12 迷宮へ

 食後、四人部屋に戻ると三人は目を覚ましていた。暗馬はいつもそれほど起きるのが早いわけではないため、普段と変わった印象は全くないが、残りの二人は違う。


 いや、堂島ももう大丈夫だろう。彼はそんなに弱い人間じゃない。


 三木はと言うと、微妙なところだ。元気がないように見えるが、とは言いつつも、重症に見えるほどでもない。


 少なくとも、彼らがオレが済ませたように朝食を終わらせてからではないと、今日の予定は何もわからない。


「おはよ、朝ごはんだよね?」


「ああ、今からな」


「おっけー、じゃあ後で」


「おう」


 暗馬を除いて二人は食堂に行った。この暇な時間は適当に過ごして潰そうか。


 ベッドに横になってしばらくの時が過ぎた頃、扉が開いてオレたち四人全ての準備が完了した。


 迷宮の入り口前。ここまで来たはよいものの、やはり三木のことが気がかりだ。何もしないのなら部屋に篭っていてほしいのだが、どう考えているのだろう。


「三木さん、いけるの?」


 オレの言葉に複雑な表情で頷いて意思を伝えた。


「じゃあ行こうか」


 不気味な大気を放つその迷宮に再度足を踏み入れた。


 今回の目的は一階層よりも下層に行くこと。目印に沿って進んでいると、階段が見えるらしい。とりあえずそこまで到達したい。


 昨日見た光景だ。薄暗く、設置されたランプのようなものが、迷宮内をぼんやりと照らしている。


 訪れるのは二回目だがなんだかんだ少し時間が経ったこともあり、今なら多少の余裕を連れて歩みを運ぶことができる。


 しかしやはり、常に危険が伴うもので、早速敵が視界に入ってしまう。


「まだバレてないね、三木さんいけそう?」


 遠距離から攻撃する能力は今いるメンバーでは彼女から適任だ。他二人は完全に近距離と言っていたから。


 緊張した面持ちをここに入る時から崩さない三木は、未だ殺すことを躊躇っているようにも見える。昨日は彼女にとって色々なことが起こった。


 しかし、光正義の言葉やこの先の自分の未来について考える時間ができたはずだ。


 生き物を殺す罪悪感とか、その辺の倫理的な問題はある程度覚悟を決めて解消されたのではないかと推測する。極限状態に置かれて、自分の死と敵の死を天秤にかけた時、間違いなく人は自分を選ぶ。


 平和な日本で育ったとしても、その動物的本能は変わらないだろう。


 残る障害は昨日の戦闘で経験した死の恐怖。しかし、それは光と時間が整理してくれたはず。さて、どう転ぶか。


 ふぅ、と目を閉じて息を吐き、真っ直ぐと小鬼を見つめた。


「うん、やるよ」


 細い右腕を差し出し、狙いを定める。


熱線ビーム…!」


 赤々と肌を焦がすほどの野太い熱線が走り、その熱気が頬を撫でた。小鬼を消滅させて、文字通り消し炭にしたのだ。直に当たらなかった足は、彼女の能力の発する高熱で丸焼けて、非常にグロい。


「……やっちゃった」


 彼女の能力に当てられたその肉からは香ばしい香りが漂っている。別に全く食欲が掻き立てられる訳ではないが、こんな化け物でもこういう匂いはするんだなと思った次第だ。

 

「うわぁ、焼肉みてーだ」


「…ちょっと? 初めて殺してふかーく心を痛めてたのにそういうこと言っちゃう?」


「ああごめん、つい」


 死骸のことはもうどうでもいい。三木の能力をこの目で見るのは初めてで、この破壊力と発射速度はバカみたいに強いと見る。正直あまり彼女に舐めたことを言うのは控えたいくらいには。


 しかし発動には条件が必要と思われる。能力名の発唱と手を照準として扱うこと。おそらくこれらが発動条件だ。


 ほぼ全員の生徒の間で、能力の情報や条件は言うべきでないのが共通認識として生まれている。オレ自身も教えたくないからよく理解できるし、この認識は必然的に出来上がったのは納得だ。


 同じパーティだとしてもそのルールは有効で、大して彼らの詳細な能力を知らない。だから、こんな戦闘の場面で直接読み取るしかない。それらの把握は彼らにうまく指示を出し動いてもらうのに役立つため、逐一分析する必要がある。


「よくやったね三木さん、これならもっと安全に迷宮をうろつける。ナイスよナイス」


「ほ、ほんと? なら安心だぁ…」


 三木は先ほどとは大きく異なり、緊迫感をなくして、ホッと胸を撫で下ろした。


「この調子でいこうか」

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