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「サチュリヒ王! 彼らです!」


 能力の伝言も終盤に差し掛かり、唐突に記録係が興奮した様子で声をあげて、紙を王に見せつける。


「うむ! やはり居たか、それにこんなにも数が多いとは…」


 彼らが誰のことを指しているのかはすぐにわかった。


「セイギ、トシナリ、ユウタ、マユミ、キョウコ! 前に上がってきてくれ」


 なんとなく予想はできていたメンツだ。憎らしいほどのイケメンでクラスの中心である光正義。お調子者で彼の親友である中俣雄太に、モテ女の姶良真弓。


 しかし意外な者も含まれているようで、後の二人はオレの印象には残っておらず、おそらく目立たない生徒たちだ。


「君たちは強力な力を授かった『称号持ち』である。そうとわかったからには好待遇で迎えさせてもらうぞ! さあ、向こうの部屋へ」


 よほど彼の存在が嬉しかったのか、かなり興奮して奥の部屋へ案内する。


 しかし、そこで声を上げるのがクラスの主人公、光正義だ。


「ま、待ってください! それなら僕たち以外のみんなはどうなるんですか?」


 オレも気になっていた質問だ。こいつらだけが必要ならば、大多数の生徒たちは不要ということになってしまう。そんなことが起きれば、オレの立場がなくなってしまうし、最悪の事態も考えられる。


 だが、そんなことにはならないようで、それに王は返答した。


「もちろん君の仲間も丁重に案内する。なんせ異世界人は皆珍しい能力を持っているからな。安心するといい」


「そういうことなら…」


 王たちと五人は奥に進み、オレたちは取り残されてしまった。


 二人目の偉そうな格好の男性が、王の位置に立った。


「さて、想定よりもかなり多いが、君たちも我々の立派な客人だ。そうだな、今からグループに分かれてもらおう。指示通りに動いてくれ」


 集めた能力を記した紙を見ながら、ゆっくりと名前が呼ばれていき、九つの班ができた。人数は統一されておらず、三人の班が十つと二人が二つ。


 オレは二人で構成された班に配属され、そのもう一人はなかなかがっしりした体型の男だった。


 堂島大次郎。名前が呼ばれた時にそう聞いたため、それが彼の名前だろう。


 グループ分けが終了し、さらに案内されたのはそれなりに豪華な四人部屋だ。違う班だがもう一つの二人組も同じところに通され、どうやらこの四人で一つの部屋を使うようだ。


 今日はもう遅いからと言われたため、明日まで何もしないだろうが、この静まり返った部屋でどう行動するべきか。


「とりあえずベッド決めよっか? 好きなとこ選んでよ」


 仕方なく一旦この場をまとめ上げるために、黙っていた彼らにそう言い、各々が少しの反応と共にベッドに腰を掛ける。オレは堂島に端っこを譲られ、中に彼とヒョロそうな男の配置になった。


「あー、そう、自己紹介でもしようよ。部屋同じだし三人のこともっと知りたいしさ」


 この場のまとめ役を再び引き継ぎ、何かしらの彼らの情報を引き出そうとする。なんせ名前すら覚えてないため呼ぶ時に大変だし、一緒の部屋になるなら仲良くしておくべきだ。


「オレは沖野。漫画とか読むのが好きかな。いきなりこんな場所にきてめっちゃびっくりしてるけど、なんとかして日本に戻りたいと思ってるよ」


 当たり障りのない言葉を選び、仲良くなれそうな雰囲気を醸し出したつもりだ。目線を堂島に運び、次の自己紹介を促す。


「堂島大次郎だ。柔道部でまあ、そうだな、体を動かすのが好きで小さい頃から柔道やってる」


「…暗馬だ。よろしく」


 堂島と対照に無愛想に答えた暗馬はテンション低めでクールぶってる奴という印象だ。

 

「あ、えっと、三木桜です。あの、本とか好きでいっぱい読みます」


 とりあえず全員の名前を覚えて、親睦を深めようと思ったが、暗馬だけがベッドに入り込み、これ以上話しかけてほしくなさそうで、仕方なく三人で椅子に座って会話を展開した。

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