16

「さて、あの道が六階に繋がる道か」


 入り口側と対照的に現れたのが連絡通路だ。


「どうしよっか、覗くだけのぞいてみる?」


 答えは決まっているが、一応聞いてみた。


「せっかく来たんだしちょっとだけみてみよーよ」


「うい」


 相変わらず暗い洞窟を進み、その先には光が見えた。内装面では変わらないようだったが、明らかに今まで違うところがあった。それは壁に光が灯っており、今まで問題にしていた暗さが改善されていた。


「これは悪くないね」


 だがそれは相手にとっても同じことだ。より身を引き締めなくては。


「ああ、明るくなったし通路も広くなったんじゃないか?」


「私こっちで潜りたいかな、あっちはちょっと視覚的に怖いし」


「うん、これからはこっちでレベル上げしよー」


 初めてくる中層に新鮮な気持ちになりながら歩いて数分経っただろうか。


「…いるね」


 目の先にいるのはボスだった鬼程度に巨大な猪だ。ざっと見て3メートルは超えており、普通に怖い。


「やれるか…?」


「とりまいつも通り始めよう」


熱線ビーム


 俊速の熱線が敵に直撃。はたして丸焼き猪になっただろうか。


「まじぃ…? あんま効いてないじゃん」


「来るよ」


「フッ!」


 能力を発動させ、トラックみたいに突進して来たそいつをどうにかして止めようする。


 しかしどうにも怪しい。初速でこの加速度は今まで体験したことがないのではないか。


 一番近くで猪を知覚している彼は若干遅れてそのことに気がつき、少し焦った。


 彼の武器にぶつかった直後、鼓膜を弾く重音と共にその強大な威力を抑えきれずに、数十メートルぶっ飛んだ。


「きゃっ」


 勢いを殺しきれずに絶えず突進してくる猪をゆっくり見ながら三木の腰を抱き寄せ、残った右腕に纏った火炎を全てバーストさせて、なんとか回避する。


 冷や汗が頬を伝ったのを感じた。あんなものをオレや三木が掠りでもしたら容易く腕が潰れそうだ。


「ビームを続けろ、オレがアレに近づいたら逐一中止するように」


「あっ、わ、わかった。熱線!」


 まだ少し距離がある。その間に三木は能力を浴びせ続ける。


 流石に多少はダメージを受けているようで、その熱で苦しんでるのがわかる。熱線を喰らいながらも進み出しのを認知し、オレも同時に走り出す。


 ポケットから取り出しておいた二つの火玉を左右の手で潰し、赤熱化。正面に向かって走り続け、接触するギリギリで地面に対して再び全部の火を炸裂させる。


 文字通り爆速で宙に浮いた身体を猪は捉えることはできず、さらに間髪入れず熱線が飛んでくることに加え、オレも上空から炎を浴びせて挟み込む。


 火を失った右手で剣を抜き、次なる一手へ思考を巡らせ、三木たちの方向を見る。


 三木の能力に耐えながら、またしても突撃を素早く試みているが、立ち上がった堂島が彼女の隣に現れ、スイッチを切り替えるように、熱線と彼が交代した。


「金剛ッ!」


 ミサイルみたいに突っ込む敵を万全の状態で迎え撃つ。今回は後ろに飛ばさせることなく、踏ん張りきれたようだ。


 この隙にガラ空きの横腹を斬りつける。深く刃が入り込みはしなかったが、火が通ったため幾分か斬り込みが少しは食い込んだ。


 手を休めることなく続けてその傷跡に火炎を噴き込み、さらなる深傷を狙う。


「沖野! 熱線がかなり効いてる。そろそろいけるぞ!」


 バックステップで堂島の元へ下がり、顔面から状況を見る。


 度重なる熱線なの影響で顔から肩に至るまで、酷い火傷と黒く炭化した肉が覗いていた。眼球に至ってはドロドロに溶けており、既に視界は真っ暗だろう。


 知覚できない世界の中でこいつはただ暴れ回って、近づくかもしれないオレたちの存在に怯え、精一杯の足掻きを見せている。


「堂島、熱線で呼び寄せるよ。隙に応じて顔らへんに攻撃ね」


「おう」


 オレは立ち位置を三木の隣へ移し、その時を待つ。


「熱線!」


 放たれるビームが猪の身を焼き尽くすが、その攻撃はオレたちの場所がわからないこいつにとって、貴重な情報となっている。


 熱線が来る方向へ迷いなく猛進。


 速度が足りず躱しきれない三木を連れて、残った腕の火を発動し回避する。


 勢い殺せず壁に激突したこの隙に、堂島が金剛と同時に大剣を振り落とす。鼻から顎の根本に入ったその剣はスムーズに顔の大半を削ぎ落とした。


「…ふー、緊張したぁ」


「レベルが違うね、文字通りに」


「これがレベル一か…? 複数相手になるとだいぶきついぞ…」


「強さ違いすぎ。ボスより強いんじゃない?」


「その辺の敵がボスより強くていいのぉ…?」


 これはよく考えて迷宮に潜る必要があるな。流石に命の危険を強く感じさせる相手だったし、おそらくオレ一人では火力不足で、苦戦を強いられて、同じ時間で狩りきれないかそもそも倒せなかったはずだ。


「流石にもう戻ろっか」


「ん、そうだね」


 強敵の連戦続きで疲労が溜まったことだろう。今日はもう引き上げる。


「にしてもよく首から斬らなかったね堂島」


「ああ、あの手の獣は脊椎が頑丈そうだからな」


「いいね、よく気づいたね」


「ねぇねぇ、私のビーム全然効かんかった…。自信無くしそう」


「レベルと体格差がある敵には耐えられてんな、でもオレの攻撃と比べてよ。三木の能力はちゃんと効果的だし現時点かなり重要だよ」


「えーそうかなぁ? へへっ」


「すぐ調子乗んじゃん、言わんかったらよかったわ」


「は? ひどいんですけどー」

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