第14話『でっけぇ剥製~』
部屋の一角に仰々しく飾られたモンスターの剥製──それは、ゴーゴンだった。
さっき戦ったミダース=ゴーゴンとは別の個体。
その姿は、ミダース=ゴーゴンとも普通のゴーゴンとも大きく異なる点があった。
その鱗や翼が、全て宝石でできているのだ。赤、青、エメラルドグリーン、色とりどりの宝石がグラデーションを描いて全身を覆っている。
軽く解析してみると、異質な魔力や後天的変性は感じられない。おそらく、ミダース=ゴーゴンとは違って正真正銘の変異種なのだろう。
ミダース=ゴーゴン2……いや、わかりづらいし安直に宝石ゴーゴンでいいか。ダサいけど。こりゃ、生きてた頃は動くたびにきらきら光を反射してさぞ綺麗だったことだろう。
──生きていたころは金持ちが剝製にするために捕らえ、その金持ちが死んだ後も
よく見れば、宝石ゴーゴンの体を覆う宝石は、さっき一回黄金化を解いてあげたおっさんや、廊下にいたやつらの持っていた宝石と同じ形をしていた。
なるほど、村の連中は盗んで行った宝石はこいつのウロコだったわけね……
サイズ的に上半身だけで数メートルはありそうだし、魔法なしで全身を運び出すのは難儀しそうだ。それに加えて遺跡の中は巨大なゴーゴンが徘徊している。
だから、この遺跡に入り込んだ村人たちはミダース=ゴーゴンに見つからないようにこっそりと、宝石ウロコを剥がして持ち去ろうとしていたわけだ。けれどモンスターの敏感な五感は宝石泥棒を見過ごすことなどなく、結局見つかって全員黄金化。
そうして帰ってこない村人を捜索しに来た騎士団や調査隊もゴーゴンの餌食となった、というのが今回の件の流れだろう。うん、いや、なんていうかなぁ……。
うっわ~~~~~~~~!ダッサ~~~~~~~~~~~!!!
「あっはっはっはっは!」
「何か愉快なことが?リュシオル様が笑っていらっしゃると俺もうれしいです」
「ん?まぁね」
別にアホのルズを喜ばせたかったわけではないのでちょっと癪だけど、これで笑うなって方が無理だろう。
「よーし、説明してやろう!」
何から何まで間抜けなうえにスケールが小さすぎる。
宝石ゴーゴンの周囲には一応人除けの結界とモンスター除けの結界があるけど、人除けの方は経年で隙間だらけ。遺跡内にはトラップがあるわけではなく、脅威と言えばゴーゴン1匹。
つまり別に遺跡としての難易度はそんなに高くないのだ。
村人はともかく王国に認められた騎士や魔術師たちまでわからん殺しであっさりやられて、盗掘者が返り討ちにあっただけのしょうもない事件が大事扱いにまで発展しているとか……
「ま、しょーじき王国の威信も地に落ちるって感じの事件だよね~。黄金化解除したら騎士たち煽ろっと。無能~って」
「まぁ、騎士など所詮は役割を果たすだけのものですし、強く自由で美しいリュシオル様と比べればみな無能というものでしょう」
「……お前なんかちょっと辛辣じゃない?」
「そうですか?」
僕に合わせてるにしてもなんか見下しがねっちょりしてるような……。まぁいっか。
そんなことより、気になることがある。気になるというより、そわそわする。
……宝石ゴーゴンを覆っているモンスター除けの結界、人除けの結界に比べてこっちだけ無駄に厳重なのだ。解きたい。ものすごく解きたい。初めてパズルを見た子どもみたいな気分だ。
人除けの方はダメになってるのにこっちはいまだに全然機能してる。
一般的な結界の上に、いろんな民族の高等結界術が重ねがけしてあって、並みの魔術師なら1つ解除するのにも1年はかかりそうだ。
まっ
「剥がれろ」
ボクなら一瞬で解除できちゃうけど。
ふふっ。ぷぷぷぷぷぷーーーーっ。
いやーー!人間には無関係の結界だし、別に必要なかったけどついでに解除しちゃった~~~!だってしょうがないじゃん?こんなに気合入れて構築された結界、天才魔術師としては解析して解除して見たくなっちゃうじゃん?
せっかく結界を張った昔の魔術師さんも気の毒だなぁ〜!後世にこんな大天才がうまれちゃってーーーーーーー!!はっはっは!
と、まぁ、すでにこの世にいない相手へのマウントは程々にして、宝石ゴーゴンの体も解析しとくか。さっきみたいに聖剣とかの影響かもしれないし──
『きぃいん!!きぅきぅ!』
「おわ!?」
踏み出した直後、ボクとルズの足元を張って何かが宝石ゴーゴンに飛びついた。
『きううう……きうっ』
「あ!ゴーゴンの髪の蛇!」
飛び出してきたのは、金色に輝く蛇……ミダース=ゴーゴンが髪に魂を映した分体だった。
「斬りますか」
「いいよ別に……って遅かったか」
分体は、間髪入れず(髪だけに!)胴体のあたりをぶっつりきられる。今アホのルズの奴、魔力なしで斬撃を飛ばした??
「オマエはなんでそんなに斬りたい星人なの?」
「斬りたい星人……輝ける星よりも二つ名のセンスがいいですね。今後は斬りたい星人のルズと名乗ります」
「質問に答えろボケ!!」
「4つの頃から県の降り方ばかり教えられてきたもので……」
「え?何そういう家?」
そういえば、エストレイアってのもなんだかお貴族様とかにいそうだな……うわ、顔がよくてS級で家柄までいいとかウッザ~~~~~。こちとら孤児だぞ?ボケが。
「あはは、つまらない家ですよ~」
「なにそれ?謙遜風マウント?いるよね~自信満々なくせに自分なんか大してことないって言って回り貶めるやつ。自分ではバレてないと思ってるだろうけど周りはスルーしてあげてるだけでうざいって思ってるけど?」
「ああいえ、そうではなくて。本当につまらない家だったので冒険者を目指したんですよ、俺は。ずいぶん反対されましたが」
「へー」
自分が足りおつ~。そんな気やすく身分を捨てられるなんてたいそうなご身分で。まぁ貴族とか、下らない慣習だらけで気持ち悪そうだし、こっちから願い下げだけどね~。むしろ同情するけどね~。
「覚えていらっしゃらないのですか?」
「は?」
アホのルズは、いつもうるさいくせに妙に小さい声でそう言った。
なに?なんのこと?
「主語がないんですけど~?」
「ああいえ、覚えていないのであればいいんですそれでこそリュシオル様です」
「は~~?なにそれ!もやもやするんですけど~~~~~!?屈めこらっ!」
「かしこまっ、わひゃっ」
こんにゃろこんにゃろ!ほっぺた引っ張ってやる~~~!……肌質がいい!ムカつく!
「言えーーーー!主語を言えーーーーー!!」
「りゅひほるさまのおみみにいれるほろのことでは~~~」
「なんだと~~~?逆らうのか~~~?」
「わひゅれてくらはい~~~~~」
「テメ~~~~~!」
強情なやつだな!こうなったら魔法で……
『きう!きうきうきう!』
おわっと。
甲高い声が耳に響いて、思わず手が止まる。声の方を見ると、胴のあたりで斬られたミダース=ゴーゴンの分体が、半分の体で必死こいて宝石ゴーゴンを引っ張ろうとしていた。当然宝石ゴーゴンの体がデカいので全く動かない。
「あのさー、気になってたんだけどオマエなんでその剥製にご執心なわけ?もう死んでんのに」
モンスター除けの結界が解けたとたんに剥製に飛びついたところを見ると多分、ミダース=ゴーゴンと宝石ゴーゴンは、家族かなんかなんだろう。ゴーゴンの寿命はめちゃくちゃ長いし、こいつらがミダース遺跡で人が暮らしていたことから生きてても不思議じゃない。
が、にしたってなん100年、場合によっては1000年くらいひたすら死体を守るってのはちょっと常軌を逸している。
学術的興味ってやつが湧いてもしょうがないだろう。まぁ、聞いたところでモンスターの言葉なんてわからんけど。なんか『きうきう!』ってまくしたててウケる。
どーしよっかな。喋れるようにでもするか?きもいからやりたくないけど、魔法でできないことは……
「……弔いたかったのではないでしょうか?」
僕が呪文を唱える前に、ルズがぼそりとつぶやいた。
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