22
「おいおいおいおい! うそだろ?!」
そいつの存在に気づき始める生徒たち。とてつもない恐怖が彼らを襲い、そいつから逃げようとするもそれは実現しない。
完全に塞がれているのだ。逃げ場はない、八方塞がり。
「もーだるいっ」
姶良は自分の後ろにいる生徒たちが騒ぎ始めたのを感じ取り、不満を滲ませた。
「殺すんじゃない! 城まで追い込め!」
声を張って迅速に指示を出す彼女の言葉に困惑する二人だが、すぐにその状況を飲み込む。
「ヤベェぞ来てるって!」
「おい押すんじゃねぇよ!」
彼らはパニックに陥った。誰もが我先にと前に立ちたくて、必死の思いで人混みをかき分ける。安心できる場所などあるはずもないのに。
一人の生徒が抵抗からか、カタツムリを狙って能力を放とうとする。
「し、死ね!
火の矢が敵を直撃し、傷を与えたかと思ったら、そうはならなかった。
「え? なんっ」
その攻撃はカタツムリに着弾した直後、減速することなく急激に向きを変え、能力を放った彼の横にいる生徒を焼き尽くした。
即座にオレは大声を響かせた。
「攻撃すんな! アレは反射して来んぞ!」
この敵に向かう攻撃が、オレとあまり位置を変えない姶良に危険を及ば及せないようにするためだ。
着実に巨人を押し込むことに成功している彼らだが、それでもカタツムリの進行速度を上回るには至っていない。
攻撃が効かずに跳ね返してくる以上、手の施しがないように見えるが、どうにかしなくては、このまま全滅するかもしれない。
あまりしたくなかったが、命には変えられないと決断し、腰につけている剣を持つ。
「おい、攻撃は効かないんじゃ…」
話しかけてくる雑多を無視して、その剣を自分の意思で液状化させ、リボルバーに変形させる。弾倉から六つの弾丸を取り出し、一つを残しポケットに仕舞い、そしてその残りを握り潰す。
左腕が鋼になり光沢を帯びた。
前に出てカタツムリに近づき、床に手を遣る。徐々に鋼の壁を構築していき、それはオレと敵を遮断する障害となった。
腕が元に戻り、付与した鋼の力がなくなったことを尻目に、果たしてそれは効果をなすのかじっと見守る。
「無駄か」
カタツムリに触れた部分から水蒸気を伴い、その壁を溶かし尽くして、まるで邪魔などなかったかのように堅実に進んでくる。
遅く見える世界の中で、あれこれと策を考える。
設置型の魔法で攻撃する手段が頭をよぎったが、すぐに払拭する。こいつの能力がはっきりとわかっていない以上、仮に攻撃を加えて、それがオレに思いもよらないような反撃をされたら、危険となる。
つまり、この壁が突破されたことにより、手の打ちようがないことを悟ったのだ。
焦りが生まれる。一か八かで巨人の通り過ぎるしかないか。決断を急がれるが、最善を思いつくことは無いこの難しい状況。
リスクを負うべきかと悩んでいたその時だった。
「お、おいあれ…」
カタツムリの動きが止まった。
なぜだろうか。それはとても惨い理由だった。
「うぇっ」
「冗談じゃない…」
火の矢に焼かれた死体の前で、そいつは止まったのだ。黒い二つの点がそれを見つめ、口が現れそれをついばんだ。
その残酷な光景から、吐瀉物を吐き出す生徒たちもいる。
だが、同時に光も見えた。
問題はオレがそれを最初に言い出したくないことだ。今はただ、波風立てずに、目立たないように。
次第に距離は縮まり、焦燥に駆られる彼らの中で、ある一人の生徒が動いた。
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