追放された性格最悪魔術師は忠犬剣士に全肯定溺愛されるようです

弓長さよ李

第1話『追放されてしまいました!』

「魔術師リュシオル=エンバーズグロー!あんたを俺たち『黄金の夜明け』から追放する!」


「はぁ?」



 野営明けのテントでリーダーのドーン=ブライトが口走った言葉に、思わず不機嫌丸出しの声が出た。


 ボクを追放?なにそれ?冗談?聞き間違い?



「追放ってのはあれ?パーティーに要らないメンバーを追い出す、的な?」


「ああ、もう俺たちはあんたには付き合いきれない。みんなもそう言ってる」



 聞き間違いじゃなかった。じゃぁ冗談か。

 ドーンの後ろでは、重戦士のグラスと格闘家のミラーが気まずそうにそっぽを向いている。

 おい、人の顔くらいちゃんと見ろボケ。



「なに?オマエらボクを追放できるくらい強かったっけ?昨日のダンジョンでも上級モンスター相手にずいぶん苦戦してた気がするんだけど、記憶違いかな?あいつを魔法で倒したの誰だっけ?まぁ魔法使えるやつ僕しかいないけど」


「それ!」


「は?」


「あんたのそういう嫌味ったらしい感じがもう我慢できないっつってんだよ!」


「はーあ?」


「はーあ?じゃない!昨日もあのモンスター倒した後、やれ身の程知らずだの、やれ攻撃がしょぼいだのと文句ばっかり言ってきやがって!しかもその夜!飯にまで文句つけることねーだろお前全然料理しねぇくせに!」


「いやいやいや、ご飯には文句言ってないじゃん。あく抜きの時に片目瞑るの、集中してるアピールみたいでキモいねって言っただけで」


「同じだわ!なんで作ってやってるのにそんなこと言われなきゃいけねーんだよ!?」


「は?そういうウザいアピール癖が抜けないまま生きてたら周りを不快にするから忠告してあげただけなんですけどー?」


「それでイチイチ不快になるのはあんただけだよ!」



 いやそんなわけないだろ。

 ボクとドーンが言い争ってると、グラスとミラーも口を挟んできた。



「いや、正直言ってリュシオル殿の嫌味はかなり不愉快ですよ、自分も先日鍛錬中に汗臭くてみっともないから見えないところでやれって言われましたし」


「だな。俺もあまり良い気はせん。先日もドーンが後輩冒険者を励ましているのを見て思い上がりの自意識過剰丸出しだと言っていたが……いくらなんでもいくらなんでもすぎると思うぞ」


「はーーーーーー!?!?本当のこと言って何が悪いんですかーーーーーー!?!?」



 思わぬ四面楚歌にボクは声をあげて抗議する。ちなみに上がグラスで下がミラーね。一応。



「いや、本当のことではないだろ」


「本当ですーーーー!!逆にオマエらはなんであんな人目につくところで頑張ってるアピール俺すげーアピールして恥ずかしくないわけ?弱っちいくせに」


「おまっ!俺たちは一応そこそこ結果出してて全員A級だぞ!弱っちいはないだろ」



 弱っちい、に反応したのかドーンの眉毛がピクッと上がる。ふん、ブライトだけにプライドだけは一人前だ。


 でも……



「結果出してるのはボクのおかげでしょー?て言うか、あーそうか、みんなA級だっけ?」



 そう、A級。まぁ確かに世間的には冒険者の最高峰って言われる立場だし、自慢に思っちゃってもしょうがないのかなー?とは思うけど?


 ボクは軽く咳払いすると、ローブの袖を捲って腕を見せる。きらり、と黄金の腕輪が朝の光を反射した。



「悪いけど、ボクS級なんで」



 そう。S級。冒険者をはじめとした様々な職業の中でも、突出した能力を持つ人間だけに与えられる称号。ちなみにこのボク、リュシオル=エンバーズグローを除くとS級冒険者は5人だけだ。もちろん目の前のアホどもではない。


 つまり、つよつよ魔術師なのである。

 

 この雑魚雑魚パーティーにだって頼みこまれて仕方なーく入ってやったんだ。そりゃまぁ、飯はうまいし気に入ってはいたけど?スカウト枠であって立場的にはボクの方が上だし?


 だから今更、追放なんてされる所以はない。



「ってことで、ボクから見たら君らって別に大したことないんだよね〜?まぁなんせ?ボクはS級なんで?A級で頭打ちの君らとは根本的に出来が違うので〜?で?誰を追放するんだっけ〜?」


「あんただ、リュシオル」


「おい!」



 せっかく懇切丁寧にボクがこのパーティーの中でどれほど優秀で不可欠な存在であるか説明してやったというのに、話聞いてなかったのかドーンのやつ。胸の辺りがムカムカして、思わず爪を噛む。やべ、血ぃ出た。



「あのさぁ?ボクがいなくなってやってけると思ってるわけ?S級魔術師だよ?回復とかその他全般、魔法が絡むことはだいたいボクがやってるんだけど?お前らが弱いせいでカスみたいな闘い方して、ざっこいキズ作ってきた時に誰が直してやってると思ってるわけ?」


「すでに回復魔法を使える僧侶を内定済みだ。お前に内緒で何度か会ってるけど、若いけど素直で良いやつだよ」


「な!情報共有はしろよ!てかう〜わ〜、素直で良いやつ、とかさぁ……『都合が良いやつ』と『良いやつ』をごっちゃにしてない?自分らにとって良い思いさせてくれるから善人みたいな発想まじで身勝手さが出てるわ〜!」


「少なくともお前は良い奴ではない」


「論点すり替えウザ。てか、魔法系の罠の解除とかはどうすんのさ」


「それも大丈夫とのことだ。もしもの場合は魔道具もある」


「は!魔道具なんて高い上に魔法より全然使い勝手悪くてコスパ最悪じゃん!」


「別に金に困ってないんでな」



ぐぬぬ。



「じゃ、じゃぁ戦闘は?ボクがいるおかげでずいぶん楽になってるはずだけど?さっきも言ったけど昨日の上級モンスターだって……」


「あのな!あんたさっきから俺らが勝てなかったら自分が動いた感出してるけど、あの時まだ俺ら普通に戦ってたからな!?あんたがトロいっつっていきなり大技ブッパしたんだろうが!!」


「えーだってとろかったんだもん。ボクは任されてた碑文の解読、秒で終わってたし」


「じゃぁサポートとかをしてくれよ!なんでいきなり上級火炎魔法なんだよ!」


「その方が早くない?」


「それで俺らが死んだらしょうがないだろ!」


「い、いやそうだけどさ、結局倒せたんだしオーライじゃん?」


「じゃぁ言うけど、確かにあんたがいた方が早く勝てるが、別に俺らだって連携すればあのくらいの魔物倒せるんだよ。多少苦労はするけど、これでもA級なんでな」



 意趣返しのようにドーンが赤く輝く腕輪を見せてくる。ウザ。



「でも時間かかるんじゃん」


「結果オーライなんだろ?勝てれば」


「いや、でもさ苦戦して体力を疲弊するのは攻略の上でも!」


「早く戦闘終わってもその後ずっとあんたの嫌味を聞いて疲弊するんだから同じだわ!!戦闘で疲弊した方がマシまであるぞ」



 なん……だって……?


 やばい。まずい。このままではガチで追放される。なんとかボクの有用性を示さなくては……。


 でも、強さ、魔術知識、回復役……他に何か……何か……

 あ!



「ボク、結構顔とか可愛いと思うんだけど……」

「追放だな」



 そんなわけで、ドーンと他の2人はそそくさとその場を離れ、ボクは森に置いてけぼりを食らってしまった。

 せめて街までは送れ馬鹿野郎……


 そんなわけでS級魔術師リュシオル=エンバーズグロー(21歳)、本日追放されてしまいました。


うえーーーーー!どーーーしよーーーーー!!

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