15

「んーいいね」


 剣撃の時とは違い、炎に耐性があるわけではないのがわかった。そもそもこんな巨体から見ればオレなんか子ども同然の体格だ。その差は主に肉体の面で考えると、オレ程度の筋力量でこいつにダメージを負わせることができなかったのはわかりきっていた。


 やはり道中の雑多とは比較にならないな。巨躯もバカみたいなパワーも、オレたちレベルゼロからすれば圧倒してしまう。


 焦げた表皮と痛々しい火傷跡から、こいつに対するオレの攻撃は魔法一択だ。


 次の攻撃だ。


「三木!」


「うんっ、熱線ビーム!」


 オレの炎が効果的なら、もっと威力の高い三木の能力ならば、さらに痛烈な傷を与えるはずだ。


 そして最初の熱線を見たならば、アレは必ず防がねばならないのは深く理解しているだろう。


 想定通り大剣を壁としてそれを防ぎ、オレは意図せず初手の堂島と同じように追撃を加えようとする。


 一瞬、いやオレから見ればそれは緩やかに映るのだが、鬼の顔に笑みが張り付いていた。射程距離に入ってはいないが、即座に攻撃を中断してその場で火を発動し、その反動でクイックターン。


 直ぐ後に敵は大きく口を開け、深く息を吸い込み、爆発したかのように咆哮。


「うっ!」


 その衝撃波を伴う轟音は、それなりに距離を取っていたオレを殴りつけたのだ。それによるダメージはあまりなかったが、体勢が崩れてしまう。


 その隙を狙って瞬時に攻撃に転じる様子を見せた鬼だったが、オレは後ろから走ってくる男の気配を察知し、魔法を一瞬遅らせることを決めた。


「フンッ!」


 オレを殺すための攻撃を堂島が大剣で受け止め、その瞬間炎を噴き出し、一気に敵へと近づき、そして──。


 ブォォン!


 火が鬼の体を包み込み、耳をつんざく破裂音と熱気が後手に襲った。


「退け堂島!」


 その一声で考えなしに後方へ飛び込んで、また間隔を空け、同様にオレも反動で同じ状態だ。


「三木!」


「熱線!」


 さらに三木の能力が襲いかかり、なすすべなくその熱線にあてられた。


 膝をつき、立っていることすら満身創痍の様子を見て、堂島が地を蹴りその太い首狙って斬首を試みる。いや、おそらくそのままの攻撃ならば、オレの斬撃を容易く越えるにしろ、絶命に至るまでにはならないだろう。


 だが彼にはまだ手が残っている。


「金剛ッ」


 一瞬肉体が鋼に光り、爆発的に振るう速度が一気に加速。先ほどまでのとは比べ物にならないくらいのその威力は、ギロチンのようにスパンとヤツの首を胴から引き裂いた。


「終わりだね」


「ふぅ、予想以上の強さだったな…」


 安堵から息を吐いた堂島は、重そうな大剣を背中に納めた。


「にしても硬かったねぇ、耐えすぎじゃない?!」


「三木のビームあんだけ耐えるのはちょっと予想外だね」


 ピカイチの火力を誇る三木の能力を二度防ぎ、一度耐えたくせに死に至らなかった。堂島の身体強化と金剛の合わせ技で劇的に火力を上げた攻撃で、なんとか仕留めきれたが、さすがに時間のかけすぎだ。


「たぶんオレら召喚された側だから勝てたんであって、こっちの住人なら厳しいそうな気がする」


「転移特典の能力ありきだからな、勝てたのは」


「そう考えるとこっちの人たち逞しいねぇ…」


 この世界の人々ならば、全員が有益な能力を携えて生まれるわけではない。強力な能力を以てトドメを刺せたのだから、自分たちの力に感謝しかないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る