11 光正義
この世界に案外慣れたもので、朝起きてそれからすることは日本にいた時となんら変わらない。洗面所に行き、湧き出る水を掬って顔を洗い、粗悪な歯磨きで歯を磨く。
あくびを噛み殺しながら朝食を取りに食堂へと向かう。いつもと違いそこにはまだ誰もおらず、貸切りしてるみたいでちょっと得した気分になる。
やはり昨日のことが関係しているのだろう。
パンにハムと野菜を挟んで簡単なサンドイッチを作って一口かじる。城のご飯なだけあり、やはり味は良い。
一人優雅な気分で食べていると、光が姿を見せた。
「おはよう沖野くん」
「うん、おはよ」
彼と話すのは珍しいことであり、二人きりの状況でなければ起こりえなかっただろう。そしてオレの隣に腰掛け食事に手をつけ始めた。
「それにしても人いないね、やっぱり初めての迷宮は刺激が強いよね」
「だね、流石にあれにはびびったよ。光くんたちは結構前から潜ってたでしょ」
「あはは、やっぱわかる?」
光はこちらの顔をのぞいて苦笑いした。
「初めて小鬼に遭ったときはすごい怖かったなぁ。びびってすぐに能力使っちゃって倒したんだ」
その言葉に昨日三木に彼が投げかけた言葉に矛盾を感じた。優しさゆえに嘘を吐いたことが今わかり、こいつほんといいやつだなぁと思う。
「わかる、てかあのキモいの小鬼って言うんだ、知らんかった」
「城の人がそう言ってたよ。そういえば真島くんは最初ゴブリンって言ってたな。そうゆー名前ってわかんないよね最初は」
真島が誰を指すのかわからないが、オレと同じように思っていた人もいたみたいだ。
「オレまだ小鬼しか遭ってないけど、やっぱ他にモンスターいる?」
「もちろん、階層によって結構固定されてるね。上層なら小柄なやつが多いかな。あ、小鬼とか人型よりも、犬みたいな四足歩行のコボルトみたいなのに気をつけたほうがいいよ。慣れてないとやりづらいし、力も強いから」
「ほーん、いいこと知ったわ。コボルトとかね」
「中層から下はまだ行くべきじゃない。あそこから別次元だよほんとに」
「まじ? どんな感じなん」
「目に見えてわかるくらいの能力を使ってくるかなぁ、火吹いたりすんごい怪力とか。あ、群れを作るのと単体で行動するタイプにわかれて、絶対単体のやつを舐めちゃいけないよ」
「おっけー肝に銘じとく」
オレよりも経験が豊富で強い彼の助言を心にちゃんと留めておく。
「ねぇ、日本に帰れると思う?」
会話がつまずき、オレは彼に現実的な質問を唐突に問うた。
「…どうだろう。難しいだろうけど希望がないわけじゃないと思う。僕は正直結構いけるんじゃないかと思ってる」
「へぇ、意外だわ。てっきり無理って言うかと」
「結構調べてるんだよ? その上で僕の意見はこうだよ」
「おお、いいね、希望持てるな。光くんにもう全部任せちゃいたいわ。まじ頼りになる感じする」
「もー冗談やめてよぉ、はは」
わりと本気で彼に全部任せてしまいたい。めんどくさいこと全て。
「食べ終わったしもう部屋戻るわ、そろそろ準備しなきゃ」
皿の上には何も残っていない。席を立ち、光にそう伝えた。
「あ、うん。じゃあまたね」
「ん、また」
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