ハードモードで異世界転移
やま
1 異世界転移
クラスはいつものように騒がしく、仲の良いグループらが固まって談笑していたはずだった。その様子をつまらなそうにではないが、普段通りに寝たふりをしながら机に突っ伏している一人の生徒だけが現状を何も知り得なかった。
いや、実際は寝たふりのつもりだったが、意図せず本当に寝てしまっていたと訂正しておこう。
寝起きの重い瞼を開けるとそこは知らない場所だった。赤い絨毯に大理石で出来た荘厳な壁。色とりどりの髪を持った、アジア人には遠く似つかない人たち。見知っているのは、三十人程度の名前も覚えているかどうか怪しいクラスメイトたち。
状況に混乱していながらも、寝起きの脳が功をなしたのか、焦ることなく現状をゆっくりと冷静に考える。
「……んあ、異世界召喚ってやつ?」
この辺鄙な事態には見覚えがある。昔というほどではないが、前に流行ったアニメとかそういう類のものだ。
恥ずかしい話だが、サブカル好きなオレにとっては中学生の頃に、幾度か脳内で想像していたことで、それが実際に今起きてしまっている。
「ステータス」
お決まりである意味お約束でもある、万能のこの言葉を呟いてみたがなんの変化も訪れない。
「能力、表示、能力表示、鑑定、能力鑑定、ステータス表示」
適当に言ってみると運良く当たりを引いたようで、目の前に文字が浮かび上がった。
──Lv:0
能力:視界遅延 Lv:1 言語理解
武器:変形武器 Lv:1
表示された能力はどれも端的すぎてよくわからず、全くもって理解に苦しんだ。そもそも全然強そうな名前じゃないし、こんなんで異世界を生き残れるのか不安でしかない。
しかし、能力の発動は体に染み付いているようになんとなくわかった。
──世界が止まって見えた。否、視界に動くもの全てがまるで動作が止まっているかのように、ゆっくりと見える。
自分の体が重く感じ、まるで泥の中にいるようだった。
初めての感覚に興奮しつつも、現状の分析を行うことにした。遅く見える世界の中であちこちに目を遣り、情報を集める。
生徒たちは驚いた表情を隠せずに、ある一つの人物を見ていた。質の良さそうな衣服に身を包み、宝石が施された指輪や王冠を被っている少し年老いた男性だ。
口を開いて何かを話しているようだが、能力発動中は何を言っているか聞き取れなかったため、解除して全員と同じように耳を澄ませる。
「──まあつまり、想定以上の人数に我々も驚いているが、悪しき敵と凶悪な魔王からわが国を守ってくれ!」
つまりそういうことらしい。
「ステータス表示と言ってみてくれ、君たちの能力を確認できるはずだ。それを前にいる者らに伝えて記録させるんだ」
その言葉を聞く限り、この場にはオレの固定観念である異世界特有の鑑定スキル持ちはないようだ。
クラスメイトたちは言われた通りにやるが、うまく理解はできていないようだ。しかし、一部の者はオレと同じように、興奮を隠せずに一喜一憂し、多少の視線を集めていた。
少しずつ自身の能力が分かり始め、それを前の人たちに伝えに行っている。少し並んでいる列の後ろに立ち、聞き耳を立てる。
オレと似たような感じというよりも、能力や武器を多く口にしているようで、自分の力が弱いのではないかと心配になってしまう。それ加えて、その名前もなんかカッコよさそうでもあり、多少の嫉妬を孕みつつも今度はオレが伝える番になった。
「沖野です。能力は水と炎を操ることで、武器は炎の短剣です」
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