……ちゃん……約束……覚えて……くれて……たんだね……うれし……かった……」


 「妖神様一つ頼みたいことがある」


 「こんな時にか?」


 「こんな時だからさ」


 「まあいいだろう聞いてやる手短にな」


 「あれを――」

 

 「まあよい酔狂な奴め」


 「じゃあ……いくね……けーちゃん……」


 「僕も連れて行ってくれあーちゃん!」


 「ふふ……ダメ……だ……よ……けーちゃん……私は……ある……べき……ところ……へ……行く……だけ……けーちゃん……そっち……側……にいて……」


 「あーちゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 アキナは光に包まれ消えてしまった。


 「あーちゃん……この絵は……」

 

 帰路につく俺に妖神様は言葉を放つ。


 「小僧一様聞いてやるなんでひょろガキの絵をわしに描き直させた?」


 「あのままじゃ可哀そうな気がして……」


 「甘っちょろいことを! そもそもなこれは今はやめておこう帰るぞ小僧!」


 こうしてアキナの私最高の成仏作戦は成功に終わった――

 アキナは光に包まれ消えてしまった――

 それは悲しいことのようで――

 また幸せのようでもあった――

 二人の想いは紛れもなく本物で――

 アキナは多くの記憶と知識を失っても想い人のこと忘れる事はなかった――

 それはきっとどれだけ失おうとも失うことができない彼女の一番大事な想い――

 だから俺は彼の描く絵に二人の願いを込めて妖神様に描き直してもらった――

 二人がまた出会い惹かれあうように願いを込めて――


 裏話008

 八話終了時のこと

 「ところでアキナは何が半端者なんだ?」

 「ああ、あの小娘は実は死んでおらん。事故で魂が抜けて元来の強い妖力で妖怪化した仮の妖霊族だ。満足して妖力が抜けたからな元の体に魂が戻っているだろう」

 「なんだそりゃ絵書き直してもらう必要ないじゃん……」

 「何、娯楽として話にするなら面白い内容になった上には色を付けて報告してやる」

 「そうかじゃああの絵の通りの未来もあるのか」

 「流石にワシ渾身の力で書き直した祝言にはかなわんだろうがな」

 「まさか妖神様があそこまで絵がうまいとは思わなかったよ。できれば和式じゃなくて洋式の結婚式にしてほしかったけどね」

 「無茶言うでない洋式の祝言の作法などわしは知らん。良く知らんもんなんて良く描けるわけあるまい」 :

 けーくんこと敬一郎は想い人である幼いアキナが事故で意識を失い寝たきりとなり失意の日々を送っていたが十歳の時占い師より

 意識のあるアキナと再び出会うにはつながりという思いのこもった行為を積みあげなければ二度と出会うことはない

 といわれ彼は絵を選んだ

 最初はへたくそだったがだんだんとうまくなり多くの人に才能をみとめられ高校生になると絵の制作依頼も来るようになるが彼は年何度かのアキナのお見舞いきてそれ以外の時間の殆どをひたすらアキナの絵だけを描き続けた

 そののちの二人は約束を果たすことになる

 妖神様の絵の通りにはならなかったが二人は最高の結婚式を挙げることになる


次回予告

09縁その九 涙という塩水

執念深いナメクジの妖がツガイと心に決めた男の捜索を依頼される縁屋

しかし聞けば彼女はとある理由で男と別れ数十年寝ていた事が発覚する

探し出した男の家は廃墟で男が死んでいるとわかったが

彼女の最後を飾るシーンが見どころ

彼女何を願いその命を絶ったのか

そして彼女の想い人は

そして二人の結末はいかに相も変わらずの濃厚なドラマが君たちを待っている

君の君たちの心へ感動を――

ただそれだけだ――

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